前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_2再会…そして逃走

「失礼します」
とドアをノックをしたあと、義勇は手にした黒く固い表紙の日誌を自分のクラスの担任に渡した。

廊下にはまだ炭治郎の気配。

職員室を出たらまた話を蒸し返されるのだろうか…。
そう思ったらしばらくここで時間をつぶしたい気分になったが、あいにくと義勇はあまり社交的でなく、気軽に担任と雑談を始められる性格ではない。

仕方ない…諦めてまた不毛なやりとりをしながら帰宅するか…
そうため息をついて担任の机から離れようと顔をあげると、少し離れた窓際の2年の担任の机のあたりに錆兎がいた。

今生では仲の良い友人になったのであろう、宇髄と不死川と共に、担任と雑談しながら笑っている。

ああ、良いなぁ…と思う。

前世ではああやって錆兎の横で笑っていたのは自分だった。
いつもいつも一緒に寝起きをして、同じものを見て、同じことを体験して、同じ楽しみを共有していたのに、今ではこうして遠めに眺めることしか出来ない。

いや、生きて驚くほど格好良く成長した錆兎を遠めにでも目に出来るだけでも幸せなのかもしれないが…

それでもその視線が自分に向かないのは悲しいと思ってしまう。

だめだ…このままでは泣いてしまう…
そう思って義勇は慌てて錆兎から視線を反らすようにうつむいたが、視界がじわりと涙で潤んだ。

…と、その時である。
奇跡が起こった。

グイっと掴まれる腕。
引き寄せられる身体。

鬼狩りをするのに刀を振るうため否応なしに鍛えるしかなかった前世とは違い、物心ついた頃から喘息持ちだったのもあって鍛えることもなく貧弱な現世の義勇の体は、抵抗もなくストン!と、錆兎の厚い胸板に押し付けられた。

…え??
と、顔をあげると、自分が知っていた頃よりもずっと成長して男の顔になった前世の幼馴染が、

──少し話があるんだ。時間大丈夫か?
と、少し気遣わしげな顔で見下ろしてくる。

かっこいい、かっこいい、かっこいい!
やっぱり錆兎は本当に顔が良いなぁ……

などと思いつつも戸惑っていると、いきなり交流のなかった上級生が下級生に声をかけたことで、職員室にいる教師が

「なんだ、渡辺、知り合いか?」
などと様子見なのだろう、声をかけてきた。

それに錆兎は
「いえ…実弥がちょっと弟の事で気になることがあるらしくて、同じクラスの奴からこっそり話聞きたいとのことなので。
たいしたことじゃないって言えばたいしたことないことだから、本人にバレると過保護だって怒られるっていうから、口固そうなあたりに聞くのが良いかなと」
と、にこやかに説明する。


そうか、そうだったのか。

錆兎が特別に義勇に用があるわけじゃないと知って少しがっかりもしたが、それでも今生でこんなに接近できたばかりか言葉まで交わせるなんて快挙だ。
義勇は心の中で不死川実弥の弟の玄弥に感謝する。

不死川実弥は後ろを向いていて表情は見えないが、その隣にいる宇髄は少しぽかんとした顔をして…しかしすぐに、気を取り直したように

「あ~、実弥兄ちゃんはこんな顔してても弟が可愛くてしゃあねえって過保護だからなっ。
じゃ、場所変えるか?」
と、不死川の腕を取ってこちらに来ると、自分が義勇の後ろ、左右に錆兎と不死川で囲むように並んで、そのまま後ろのドアから職員室を後にした。


そして廊下に出てそのまま曲がり角まで来てそこを曲がると、

──…で?場所は?
と、聞いてくる。

場所?誰に聞いているんだ?と義勇が思っていると、義勇の左側にいた錆兎が

──とりあえず美術室?宇髄、部長だし鍵持ってるんだろ?
と、答えて、宇髄に向かって手を伸ばした。

そこにチャリンと落とされる美術室の鍵。

そのあたりで義勇もさすがに何かおかしいと思う。

…が、おかしくてもかまわない。
どんな理由であろうと、錆兎が自分と一緒に過ごしてくれるならそれだけで幸せだ。
だから黙って従っている。

階段まで来ると

──じゃ、実弥と手分けして荷物取ってくるわ
と後ろ手に手を振って小走りに消えていく宇髄と不死川。

「じゃ、俺らは美術室な?」
と、それと同時に美術室のある4階へとうながしつつ、義勇に向けてくる錆兎の笑顔が懐かしくも眩しくて泣きそうだ。

…というか、泣いた。

すると錆兎は少し驚いたように目をみはって、それから
「美術室までもう少し頑張れ」
と、ポケットから綺麗にプレスしたハンカチを出して、義勇の目元にあててくれる。


そうして促されるまま美術室へ向かう道々も、

──いきなり驚かせてごめんな?
と、謝罪。

ああ、優しい。
優しいな…と思う。

前世の頃から錆兎はぶっきらぼうに見えてとても優しい少年だった。
優しすぎて他を襲わせないために刀の限界を超えて鬼を狩り続けて、最終的に他の候補者全員の命と引き換えに自らの命を落としてしまうほどには…

凛々しく整った容姿はあの頃のまま変わらないが、まだまだ少年だったあの頃と違って成長し、今も剣道に打ち込んでいて鍛えている錆兎の体はそれとわかるほどに筋肉質で、背も高く、義勇の背に回された手も義勇のものより一回り大きくて固い。

あの最終選別で死ななければ、きっと今よりもさらにたくましく育って、自分ではなく錆兎が水柱として活躍していただろう。

でももしそれがわかっていても、目の前のまだ弱い同期達を救うため、錆兎はきっと同じ道を辿っていたと思う。

そして
──だからといって目の前にいる奴を見捨てられないだろう?
と言いながら困ったような笑みを浮かべる様が目に浮かぶようだ。


そんなことを考えつつ辿りついた美術室。
錆兎はまず義勇を中に入れて自分も入ると、なぜか内側からしっかりと鍵をかけた。

そして、え?という顔をする義勇に

「宇髄達が来たらちゃんと開けるから。
今は万が一のために閉めておくな」
と、謎の説明をしつつ、窓際からもドア側からも離れた丁度真ん中あたりに椅子を2脚持ってきて、一脚を義勇に勧めてくる。

そこで義勇がわけがわからないなりにそれに座ると、自分は椅子には座らずに義勇の目の前に片膝をついて、

「おせっかいだったらごめんな?
お前さ、もしかして付きまといで困ってたりしないか?」
と、綺麗な藤色の目で義勇を見上げてきた。


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