──やっぱり私の方から求婚したりするのは、はしたないわよね…
と言う甘露寺の言葉から始まった。
誰に?なんてことは分かりきっている。
そう、他人の人間関係に疎い義勇ですらさすがに知っている“彼”以外の相手に彼女が求婚でもした日には、柱の中から約一名自殺者が出るだろう。
どうやら相談相手になっていたらしい柱の中で唯一の同性の同僚である胡蝶しのぶはにこにこして話を聞いてやっているが、その実、こちらも自分の唯一の同性の友人になる甘露寺を悩ませている男に腹を立てているようだ。
(あのヘタレ野郎がっ!甘露寺さんをあそこまで悩ませて何も動かないなんて、男でいる意味なんてないでしょう!○○○を引っこ抜いてやりましょうか…)
と言う甘露寺の言葉から始まった。
誰に?なんてことは分かりきっている。
そう、他人の人間関係に疎い義勇ですらさすがに知っている“彼”以外の相手に彼女が求婚でもした日には、柱の中から約一名自殺者が出るだろう。
どうやら相談相手になっていたらしい柱の中で唯一の同性の同僚である胡蝶しのぶはにこにこして話を聞いてやっているが、その実、こちらも自分の唯一の同性の友人になる甘露寺を悩ませている男に腹を立てているようだ。
(あのヘタレ野郎がっ!甘露寺さんをあそこまで悩ませて何も動かないなんて、男でいる意味なんてないでしょう!○○○を引っこ抜いてやりましょうか…)
と、甘露寺と別れてからそんな恐ろしいことを呟いているので、たまたま近くで一部始終を見てしまった義勇と宇髄は青ざめた。
伊黒と同性である彼らは、自分にもついているその〇〇○がひゅん!と縮こまる思いがする。
そして危機感を抱いた宇髄は伊黒をせっついたらしい。
どういう説得をしたのかはわからないが、後ろ向きだった伊黒がようやく重い腰を上げ、ようよう甘露寺に求愛をしたようだ。
隠し事のできない甘露寺のことなので、その話はあっという間に柱の間どころかお館様のところまで届いたらしい。
その一件のあとの初めての柱合会議で、それはとてもめでたいことだし、もし二人の間に子でも生まれれば、優秀な未来の柱になることだってあるかもしれない。
善は急げ、なんならお館様夫妻が仲人をして祝言をあげてもいい。
…と、そんな話になるところまでは、まあよくあることだ。
伊黒と同性である彼らは、自分にもついているその〇〇○がひゅん!と縮こまる思いがする。
そして危機感を抱いた宇髄は伊黒をせっついたらしい。
どういう説得をしたのかはわからないが、後ろ向きだった伊黒がようやく重い腰を上げ、ようよう甘露寺に求愛をしたようだ。
隠し事のできない甘露寺のことなので、その話はあっという間に柱の間どころかお館様のところまで届いたらしい。
その一件のあとの初めての柱合会議で、それはとてもめでたいことだし、もし二人の間に子でも生まれれば、優秀な未来の柱になることだってあるかもしれない。
善は急げ、なんならお館様夫妻が仲人をして祝言をあげてもいい。
…と、そんな話になるところまでは、まあよくあることだ。
その話はそこでさらに発展。
「天元、君も奥方達と祝言をあげないかい?
私も妻も世間的には認められない年齢の頃に身内で祝言をあげて夫婦になっているし、鬼殺隊内でだけでも正式に夫婦として届け出れば、君に万が一があっても鬼殺隊が後ろ盾になって奥方達を宇髄天元の妻達として保護するし、なんなら子どもが生まれれば柱の遺児として成人するまできちんと困らないだけのものを与えるから、安心して子も作れる」
などとお館様が言い出した。
最初は遠慮していた宇髄だが、優秀な柱に家庭を築いてもらうことは、ひいては鬼殺隊の発展にもつながるから…と言われれば、そこで飽くまで否という理由はない。
一夫一妻制の日本の法律のもと、便宜上でも一人を妻に二人を愛人にという形を取ることなく、法に認められて保証されることがなかったとしても3人全員を妻とし続けてきたくらいには、宇髄は嫁3人を大切に想っている。
その大切な3人を正式に妻とすることができて妻としての保証を与えてもらえる場があるなら、ありがたさしかない。
「天元、君も奥方達と祝言をあげないかい?
