前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_3相談と提案…そして

──もしかして付きまといで困ってたりしないか?

いつだって錆兎を見つめ続けてきたが声をかける勇気は無く、今生では初めて言葉を交わすくらいの関係だったのに、なぜか連れて来られた美術室でいきなりそう聞かれて、義勇はぽかんと口を開けて呆けた。


え?え?ええっ?!何故知ってる?!!

口が達者どころか口下手なので咄嗟に言葉が出ないままただ口をパクパクしていると、錆兎は笑みを浮かべる。

懐かしい。
前世ではしょっちゅう向けられていた優しい笑み。

思い出すと切なくて、きゅうっと胸が痛んで、どうにも出ない言葉の替わりにまた涙がぽろりと零れ落ちた。


そんな義勇の涙を錆兎はまたハンカチでぬぐってくれると、

「慌てなくてもゆっくりでいいからな。
そうだな…お前が落ち着くまで俺が何故そう思ったのか、話しておこうか」
と、前世でよくそうしてくれたように、落ち着かせようと背をぽんぽんと軽く叩いて口を開く。

もうその仕草だけで義勇はいっぱいいっぱいになって号泣。

すると、錆兎は
「さっきな、炭治郎がなんだかお前に言い募っていて、お前の方は逃げるように職員室に入ってきて、ずっとドアのほうを気にしているように見えたから。
それで、本当は職員室を出たくないような感じに思えたし、あいつに見つからないように連れ出してやった方が良いのかなと思った。
もしかして…ずっと困ってたりしたか?」
と、今度は子どもをあやすように頭を撫でてくる。

どうやらいきなり泣き出したことを、炭治郎のことで泣くほど困っていたのだと思ったらしい。

まあ…実際には困ってはいたので、全くの誤解ではないのだが…
今は炭治郎のことより、なぜか錆兎が自分のことを気にかけて声をかけてくれたことが嬉しい。

優しく面倒見の良い錆兎からすれば、自分の同級生のことでなにやら困っている下級生を助けてやろうくらいのことなのかもしれないが、ずっと言葉を交わすきっかけすらつかめなかった義勇にしてみれば、今回のことは本当に快挙だ。

少しだけ炭治郎に感謝してやってもいいとすら思う。
少しだけだが…

とりあえず義勇はしゃくりをあげながらも、炭治郎とのこれまでの諸々を話し始めた。
万が一にでも錆兎にだけは誤解はされたくないので、本当に困っているのだと訴える。


錆兎は──そうか…と少し考え込んだ。
少し寄せられる男らしい眉。
綺麗な藤色の瞳はキリリと真剣な色合いを帯び、形の良い唇が少しへの字になる。
もうその表情自体が完璧にカッコよくて、義勇はドキドキしながら彼に見惚れた。


錆兎がそうやって考え込んでいる間に義勇も考え込む。

これは…チャンスではないだろうか。
断っても断っても諦めてくれない炭治郎に諦めてもらうには、誰か恋人を作るのが一番だが、義勇にはそんなことを頼める相手はいない。
だから、恋人のフリをしてもらえないだろうか…と、そんな風に話を持っていけば、しばらくは錆兎と一緒に居られるのでは…

普通に一緒に居たい旨を伝えて断られたら気まずいが、今のこの状況なら…!!

「あの…」
義勇は思い切って口を開いた。

錆兎の顔は怖くて見られなくて、ぎゅっと目を瞑る。
思わず握りこんだこぶしには汗。

それでも思い切って

──…高校の間だけでも…付き合ってもらえませんか…?
と、義勇がそう口にした瞬間、目を瞑っていてもすぐ傍で錆兎が固まるのを感じた。

そして義勇は絶望する。

そうだ。
たとえ前世から…今生でも、周りに同性を好きになる人間が多くいたとしても、錆兎もそうだとは限らない。
いや、錆兎の性格からすればむしろ異性愛者だと考えるのが普通かもしれない。

前世の時だって義勇が一方的に恋情を抱いていただけで、錆兎はあのまま生きていたら普通に器量良しの嫁の一人でももらって、子の一人でも設けていた可能性が高い気がした。

そう思い当たると義勇は猛烈に恥ずかしくなって、たった今自分が口にした言葉を巻き戻したい気がしたが、発してしまった言葉は元には戻らない。


同性同士で気持ちが悪い…

そんなことを錆兎に言われたら、もう二度と立ち直れない気がして、義勇は今この瞬間に死んでしまいたくなった。

…が……錆兎は義勇が思っているよりもはるかに優しい男だったらしい。

──わかった。そうしよう。今日この時から俺はお前の恋人だ。炭治郎にはそう言って断ってやる。

…え…?
義勇が驚きのあまり瞑っていた目を開いて錆兎を見ると、錆兎は少し困ったように笑って、

──…というわけで、今からお前を義勇って名前で呼ぶぞ。お前も俺のことは錆兎って名前で呼べ。
と、言った。

自分で言い出しておいてなんだが、あまりに都合が良い返答過ぎて、一瞬意味がわからなかった。
夢を見ているのか、本当は別の意味の言葉を自分がそう思いたいような意味に勘違いしてしまっているのか…と、思わず考えてしまう。

しかし考えてみても、それは“そういう意味”にしか取れなかった。

本当に本当に、驚くしかない夢のような展開に義勇は口だけでなくその大きい青い目をもぽかんと見開いたまま呆然と固まっていたが、

──…どうした?それでは何か困るか?それとも嫌か?
と、少し気遣わしげな顔でそう言って義勇の頬に触れてきた錆兎の暖かい手の感触に、義勇は慌てて首を横に振る。

こんな人生でも最高に幸せな申し出を取り消されたりしたら、きっと自分はショック死してしまうと思って、もう思い切り振った。

たとえ同情でもいい。
錆兎と一緒に居られて、期間限定の嘘でも長年想い続けてきた錆兎と恋人のようになれるなら、その後に何が起きようと、その想い出だけで残りの人生を幸せに過ごせるだろう。

それでもついついあの一緒に過ごした少年期に戻って

──…ありがとう…でも…迷惑じゃない?
と、そうだと言われてももう取り消されたら絶対に困るのだがおずおずとそう口にすると、錆兎はあの頃と同じ、義勇が大好きだったあの優しく力強い笑みで

──大丈夫。迷惑なんかじゃないぞ。何も心配せず俺に任せろ
と、言ってくれる。


「というわけで、義勇、もうすぐ宇髄と不死川が俺とお前のカバンを持ってきてくれるから、今日は一緒に帰るぞ」

そう言う錆兎に頷いて、義勇は促されるまま錆兎と連絡先も交換。
期間限定でフェイクではあるが、もう数百年も抱える片思いの相手と付き合えることになった。


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