座布団を枕に寝落ちたはずなのだが、気づけば布団がかかっている。
温かい。
自分で出したわけではない布団がかかっている理由を錆兎は理解している。
自分以外にこの家に勝手に入ることができるのは一人きりだ。
──義勇…来てたのか……
と、ゆるゆると目を開ければ、すぐそばに座って自分をじっと見降ろしている兄弟弟子兼幼馴染と目線が合う。
まだ疲れが取れたわけではなく気を抜くとまた眠ってしまいそうなので、寝落ちないようにしっかりと身を起こし、布団をかけてくれた礼を言うと、さて、どこから聞くか…と、錆兎は一瞬考え込んだ。
どうせ今義勇がここにいるのも、自分が久々に帰宅したので顔を見たかった…というのもないとは言わないが、さきほどの不死川や炭治郎の謎の問いに関することがより大きな理由だろう。
「任務の報告に産屋敷邸に寄ってから帰宅したんだが…不死川や炭治郎が意味不明なことを口走ってきた。
不死川は俺にお館様のお嬢様を嫁にもらったらどうだ…と言うし、炭治郎は俺とお前が想い合っているのかと聞いてきた。
どちらもおそらくお前絡みのことなのだろう?
何があったか話せ」
匂いで色々を察してしまう師範の鱗滝と、幼馴染ということでなんとなく口にせずともわかってしまうために言う前に察してしまう自分が悪かったのだろう。
義勇はどうも言葉足らずで色々誤解を受けやすい。
狭霧山にこもりきりの師匠と違って一緒に鬼殺隊に入って傍にいることが多い錆兎は、義勇のそんな尻ぬぐいも慣れっこになっていて、今回はいったい何をしたんだ?とあきらめのため息とともに聞く。
そこで口を開きかける義勇に、錆兎が念のために…と、
「今回は俺は一ヶ月ばかり東北にいてその間のことは何も知らん。
状況を始めから省略せずに話せよ?」
と言うと、おそらくいつものように要点…というか、思いついたことだけ話せばいいと思っていたのだろう。
義勇は開きかけた口を閉じ、しばし考え込んだ。
そして出てきた言葉は…
「甘露寺と宇髄が祝言をあげることになったんだ」
…で、錆兎は大きくため息をついた。
「それ…甘露寺と伊黒、宇髄と宇髄の嫁達がという理解で良いんだな?」
と言うと、義勇は何を当たり前のことを…と言わんばかりに頷くので、
「お前が言った甘露寺と宇髄が祝言をって言葉をそのまま聞くとだな、甘露寺と宇髄が夫婦(めおと)になると思われるぞ、普通。
そんな発言をしたら伊黒がキレるから気をつけろ」
と、錆兎は片手で顔を覆って大きく息を吐き出す。
ああ、でもなんだか見えてきた。
「つまり…伊黒と甘露寺にお館様が祝言をあげてやるという話をした。
で、その話の流れから、お館様と奥方様も世間的には婚姻が許されない年に祝言をあげているし、実質夫婦であるにも関わらず嫁が3人いるために正式に結婚できない宇髄と嫁達も鬼殺隊内では世間の法律も関係ないし、どうせなら祝言をあげてやるぞという話になったんだな?
で、他にも一般的には認められないが夫婦にと思っている人間がいたら挙げてやるぞ…という話になったと、そんなところか」
もう義勇の最初の言葉だけからそこまでとは、どれだけ拡大解釈だ…と思うが、実際そうだったらしい。
義勇が
「さすが錆兎っ!!」
と、きらきらした目で頷いた。
そして心底ほっとしたように、身を乗り出してきて口を開く。
「お前ならきっとわかるのかもしれないが…不死川に関しては俺はちっともわからん。
その話が出てとりあえず今でなくともいつでも言ってくるようにとお館様のお言葉で会議が解散になったあと、いきなり不死川が寄って来て俺に『結婚するぞ』と言うんだ。
何故そうなるのか全くわからん。
義勇は開きかけた口を閉じ、しばし考え込んだ。
そして出てきた言葉は…
「甘露寺と宇髄が祝言をあげることになったんだ」
…で、錆兎は大きくため息をついた。
「それ…甘露寺と伊黒、宇髄と宇髄の嫁達がという理解で良いんだな?」
と言うと、義勇は何を当たり前のことを…と言わんばかりに頷くので、
「お前が言った甘露寺と宇髄が祝言をって言葉をそのまま聞くとだな、甘露寺と宇髄が夫婦(めおと)になると思われるぞ、普通。
そんな発言をしたら伊黒がキレるから気をつけろ」
と、錆兎は片手で顔を覆って大きく息を吐き出す。
ああ、でもなんだか見えてきた。
「つまり…伊黒と甘露寺にお館様が祝言をあげてやるという話をした。
で、その話の流れから、お館様と奥方様も世間的には婚姻が許されない年に祝言をあげているし、実質夫婦であるにも関わらず嫁が3人いるために正式に結婚できない宇髄と嫁達も鬼殺隊内では世間の法律も関係ないし、どうせなら祝言をあげてやるぞという話になったんだな?
