前世からずっと一緒になるって決まってたんだ53_怨嗟の闇の向こうから

「で?俺にだけ話したいというのは何なんだ?」

とりあえず状況説明が終わったところで宇髄に引っ張られての窓際。
本当はこの状況で義勇を傍から放したくはないのだが、煉獄に任せておけば大丈夫と説得されての現状である。

もちろん金時の血を引く煉獄は人間性においても腕っぷしにおいても…そして何より誰かを守る時の状況判断その他についても平安の頃から信頼を置いているのだが、それでも一度自分のそばから離れた時に義勇をかどわかされて、あまつさえ死なせている経験から、ぎゆうと離れるのは錆兎がとても落ち着かないので、ちゃっちゃと話を終わらせて、恋人を手の中に格納したい。

なのでもういきなり本題に入ると、宇髄はなんといきなり

「これな、俺が陥れるターゲットになっている時点で、月哉絡みだと思うんだわ」
と、非常に嫌な予測をぶちまけた。


そして、
「まあ、これ見てくれ」
と見せられたのは宇髄の携帯のメール。

そう、つい先頃届いたあれだ。


【貴様だけは死んでも許さん…。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやる…
…覚悟しておけ…】


という文面に苦い顔をする錆兎に、さらに、産屋敷耀哉から転送されてきた桑島老の

『お館様、申し訳ありません。無惨が姿を消しました。
どうやら協力者がいるらしく、その者の手配で今滞在中の国の外に出たようです。
行き先はおそらく…日本です』

と言う報告メールも見せる。


…………
…………
…………
…………

──なんでこれ言わなかった…?


長い長い沈黙のあと、錆兎が感情を押し殺した声で言った。
その固い声音に、あ~…これはさすがに怒っているかぁ…と、宇髄も身をすくめる。

それでもさすがに四天王筆頭として現場のまとめ役を任され続けた身だ。
何度か呼吸を整えて、怒りを押し込めたらしい。


「そうなると、この島に連れてきたかったのは加瀬兄弟じゃなくて、むしろ俺たちだな。
加瀬兄弟はそれに利用されたということだと思う。
お前に対しては自分が手を下すというより善良な一般人から殺人鬼として散々罵られてなぶり殺しにさせたいとか、そんな感じか。

ま、それが前提で話を進めるな。

とりあえず、お前はもうさっきのやりとりで察してるかもしれんが、さっき義勇に聞いたところによると、英二が英一が小麦粉持っていたことで動揺していたのは、英二が小麦アレルギーだからだ。

つまり、自分がアレルギーを持っている…下手すればアナフィラキシーショックを起こして死ぬ可能性もある食材を兄が持っていたということにショックをうけたということだ。
それでまあなんとなく辻褄があったというか…誰が毒入れたかわかったんだけどな」


「…あ~、まあさっきの感じはそんなとこだろうとは思ってたが…
英一はいつも英二にああいう態度取ってたし、隙あれば英二を害したいと思ってたというのもわからねえでもねえし、英一が小麦粉持っている事に対しての英二の言動とかを見ればそうなんだろうな。
で?何故それで犯人が?」
と宇髄は厳しい表情の錆兎の横顔に視線を向けた。


元々端正な顔立ちではあるのだが、こうして真剣に何かをなそうとする時の表情が一番男前だと思う。

綺麗というよりカッコいい。
線の細さのない、限りなく男の側に寄った整い方だ。

そういう時代も超えてきたが、この男を大将として戦を駆け抜けるのは爽快で心沸き立つものがある。
城の奥に引っ込んでいるよりも、戦場、現場に身を置いて指揮を執っているのが似合う男だ。

…と、そんなことを考え思い出しながらいると、凝視しすぎたのだろうか。


──…なんだ?
と不可解そうに眉を寄せる錆兎に、

「いや?ちょっと昔を思い出してた」
と、だけ言って笑ってごまかす宇髄。

それで納得したわけでもなかろうが、今は大事な案件ではないだろうと判断したのか、錆兎は懐からペンとメモを出して整理し始めた。


「まずな、毒を入れることができた可能性のある人物とその場面な」

1.キッチンでコーヒーを淹れる時:宇髄
2.キッチンで宇髄が食器棚からクリープを出すのに後ろを向いている時:英一
3.リビングで緑のカップを手にした時:王
4.リビングで王とカップを交換したあと:英一


「これもあとでカップの残留物を調べればはっきりすると思うが、カップには毒物が2種類混入されている。」
「え??」

「ああ、正確には1種類は特定の人物にとってのみ毒物になりうるモノ…だけどな」
と、その言葉で、驚きに目を見開いていた宇髄は
「ああ、小麦粉だな」
と頷いた。


「そうだ。殺人を企ててた奴は二人いるんだ。
一人は英一。
彼はまあ理由はとにかくとして、弟に殺意を抱いていた。
だから2のタイミングで弟にのみ毒薬となりうる”小麦粉”を緑のカップに混入したんだ。

そして…テトロが混入されたのは3のタイミング。
他のタイミングだと少量とはいっても溶け残って何か入っているのがわかってしまうからな。
どのカップにするかは、たぶん…犯人はあらかじめ英一に連絡を取って計画を練り、小麦粉を混入させるカップを指定していたんだと思う。

理由は…そうだな。
仲間を忍び込ませておいて、そのカップを英二に勧めさせるとか、そんな感じか。
英二とその仲間の間にはほぼ接点がないため仲間には動機がなく言い逃れが出来るしな。

