前世からずっと一緒になるって決まってたんだ54_継母からの警告

相変わらずの雷雨。
さきほどから雷が光り、雨が窓ガラスを割ろうとでもしているかのような勢いで叩きつけられている音と混じって、なかなか煩い。

ピカッ!ゴロゴロッ!ザ~ザ~!パチパチ!となかなか賑やかな中で、また窓の外がピカっと光ったので、次はゴロゴロだな~などと呑気に思っていた錆兎の耳に、次に入ってきた音は悲鳴だった。


「どうしたっ?!」
と、弾かれたように錆兎が悲鳴を上げたソファ組の方へ駆け寄ると、義勇がぎゅうっと抱きついてくるので、それをしっかりと片手で抱きしめる。

その横で同じく戻った宇髄が天井を指さして
「またなんか起こりそうだな、こりゃあ」
と、緊張感のない声で言った。


その反応に錆兎も上を見上げれば、真っ白な天井に浮かび上がる

『白雪姫の継母は毒りんごを差し出し、ハートの女王は叫んだ――首を刎ねておしまいっ!…と……』

の文字。


どうやら上で何か赤い液体を流すと文字の形に作られたガラスの溝にそれが溜まり赤い文字が浮かびあがる仕組みらしい。
そしてその液体が溝からあふれ出したことで、それが階下のこの部屋に零れ落ちたようだ。

「…これ…血か?それとも……」
宇髄が花に滴る赤い液体を目を凝らしてみるが、錆兎はクン…と鼻にしわを寄せて匂いを嗅いで
「本物の血だな」
と断言した。

それにさらに周りの皆がざわめく。


「とりあえず…どうするよ?上の部屋に何かあるって事だよな?」
と、錆兎を追ってソファ組の方へと戻ってきた宇髄が天井を見上げ、そして錆兎に指示を仰ぐように視線を送った。

「…確認に行きたいとこなんだが…バラバラにはならないほうがいいよな?」
と、錆兎は若干困ったように顎に手をやり考え込む。
そしてちらりとソファの上に横たわっている英一に目をやった。

そう、一応容体は落ち着いたようだが意識がないので連れていくのが困難だ。
それがなければ全員で行くのが正しいと思うのだが…。


その視線に気づいてさきほどからずっとショボンと落ち込んだまま大人しくなった英二が
「俺が英一と残りゃあいい。最悪何かあっても俺と英一が死ぬだけだろ…」
とボソリとこぼす。

しかしそこで、
「ん~それは日本の音楽界にとって痛手だと思う。
少なくとも俺は加瀬兄弟の演奏が聴けなくなるのは嫌だ」
と、錆兎の腕の中の義勇がそう言ったら、元々なかったが加瀬兄弟を見捨てるという選択肢はそれでもう完全になくなった。

「被害にあったということは犯人について英一が何か知ってる可能性もあるから、それはなしだ」
と錆兎が混乱しそうな真実は隠してそう言ったあと、
「それ以上に義勇が嫌だということをするという選択肢は少なくとも俺が仕切る時点ではないしな」
と、こちらももうお約束の言葉を吐いて決定する。

さらにそれに異論が出る前に、
「あ~、俺らはこのメンツだと錆兎が頭だから、これは俺らと行動するなら決定事項な。
そういうことだから、二手に分かれんのは無し。
まあ、あれだ。英一は交代で背負っていこうぜ」
と、最終的に宇髄が言った。


非常時にはなるべく指示形態ははっきりしておいた方がいい。
相談をしたり情報は流したとしても決定権を持つのは一人の方が混乱しない。

普段なら宇髄のそれは耀哉なのだが、現場に出てその指示が届かない時にその代理として宇髄自身が従っても良いと認めているのは今のところ錆兎だけだ。

彼がいなければ頭は自分。
同じ四天王の血筋だとしても、義勇や煉獄はその限りではない。

煉獄も同じく錆兎と耀哉がいなければ頭は自分。
義勇に至っては誰かに従うどころか協力すらしないだろう。

四天王4家とは言っても立場も育てられ方も認識も、筆頭はやはり別格なのだ。
自分ですら従うのだから、自分以下の人間が好き勝手に集団の行動を決めるようなことはさせたくない。

ということで、ここははっきりしておかねば…と思って断言する宇髄に、

「了解っ!俺は脳筋やし、考えることはお任せしますわ。
そのかわり力仕事やったら任せたって下さい。
一番最初の背負い役行かせてもらいます」
と、黒井がぶんぶん手を振った。


宇髄の意見に全く抵抗はないらしい。

にこにこと宣言するこの人のよさそうな好青年に
「ああ、助かる。頼む」
と、錆兎が笑みを浮かべる。


どうも暗くなりがちなこんな状況で、この明るい雰囲気の青年は物理的なもの以上にありがたい。

それから
「俺も肉体労働組だっ!
疲れたら俺が変わるから遠慮なく言ってくれっ!!」
と、そこで煉獄も名乗り出た。

それに
「了解です。疲れたら金太郎にお任せしますわ」
チャッと敬礼して冗談交じりにそんな言葉を口にする黒井。

「もうほんま帰れるんやったら何でもやりますわ。
ちゃっちゃと上の様子見てきましょ」
「そうだなっ!同感だっ!頑張ろうっ!」
と、煉獄と頷きあう。


こうして館内を全員探索することになって、改めて上を見上げると、白い天井の下に設置されたガラスに赤く血で浮かび上がる文字…。

それに少し眉をしかめると、黒井は『どっこいしょっ』と一声あげて英一を背負った。




Before <<<  >>>Next (12月10日公開予定)



0 件のコメント :

コメントを投稿