ズルズルと押し入れから敷布団を出して敷くと、その上に義勇がかけてくれた掛け布団をセットする。
こうしていつでも寝られるように準備をした上で台所に。
そこには握り飯とみそ汁。
あとは甘い卵焼きとほうれん草の白和えとかれいの煮つけ。
握り飯の中身は甘く味付けしたかつお節で、ネギと豆腐の味噌汁と共に、その素朴で優しい味に癒される。
義勇は食べることに関しては小さな口元にいっぱいの米粒をつけるのが通常というくらい不器用だったが、姉と二人暮らしだったために料理が上手かったし、狭霧山の修業時代からそれを食っていた錆兎にとっては、義勇の料理は懐かしくもホッとする家庭の味だ。
それを食いながら錆兎は思った。
現時点で好いた女が居るわけではない。
というか、惚れた腫れたなんてやってる暇もなければ気力もない。
別に誰かと祝言をあげる予定もないなら、それが狭霧山での生活とどう変わるのかはわからないが、義勇と二人で暮らしてみるのもいいんじゃないだろうか。
男は胃袋から落とせ…という言葉があるが、錆兎はまさに今、その方面から落とされている。
下手に女性を自宅に引き入れると面倒なので日々外食か自炊なのだが、疲れている時にはこういう慣れた飯が食いたい。
寝落ちていたら掛け布団をかけて、脱ぎ散らかした羽織を衣紋掛けにかけておいてくれる誰かがいる生活…うん、最高じゃないか?
外では仕事の関係で常に気を張っているので、自宅では気を使いたくない。
そういう意味ではずっと一緒に修業して育ってきた幼馴染は理想的な同居人に思えた。
もう…いいか。
それで義勇も面倒な求婚から逃れられるというなら互いに利のある話じゃないか…
そんなことを思いながら、飯を食べて歯を磨いて風呂に入ると、錆兎は洗濯物は明日にしようとまたずるずると布団に潜り込む。
ぎゆうと……祝言かぁ……
と、そんなことを思いながらうつらうつらしていたからだろうか…夢を見た。
紋付袴を着た自分の横には白無垢の義勇。
自分は今の自分なのに、義勇の方は何故かまだ狭霧山の頃の少年期の義勇だ。
そう言えばあれは10歳くらいだったか…最初に出会った時には義勇は姉の形見だというえんじ色の女物の着物を着ていて、猟師に救出されるまでは山の中をさすらっていたようだから風呂に入れてやれと言われたのだが、優し気な愛らしい顔立ちや女物の着物から義勇を少女だと思った少年期の錆兎はずいぶんと動揺したものだった。
風呂に案内して戻ろうとする錆兎の着物の裾をクンと握って、一緒に…と、潤んだ青い瞳で見上げられて、さらに動揺する。
まだ子どもだったので手にした手ぬぐいで胸元から下が隠されていると胸のふくらみなどから性別を察することもできず、幼い頃から山に住み、刀を握って鍛えている自分とどこか違うほっそりとした白い肩に、我知らず顔が赤くなっていったものだ。
ああ、そうだ。
今更ながら思い出したのだが、錆兎の初恋は10の年。えんじ色の着物を着た少女と見紛うほど愛らしい容姿をしていた義勇だった。
その義勇が紋付を着た錆兎の隣で、錆兎の妻として白無垢をまとって座っている。
思わずその細い手首を取って引き寄せれば、その細い身体がぽすんと己の腕の中に収まってしまった。
そうするとなぜか白無垢は消えて義勇の身をまとっているのは襦袢に変わる。
さらりとした絹の手触り。
場所も褥の上に移動していて、衝動のまま口づけたままその身を押し倒すと、やや長めの黒髪が白い夜具の上に散らばった。
やめろ…“義勇が祝言をあげたいというのはそういう意味じゃない”と、冷静な自分が制止しようとするが、心と分離されたように体は義勇を暴いていく。
だめだ…だめだ……だめだ……──やめろっ!!!
…あ?
自分の声で目が覚めた。
じわりと生温かく濡れた下履き。
寝落ちていたら掛け布団をかけて、脱ぎ散らかした羽織を衣紋掛けにかけておいてくれる誰かがいる生活…うん、最高じゃないか?