で、他にも一般的には認められないが夫婦にと思っている人間がいたら挙げてやるぞ…という話になったと、そんなところか」
もう義勇の最初の言葉だけからそこまでとは、どれだけ拡大解釈だ…と思うが、実際そうだったらしい。
義勇が
「さすが錆兎っ!!」
と、きらきらした目で頷いた。
そして心底ほっとしたように、身を乗り出してきて口を開く。
「お前ならきっとわかるのかもしれないが…不死川に関しては俺はちっともわからん。
その話が出てとりあえず今でなくともいつでも言ってくるようにとお館様のお言葉で会議が解散になったあと、いきなり不死川が寄って来て俺に『結婚するぞ』と言うんだ。
何故そうなるのか全くわからん。
確かに俺は錆兎に言われた通り不死川にも同僚として仲良くして欲しいと邪険にされても色々努力はしてきたが、別に結婚までして欲しいとかそんな風に思ったことはないし、第一、俺がどれだけ努力をしても不死川の方は俺と仲良くしたいとは思っていないようだったしな」
と、その義勇の言葉に、錆兎は内心深い深いため息をついた。
なるほど、理解した。
邪険にされても邪険にされても仲良くしてほしいと寄ってこられるので、よほど自分に気があるのだと思ったのだろう。
素直になれない不死川のことだから、もう自分のほうも絆されていていい加減受け入れたかったが、今までの態度が態度だけに気恥ずかしくて現状を変えられなかった。
そんなところにお館様のその話があったので、『結婚をする』という言葉を告げることで自分も結婚したいくらい義勇のことが好きで両想いなので一緒になりたいと思っているということを伝えようとしたと思われる。
「で?お前は何と答えた?」
「…『俺は錆兎に同僚みんなと仲良くしろと言われたから皆と仲良くしようと思ったが、別にお前と結婚したいわけではない。』と答えた。
そうしたら『お前は錆兎が好きなのか』と聞かれたから『好きだ』と答えた」
その義勇の言葉に、錆兎はさらにさらに深くため息をつく。
それか…
確かに好きか嫌いかで言われたら義勇は自分を好きだろう。
嫌いなわけがない。
義勇に行間を読んで言葉を選べと言うほうが無理なのは分かっている。
「もしかして…炭治郎ともそんなやりとりがあったのか?」
と問えば義勇は『なぜそれを知っている?!』と驚きの表情で大きく首を縦に振った。
と、その義勇の言葉に、錆兎は内心深い深いため息をついた。
なるほど、理解した。
邪険にされても邪険にされても仲良くしてほしいと寄ってこられるので、よほど自分に気があるのだと思ったのだろう。
素直になれない不死川のことだから、もう自分のほうも絆されていていい加減受け入れたかったが、今までの態度が態度だけに気恥ずかしくて現状を変えられなかった。
そんなところにお館様のその話があったので、『結婚をする』という言葉を告げることで自分も結婚したいくらい義勇のことが好きで両想いなので一緒になりたいと思っているということを伝えようとしたと思われる。
「で?お前は何と答えた?」
「…『俺は錆兎に同僚みんなと仲良くしろと言われたから皆と仲良くしようと思ったが、別にお前と結婚したいわけではない。』と答えた。
そうしたら『お前は錆兎が好きなのか』と聞かれたから『好きだ』と答えた」
その義勇の言葉に、錆兎はさらにさらに深くため息をつく。
それか…
確かに好きか嫌いかで言われたら義勇は自分を好きだろう。
嫌いなわけがない。
義勇に行間を読んで言葉を選べと言うほうが無理なのは分かっている。
「もしかして…炭治郎ともそんなやりとりがあったのか?」
と問えば義勇は『なぜそれを知っている?!』と驚きの表情で大きく首を縦に振った。
「甘露寺がお館様の言葉とその不死川とのやりとりについて胡蝶と話をしていたのを小耳にはさんだらしい。
それで帰宅途中で待ち伏せされていて、自分と祝言をあげてくれないか?と言われたから、『無理だ。別に柱とでなければ挙げてもらえんわけではない。お前も祝言があげたいなら好いた相手とあげろ』と言ったんだが、そうしたら炭治郎が俺を好いているというから、そういう意味ではない。好いていれば誰でもいいわけじゃないと言ったら、炭治郎が俺が一番好いている人間は誰だと聞いたので、錆兎だと言っておいた」
「…お前……」
うん、もうわかった。
色々わかった。
わかってないのは一つだけ…義勇がどこまで考えて物を言っているのかということだけだ。
「本当だぞ?俺は炭治郎より不死川より錆兎が一等好きだ」
「ああ、それはわかってるんだけどな…」
そう、そのことについては否定しない。
義勇が一番好きなのは自分で、自分が一番好きなのは義勇だ。
炭治郎は弟弟子だし可愛いが、炭治郎と義勇、どちらが一番好きかと言われれば義勇なのである。
でも今問題になっているのはそういうことではない。
「義勇…お前どこまでわかって言っている?