私も妻も世間的には認められない年齢の頃に身内で祝言をあげて夫婦になっているし、鬼殺隊内でだけでも正式に夫婦として届け出れば、君に万が一があっても鬼殺隊が後ろ盾になって奥方達を宇髄天元の妻達として保護するし、なんなら子どもが生まれれば柱の遺児として成人するまできちんと困らないだけのものを与えるから、安心して子も作れる」
などとお館様が言い出した。
最初は遠慮していた宇髄だが、優秀な柱に家庭を築いてもらうことは、ひいては鬼殺隊の発展にもつながるから…と言われれば、そこで飽くまで否という理由はない。
一夫一妻制の日本の法律のもと、便宜上でも一人を妻に二人を愛人にという形を取ることなく、法に認められて保証されることがなかったとしても3人全員を妻とし続けてきたくらいには、宇髄は嫁3人を大切に想っている。
その大切な3人を正式に妻とすることができて妻としての保証を与えてもらえる場があるなら、ありがたさしかない。
ということで、宇髄がそれを受け入れたところで、お館様はニコニコと
「鬼殺隊自体が法の支配が届かないことに対して動いている組織だからね。
皆には不便をかけていると思うけど、その分、色々と手厚い保証はしたいと思っているんだ。
だから結婚に関しても、法では認められないとしても皆が本当に望んでいる関係なら、鬼殺隊内では夫婦として認めるし、そう遇するから、夫婦になりたい、それに伴って祝言をあげたいということなら、気軽に申し出て欲しい。
もちろん法として認められる関係だったとしても、皆が結婚する時は盛大に祝ってあげたいから言ってね」
と、そんなお言葉を下さった。
ああ、羨ましい…と、それを聞いて義勇は思った。
日本の法的に認められなくとも本当に想い合っているなら鬼殺隊内では夫婦として認められる…ただし…互いにその気があるならば。
そう、いくら好きでも片思いの場合はその限りではない。
そして義勇自身は一般的ではない相手に恋情を寄せてはいるが、絶対に叶うことはないので、いくら世間で認められない繋がりでも認めてくれるという制度があったとしても、その恩恵に預かる日は決して来ないのである。
なので、それから話は鬼退治の近況報告になり、その後今後の予定など、通常の話し合いがあって、会議が終了したあと、一人産屋敷家の廊下を玄関へと向かいながら
…甘露寺も宇髄もいいなぁ……と、ぽつりと零した義勇のつぶやきは、ただ春先の空気と共に庭の木々の中へと消えていくはずだった。
しかしそこでいきなりガシっと後ろから掴まれる肩。
「鬼殺隊自体が法の支配が届かないことに対して動いている組織だからね。
皆には不便をかけていると思うけど、その分、色々と手厚い保証はしたいと思っているんだ。
だから結婚に関しても、法では認められないとしても皆が本当に望んでいる関係なら、鬼殺隊内では夫婦として認めるし、そう遇するから、夫婦になりたい、それに伴って祝言をあげたいということなら、気軽に申し出て欲しい。
もちろん法として認められる関係だったとしても、皆が結婚する時は盛大に祝ってあげたいから言ってね」
と、そんなお言葉を下さった。
ああ、羨ましい…と、それを聞いて義勇は思った。
日本の法的に認められなくとも本当に想い合っているなら鬼殺隊内では夫婦として認められる…ただし…互いにその気があるならば。
そう、いくら好きでも片思いの場合はその限りではない。
そして義勇自身は一般的ではない相手に恋情を寄せてはいるが、絶対に叶うことはないので、いくら世間で認められない繋がりでも認めてくれるという制度があったとしても、その恩恵に預かる日は決して来ないのである。
なので、それから話は鬼退治の近況報告になり、その後今後の予定など、通常の話し合いがあって、会議が終了したあと、一人産屋敷家の廊下を玄関へと向かいながら
…甘露寺も宇髄もいいなぁ……と、ぽつりと零した義勇のつぶやきは、ただ春先の空気と共に庭の木々の中へと消えていくはずだった。
しかしそこでいきなりガシっと後ろから掴まれる肩。
考え事をしていたせいか、敵が絶対にいない産屋敷邸で気が緩んでいたせいか、傍に人が近づいていることに全く気付きもしなかった義勇が驚いて振り向くと、そこには同僚の風柱、不死川実弥が立っていた。
もうその時点で義勇は泣きそうになる。
彼はわかりやすく義勇のことが大嫌いだ。
もちろん義勇だって自分が皆に好かれやすい性格だと思ってはいない。
明るくて強くて賢くて…しかも優しい理想の男である兄弟弟子の錆兎と違って、義勇は暗くて弱くて馬鹿で鈍くさい情けない男だ。