外では仕事の関係で常に気を張っているので、自宅では気を使いたくない。
そういう意味ではずっと一緒に修業して育ってきた幼馴染は理想的な同居人に思えた。
もう…いいか。
それで義勇も面倒な求婚から逃れられるというなら互いに利のある話じゃないか…
そんなことを思いながら、飯を食べて歯を磨いて風呂に入ると、錆兎は洗濯物は明日にしようとまたずるずると布団に潜り込む。
ぎゆうと……祝言かぁ……
と、そんなことを思いながらうつらうつらしていたからだろうか…夢を見た。
紋付袴を着た自分の横には白無垢の義勇。
自分は今の自分なのに、義勇の方は何故かまだ狭霧山の頃の少年期の義勇だ。
そう言えばあれは10歳くらいだったか…最初に出会った時には義勇は姉の形見だというえんじ色の女物の着物を着ていて、猟師に救出されるまでは山の中をさすらっていたようだから風呂に入れてやれと言われたのだが、優し気な愛らしい顔立ちや女物の着物から義勇を少女だと思った少年期の錆兎はずいぶんと動揺したものだった。
風呂に案内して戻ろうとする錆兎の着物の裾をクンと握って、一緒に…と、潤んだ青い瞳で見上げられて、さらに動揺する。
まだ子どもだったので手にした手ぬぐいで胸元から下が隠されていると胸のふくらみなどから性別を察することもできず、幼い頃から山に住み、刀を握って鍛えている自分とどこか違うほっそりとした白い肩に、我知らず顔が赤くなっていったものだ。
ああ、そうだ。
今更ながら思い出したのだが、錆兎の初恋は10の年。えんじ色の着物を着た少女と見紛うほど愛らしい容姿をしていた義勇だった。
その義勇が紋付を着た錆兎の隣で、錆兎の妻として白無垢をまとって座っている。
思わずその細い手首を取って引き寄せれば、その細い身体がぽすんと己の腕の中に収まってしまった。
そうするとなぜか白無垢は消えて義勇の身をまとっているのは襦袢に変わる。
さらりとした絹の手触り。
場所も褥の上に移動していて、衝動のまま口づけたままその身を押し倒すと、やや長めの黒髪が白い夜具の上に散らばった。
やめろ…“義勇が祝言をあげたいというのはそういう意味じゃない”と、冷静な自分が制止しようとするが、心と分離されたように体は義勇を暴いていく。
だめだ…だめだ……だめだ……──やめろっ!!!
…あ?
自分の声で目が覚めた。
じわりと生温かく濡れた下履き。
「…まじか……最近忙しくて抜く暇がなかったからか……」
誰にともなくそう呟いて、錆兎は久方ぶりに夢精で汚した下着を替えて、もうなんだかすぐには眠れそうにないので、明日洗おうと思っていたシャツと一緒に手洗いをして干した。
全くなんて夢をみたんだ…と、我ながら呆れかえる。
不死川のことも炭治郎のことも言えたもんじゃない。
初対面の少年期と違って義勇だってさすがに男だと思える体型にはなってきたので、性的な目で見ることなどないと思っていたのだが、あんな話があったせいだろうか…
あの頃のあどけない少女じみた少年の面影を今の義勇に重ねてしまう。
女として見るには背が高い、胸がない、そうは思うのだが、錆兎のように筋肉がつきやすい体質ではないようでわりあいと細いのと、顔が相変わらず美女と言っていいほどには女性的で美しい。
そう思えば、そういう意味としてなくはないな…と思ってしまって、錆兎は慌てて首を横に振った。
何を考えている。
義勇は自分だけはそういう目で見ないだろうと思って、不死川や炭治郎と祝言をあげるよりは良いと言ってきたのだ。
その親友の信頼を裏切るなど、男としてあってはならない。
そうだ。祝言は1人よりは信頼している人間と暮らした方が互いに良いと思う錆兎と他に祝言をと迫られて困っている義勇の互いの都合のためであって、そういう意味ではない。
やたらと昔のことを思いだしたりおかしな夢をみたりするのは、きっと自分が疲れているからだろう。
明日は炭治郎にも色々聞かれるだろうから、その時にしっかり説明できるよう、英気を養わなければ…。
錆兎は誰がいるわけでもないのにそう言い訳をして、本日三度目の睡眠を取ろうと、再度布団に潜り込んだ。
翌朝…そんな彼をさらに動揺させる出来事が起こるのだが、この時の彼はまだそのことを知る由もない。
誰にともなくそう呟いて、錆兎は久方ぶりに夢精で汚した下着を替えて、もうなんだかすぐには眠れそうにないので、明日洗おうと思っていたシャツと一緒に手洗いをして干した。
全くなんて夢をみたんだ…と、我ながら呆れかえる。
不死川のことも炭治郎のことも言えたもんじゃない。
初対面の少年期と違って義勇だってさすがに男だと思える体型にはなってきたので、性的な目で見ることなどないと思っていたのだが、あんな話があったせいだろうか…
あの頃のあどけない少女じみた少年の面影を今の義勇に重ねてしまう。
女として見るには背が高い、胸がない、そうは思うのだが、錆兎のように筋肉がつきやすい体質ではないようでわりあいと細いのと、顔が相変わらず美女と言っていいほどには女性的で美しい。
そう思えば、そういう意味としてなくはないな…と思ってしまって、錆兎は慌てて首を横に振った。
何を考えている。
義勇は自分だけはそういう目で見ないだろうと思って、不死川や炭治郎と祝言をあげるよりは良いと言ってきたのだ。
その親友の信頼を裏切るなど、男としてあってはならない。
そうだ。祝言は1人よりは信頼している人間と暮らした方が互いに良いと思う錆兎と他に祝言をと迫られて困っている義勇の互いの都合のためであって、そういう意味ではない。
やたらと昔のことを思いだしたりおかしな夢をみたりするのは、きっと自分が疲れているからだろう。
明日は炭治郎にも色々聞かれるだろうから、その時にしっかり説明できるよう、英気を養わなければ…。
錆兎は誰がいるわけでもないのにそう言い訳をして、本日三度目の睡眠を取ろうと、再度布団に潜り込んだ。
翌朝…そんな彼をさらに動揺させる出来事が起こるのだが、この時の彼はまだそのことを知る由もない。
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