この場合問われている“好き”というのは、祝言をあげてもいいと思う“好き”だぞ?
お前…俺と祝言があげられるのか?」
もう寝起きで頭が回らないというのを別にしても、あまりにわけのわからない事態に錆兎は自身について考えるのは放棄することにした。
そして、まず義勇を問い詰めると
「別に問題ない。
錆兎が了承してくれるなら、錆兎に合わせる。
2人で紋付でもいいし、錆兎は普通で俺が白無垢のように白い紋付でもいい。
相手が男の格好が嫌なら俺が白無垢でも打掛でも着るし、隣に並ぶのに体型が気になるなら似合うよう努力はする。
不死川はとにかくとして、炭治郎はあれで諦めの悪い男だからな。
ひとたび言い出したなら、俺か奴かどちらかが死ぬまで諦めんと思う。
そのくらいならお前と挙げた方が平和じゃないか?」
と、並べられる言葉の数々。
義勇と出会って早10年強の月日が経つが、義勇が錆兎に対してここまで何かを細やかに提案してきたことがはたしてあっただろうか…
そこまで嫌か。
そうか…そうだよな、いくら綺麗な顔をしていて大人しい性格をしていたところで、お前も男だもんな。
男に祝言あげようとか求婚されたら嫌だよな…
…と、そんな義勇の心境を慮って無言で考え込んだのがいけなかった。
「じゃあ、そういうことで俺はこれからお館様の所に行ってくる。
ああ、飯は簡単なものだが作ってあるからゆっくり食って休んでくれ」
「え??」
他には自己評価が著しく低いくせに錆兎に関しては自分を絶対に否定しないと確信している義勇は、直接的な拒絶の言葉がないことで錆兎が了承したと判断したらしい。
普段が嘘のようにとてつもなく軽やかに立ち上がると、止める間もなく錆兎の家を出て行った。
それで帰宅途中で待ち伏せされていて、自分と祝言をあげてくれないか?と言われたから、『無理だ。別に柱とでなければ挙げてもらえんわけではない。お前も祝言があげたいなら好いた相手とあげろ』と言ったんだが、そうしたら炭治郎が俺を好いているというから、そういう意味ではない。好いていれば誰でもいいわけじゃないと言ったら、炭治郎が俺が一番好いている人間は誰だと聞いたので、錆兎だと言っておいた」
「…お前……」
うん、もうわかった。
色々わかった。
わかってないのは一つだけ…義勇がどこまで考えて物を言っているのかということだけだ。
「本当だぞ?俺は炭治郎より不死川より錆兎が一等好きだ」
「ああ、それはわかってるんだけどな…」
そう、そのことについては否定しない。
義勇が一番好きなのは自分で、自分が一番好きなのは義勇だ。
炭治郎は弟弟子だし可愛いが、炭治郎と義勇、どちらが一番好きかと言われれば義勇なのである。
でも今問題になっているのはそういうことではない。
「義勇…お前どこまでわかって言っている?
この場合問われている“好き”というのは、祝言をあげてもいいと思う“好き”だぞ?
お前…俺と祝言があげられるのか?」
もう寝起きで頭が回らないというのを別にしても、あまりにわけのわからない事態に錆兎は自身について考えるのは放棄することにした。
そして、まず義勇を問い詰めると
「別に問題ない。
錆兎が了承してくれるなら、錆兎に合わせる。
2人で紋付でもいいし、錆兎は普通で俺が白無垢のように白い紋付でもいい。
相手が男の格好が嫌なら俺が白無垢でも打掛でも着るし、隣に並ぶのに体型が気になるなら似合うよう努力はする。
不死川はとにかくとして、炭治郎はあれで諦めの悪い男だからな。
ひとたび言い出したなら、俺か奴かどちらかが死ぬまで諦めんと思う。
そのくらいならお前と挙げた方が平和じゃないか?」
と、並べられる言葉の数々。
義勇と出会って早10年強の月日が経つが、義勇が錆兎に対してここまで何かを細やかに提案してきたことがはたしてあっただろうか…
そこまで嫌か。
そうか…そうだよな、いくら綺麗な顔をしていて大人しい性格をしていたところで、お前も男だもんな。
男に祝言あげようとか求婚されたら嫌だよな…
…と、そんな義勇の心境を慮って無言で考え込んだのがいけなかった。
「じゃあ、そういうことで俺はこれからお館様の所に行ってくる。
ああ、飯は簡単なものだが作ってあるからゆっくり食って休んでくれ」
「え??」
他には自己評価が著しく低いくせに錆兎に関しては自分を絶対に否定しないと確信している義勇は、直接的な拒絶の言葉がないことで錆兎が了承したと判断したらしい。
普段が嘘のようにとてつもなく軽やかに立ち上がると、止める間もなく錆兎の家を出て行った。
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