今こうやって水柱として立っているのだって、入隊早々にお館様の補佐として抜擢された錆兎が忙しい中、暇をみつけては義勇の任務を手伝ってくれて鍛錬にも付き合ってくれて、下駄を履かせまくってようよう50体の鬼を斬ったことと、ちょうど水柱の席があまりに長く空きすぎていてこれ以上の空席は好ましくないと判断されたこと、そして義勇の師匠がとても優秀な元水柱、鱗滝左近次先生であったことなどが重なったからで、義勇個人としては本来水柱になれるような人間ではないと自分でも自覚している。
だからもし水柱にふさわしいような水の呼吸の剣士が現れたなら、即、その座を譲り渡す準備は出来ている。
だがそんな義勇の側の事情など、他の柱には関係ないのだろう。
不死川以外の柱は随分と大人でそんな義勇に腹をたてることもなく、普通に同僚としてせっしてくれているが、不死川だけは許せないらしい。
もうその時点で義勇は泣きそうになる。
彼はわかりやすく義勇のことが大嫌いだ。
もちろん義勇だって自分が皆に好かれやすい性格だと思ってはいない。
明るくて強くて賢くて…しかも優しい理想の男である兄弟弟子の錆兎と違って、義勇は暗くて弱くて馬鹿で鈍くさい情けない男だ。
今こうやって水柱として立っているのだって、入隊早々にお館様の補佐として抜擢された錆兎が忙しい中、暇をみつけては義勇の任務を手伝ってくれて鍛錬にも付き合ってくれて、下駄を履かせまくってようよう50体の鬼を斬ったことと、ちょうど水柱の席があまりに長く空きすぎていてこれ以上の空席は好ましくないと判断されたこと、そして義勇の師匠がとても優秀な元水柱、鱗滝左近次先生であったことなどが重なったからで、義勇個人としては本来水柱になれるような人間ではないと自分でも自覚している。
だからもし水柱にふさわしいような水の呼吸の剣士が現れたなら、即、その座を譲り渡す準備は出来ている。
だがそんな義勇の側の事情など、他の柱には関係ないのだろう。
不死川以外の柱は随分と大人でそんな義勇に腹をたてることもなく、普通に同僚としてせっしてくれているが、不死川だけは許せないらしい。
なにしろ彼は最初、お館様や錆兎に対してさえ、自分が下につくのにふさわしい人物かわかるまでは食ってかかったらしい。
もちろんお館様の人徳や錆兎の強さに触れて、二人に対しては敬意をもって接するようになったが、義勇は不死川が同僚としてふさわしいと思えるような資質はなにもない。
だからやたらと食ってかかられる。
義勇の方は柱に任命された時、錆兎に自分だけではなくこれからは同僚になる柱達とも仲良く協調して仕事にのぞまなければならないと注意を受けたので、一所懸命に仲良くしようと色々試みてはみたのだが、彼の態度は軟化することはなく、会うたび罵られ殴られていた。
他の柱より自分ができることはなんだろう…そう考えた時に、錆兎が『義勇の作る料理は本当に美味いな。これだけは一生かかっても勝てる気がしない』と美味そうに義勇の作った飯を食うのを思い出して、そうだ!料理だ!と、わざわざ不死川が何を好きか聞いて回って、彼の好物だというおはぎを作っていったのだが、目の前で捨てられて唖然とした。
それ以来、もう好かれることは半分諦めつつも、錆兎に出したら甘いものが苦手な彼が店で売っている物よりも美味いと言ってくれたおはぎを一口でも口にしたら、少しは義勇のことを嫌う度合いが減ってくれるのかもしれない…と、不死川がいるとわかっている時は懐におはぎをしのばせるくらいには頑張っている。
ちなみに…甘露寺の好きな桜餅はやはり彼女が一緒の時に作って持って行くと喜んで食べてくれて、最初はそれを見て文句を言っていた伊黒は、『じゃあ作り方を教えるから伊黒が作ってやったらどうだろう』と申し出ると、なんだか一緒にお菓子作りをすることが増えて仲良く…とまでは言わないが、そこそこ話せる仲になった。
そんな風に甘露寺繋がりで、師匠の煉獄が好きだから芋関係の料理を教えて欲しいと言われて教えたら、それを食った煉獄とも話せるようになり、交友の輪がどんどん広がったが、今をもって不死川とは相変わらずなのである。
それでも普段なら暴言も暴力も、痛いには痛いが相手も仕事に関しては真面目な男で怪我をしない程度に…という加減はしているようなので耐えればいいだけだが、今はすでに心が痛すぎる状態なので勘弁してほしい。
もちろんお館様の人徳や錆兎の強さに触れて、二人に対しては敬意をもって接するようになったが、義勇は不死川が同僚としてふさわしいと思えるような資質はなにもない。
だからやたらと食ってかかられる。