ところが誰が仲間かわからない英一は、別の人間がそのカップを手にしてそのまま英二に渡す気配がないから、カップを持っているのが無関係の第三者だと思い、しかたなくカップを取り戻して自分で英二に渡そうとした。
が、英二は別のカップを手にしてしまった。

そこで飽くまで交換を迫ればさすがに怪しまれる。
自分が入れたのはアレルギー持ちの英二には有害でも自分には無害な小麦粉だ。
だから英一はいったん英二殺害を諦めて、自分が小麦粉を入れたカップからコーヒーを飲んだんだ。
そう、英一はそこに自分以外が別の毒を混入しているなんて思いもしてなかったからな」

「…じゃあ…今回の犯人は……」

「ああ、最初にそのカップを手にして毒を入れ、英一がそれを取り返したタイミングで英一が英二にそれを渡す前に英二に別のカップを渡して英一が毒入りコーヒーを飲む状況を作り上げた人間だ。
そもそもが不自然だろう?
英二と親しいわけでもないのに、自分がカップ交換されてすぐ慌てて英二に別のカップを渡しに行くなんて行動は」

「…なるほど……」
宇髄は片手をこめかみにあて、少し整理するように考えこむ。

「確かに…筋は通ってんな。
動機的にも各人の行動の理由もそれで辻褄が合うと思うんだが……」

「あ、証拠はないぞ」
と、そこで言葉を切った宇髄が続ける前に、錆兎が言葉をかぶせた。

「だからな、事情がわかってて警戒できて、なおかつそれを周りに悟らせない協力者が欲しい。
まだこの館の事も裏に居る人間の事もわかっていない中で、証拠もない話をしても混乱するだけだし、下手したら逃げを打たれる」

「…あ~賢明な判断だな。行動も人選も」
と、それに宇髄はにやりと笑って頷いた。


「まあ…平和な今生で筆頭の頭がさび付いてなかったことに感謝だな」
と、宇髄が言うと、錆兎は当たり前に

「義勇の身の安全がかかっているからな。
世界に自分と義勇以外の人間がいない状態とかでない限りは、どんな世界でも俺は体も心も知能も鍛え続けるぞ」
と真面目な顔で断言する。


このあたりはもう語らせると長い。
互いが互いの強火担なので、もうエンドレスに熱く語るしキリがない。

なので先を進めることにして宇髄は

「で?他に気づいた事は?」
と強引に切る。


すると錆兎は、しばらくぼ~っと窓の外に視線を向けて考え込んだ。

窓の向こうはもう外の景色など見えないくらいの土砂降りで、いくら仕組まれたこととは言っても、自分はまだしもぎゆうをこの外に連れて行きたくはないといったところだろう。

「今回の黒幕の企みは一応失敗した…ということになるんだろうけどな…
なにしろ粘着歴1000年以上だからな…一度失敗したくらいで諦めはしないだろうな。
ということは、まあ、目的を達成するまでは主催から迎えは来ないだろう。
加瀬兄弟が一般の学生と戯れるイベントと言いつつ、客船内では撮影らしい撮影行ってなかったしな。
普通なら演奏会前でも前日の様子…みたいに映像撮るだろ。
てことで主催は十中八九、犯人とグルだ」


あー!!それかっ!!!
と、そこで宇髄はパーティの時に自分が感じていた違和感の正体にようやく気付いた。


「ああ、そこだったんだな。違和感はすげえ感じてたんだが…」
と、宇髄がそれを正直に言うと、
「え?宇髄、気づいていなかったのか。珍しいな」
と、錆兎は少し驚いたように目を見張る。

「あ~、面目ねえ。
ちぃっとばかり平和ボケしてたみたいだな。
でもま、穴埋めにちょっとばかり情報流すわ」
と、宇髄はがっちりとした時計をちらつかせた。

そして錆兎にだけ見えるように蓋を取る。


そこに視線を落として、
「こういうのは日常的に持ってんだけどな、義勇のマンションでも使ったし?」
と、それが何なのか案に匂わせつつ、報告を始めた。


「こいつで調べた限り、盗聴器はたくさん仕掛けて何かの拍子に見つかりたくねえみたいでな、家具じゃなく人に取り付けてある。
どいつにかというと、まあさっきお前が犯人だって言った奴だよ。
だから奴から離れてさらに唇を読まれないように彼に背を向けていれば、会話が漏れる事はねえ。
だからわざわざ窓際まで来たってことだ」


なるほど。
唇を読まれないように…という気遣いは錆兎にもあったが、盗聴器は失念していた。
そういえばその手の物は過去に月哉がすでに使っているし大好きじゃないか…と、冷やりと背中に冷たい汗をかく。
まあ…使われて無くて良かった。

相手側のスパイがほぼ確定したところで、じっと相手の動きを待っていてもあまりよいことはなさそうだ。

「とりあえずでも、館の探索をしたほうがいいかもな。
ここが孤島だとしたら、なんらかの方法で外への連絡が取れる手段がどこかに用意されてるはずだ」

「そうだな。まあでもその前になんとか敵をあぶりだしたいところではあるけどなぁ。
何度もこんなことが起こっても面倒だし?」

それはそうだが…面倒とかよりなにより、とりあえず義勇だけでも安全圏に脱出させたい。
そんな錆兎の心のうちは当然宇髄にも分かる。

「気持ちはわかるが、今義勇だけ抜けて離れれば、味方がいない中で孤立させることになるからなぁ。
それはそれで危険じゃね?
月哉がその間に手を伸ばさないとも限らないだろ」

そういわれると錆兎ももう、確かに、と、言うほかはない。



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