義勇の方は柱に任命された時、錆兎に自分だけではなくこれからは同僚になる柱達とも仲良く協調して仕事にのぞまなければならないと注意を受けたので、一所懸命に仲良くしようと色々試みてはみたのだが、彼の態度は軟化することはなく、会うたび罵られ殴られていた。
他の柱より自分ができることはなんだろう…そう考えた時に、錆兎が『義勇の作る料理は本当に美味いな。これだけは一生かかっても勝てる気がしない』と美味そうに義勇の作った飯を食うのを思い出して、そうだ!料理だ!と、わざわざ不死川が何を好きか聞いて回って、彼の好物だというおはぎを作っていったのだが、目の前で捨てられて唖然とした。
それ以来、もう好かれることは半分諦めつつも、錆兎に出したら甘いものが苦手な彼が店で売っている物よりも美味いと言ってくれたおはぎを一口でも口にしたら、少しは義勇のことを嫌う度合いが減ってくれるのかもしれない…と、不死川がいるとわかっている時は懐におはぎをしのばせるくらいには頑張っている。
ちなみに…甘露寺の好きな桜餅はやはり彼女が一緒の時に作って持って行くと喜んで食べてくれて、最初はそれを見て文句を言っていた伊黒は、『じゃあ作り方を教えるから伊黒が作ってやったらどうだろう』と申し出ると、なんだか一緒にお菓子作りをすることが増えて仲良く…とまでは言わないが、そこそこ話せる仲になった。
そんな風に甘露寺繋がりで、師匠の煉獄が好きだから芋関係の料理を教えて欲しいと言われて教えたら、それを食った煉獄とも話せるようになり、交友の輪がどんどん広がったが、今をもって不死川とは相変わらずなのである。
それでも普段なら暴言も暴力も、痛いには痛いが相手も仕事に関しては真面目な男で怪我をしない程度に…という加減はしているようなので耐えればいいだけだが、今はすでに心が痛すぎる状態なので勘弁してほしい。
だが素早さからいったら柱の中でも胡蝶に次ぐであろう風柱を振り切って逃げきる自信はない。
なので義勇は仕方なく、ぎゅっと自らの羽織の裾を握り締めて俯くと
「なにか伝言か?」
と、業務連絡だったらいいなという願いを込めて聞く。
しかしそこで返ってきた言葉は義勇の理解の範疇を超えていた。
──結婚すんぞぉ
は?
はあぁ???
なんだ?
結婚?
え?結婚って???
「え…結婚って?誰が?誰と?」
と聞き返した義勇の言動は決しておかしくないと思う。
だって主語がない。
結婚という言葉に縁がありそうなのは伊黒と甘露寺、そして宇髄夫妻だが、その話は義勇だってさきほどの柱合会議にはいたのだから聞いている。
他にもあれから申し出た人間がいるのなら、それは主語を言ってもらわねばわからないじゃないか…
そんなことを思いつつも不死川の答えを待っていたら、
「俺とお前に決まってんだろうがぁ、ボケがぁ」
と、コツンと…普段のゴツンというのとはだいぶ力加減の違う拳骨を頭に落されて義勇は驚きのあまり目を丸くした。
「え??なぜ??」
と聞いたのも、まったく当たり前の反応だと思う。
だって不死川はわかりやすく義勇のことが大嫌いだ。
ところが当の不死川はとんでもないことを言い出した。
「あ~…なんつうか…今までも別にお前のことが憎いとか嫌いとかそういうんじゃなくてなぁ…
まあお館様の話聞いて、俺も善意には素直に返しておこうと思ってなぁ」
と、少し視線をそらしてガシガシと頭を掻く不死川。
もう本気で文脈がつかめないが、おそらく善意に~のくだりは、仲良くしようと努力していた義勇に邪険な態度を返していたことを反省しているということなのだろう。
でもだからと言って結婚はやりすぎだ。
単に同僚に邪険にし過ぎたからというだけで、謝罪のために結婚ってどんだけ度を超えて生真面目なんだ。
極端から極端に走る男だな…と思いつつ、それでもそんな謝罪の仕方をされても困るので、義勇はきっぱりと言う。
「俺は錆兎に同僚とは仲良くやれと言われたから柱全員と仲良くしなければと思って不死川にもそう接してきたつもりだし、これからでも仲良くしてくれれば嬉しいが、別に責任を取って結婚までしてくれなくても良い。
そういう事を言い始めたら、柱全員と結婚しなければならなくなるし、そもそも俺は別にどの柱とも結婚するつもりはない」
義勇は至極当たり前の返答を返したつもりだったが、それは不死川にとってなんだか驚くべき言葉だったらしい。
今度は彼の方が目を丸くして固まった。
何を驚かれているのかはわからない。
だが、実は今日は錆兎が長期任務から帰ってくる日で、義勇は1ヶ月ぶりに帰ってくる錆兎のために食事を作って待っていてやりたいので、早くここから辞したかった。
なので
「えっと…話がそれだけならもういいか?
今日は錆兎が1ヶ月ぶりに任務から戻るらしいから、美味しいものをつくってやりたいので買い物をして帰りたいし、早く辞したい」
と、固まったままの不死川に言って横をすり抜けようとすると、またガシっと腕を掴まれたので、一瞬足を止めて振り返った。
すると随分と真面目な顔をした不死川と目があう。
結婚?
え?結婚って???
「え…結婚って?誰が?誰と?」
と聞き返した義勇の言動は決しておかしくないと思う。
だって主語がない。
結婚という言葉に縁がありそうなのは伊黒と甘露寺、そして宇髄夫妻だが、その話は義勇だってさきほどの柱合会議にはいたのだから聞いている。
他にもあれから申し出た人間がいるのなら、それは主語を言ってもらわねばわからないじゃないか…
そんなことを思いつつも不死川の答えを待っていたら、
「俺とお前に決まってんだろうがぁ、ボケがぁ」
と、コツンと…普段のゴツンというのとはだいぶ力加減の違う拳骨を頭に落されて義勇は驚きのあまり目を丸くした。
「え??なぜ??」
と聞いたのも、まったく当たり前の反応だと思う。
だって不死川はわかりやすく義勇のことが大嫌いだ。
ところが当の不死川はとんでもないことを言い出した。
「あ~…なんつうか…今までも別にお前のことが憎いとか嫌いとかそういうんじゃなくてなぁ…
まあお館様の話聞いて、俺も善意には素直に返しておこうと思ってなぁ」
と、少し視線をそらしてガシガシと頭を掻く不死川。
もう本気で文脈がつかめないが、おそらく善意に~のくだりは、仲良くしようと努力していた義勇に邪険な態度を返していたことを反省しているということなのだろう。
でもだからと言って結婚はやりすぎだ。
単に同僚に邪険にし過ぎたからというだけで、謝罪のために結婚ってどんだけ度を超えて生真面目なんだ。
極端から極端に走る男だな…と思いつつ、それでもそんな謝罪の仕方をされても困るので、義勇はきっぱりと言う。
「俺は錆兎に同僚とは仲良くやれと言われたから柱全員と仲良くしなければと思って不死川にもそう接してきたつもりだし、これからでも仲良くしてくれれば嬉しいが、別に責任を取って結婚までしてくれなくても良い。
そういう事を言い始めたら、柱全員と結婚しなければならなくなるし、そもそも俺は別にどの柱とも結婚するつもりはない」
義勇は至極当たり前の返答を返したつもりだったが、それは不死川にとってなんだか驚くべき言葉だったらしい。
今度は彼の方が目を丸くして固まった。
何を驚かれているのかはわからない。
だが、実は今日は錆兎が長期任務から帰ってくる日で、義勇は1ヶ月ぶりに帰ってくる錆兎のために食事を作って待っていてやりたいので、早くここから辞したかった。
なので
「えっと…話がそれだけならもういいか?
今日は錆兎が1ヶ月ぶりに任務から戻るらしいから、美味しいものをつくってやりたいので買い物をして帰りたいし、早く辞したい」
と、固まったままの不死川に言って横をすり抜けようとすると、またガシっと腕を掴まれたので、一瞬足を止めて振り返った。
すると随分と真面目な顔をした不死川と目があう。
──お前…錆兎のことが好きなのかぁ?
と、そこでいきなりの質問。
そんなことは日が東から昇って西に沈むくらい当たり前のことだろう。
錆兎を嫌いな人間なんてよほど捻くれた奴以外はいるわけがない。
と、そんな思いを込めて
「そんなこと、当たり前のことだろう」
と、大きくうなずくと、義勇はその手を振りほどいて、これ以上時間を取られるのはごめんだと足早に産屋敷邸から飛び出した。
Before <<< >>> Next (12月22日公開予定)
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