前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_4朝の護衛

実にキラキラしい翌朝。

大きいとは言い難い、急行も止まらない駅の殺風景さも、それでも住宅地ということもあって都心の勤め先や学校へと急ぐ大勢の乗客の忙しなさも何一つ変わることは無かった。

が、前方に綺麗な宍色の髪をたなびかせて爽やかな笑みを浮かべて手を振る美丈夫が目に入った瞬間、そこがまるで青春ドラマか恋愛映画の世界へと早変わりした気がした。


本格的に剣道をやっているためか元々の血筋なのか、他人よりもずいぶんと大きな手。
上背もおそらく180は超えているだろう。

鬼の居る時代でもないのにうっすらと残る右唇から頬にかけての傷跡は、幼い頃に親戚一同で行った旅行中に遭遇した事故で、錆兎自身の両親も含めてかなりの大人が亡くなって周り中がパニックに陥る中で従姉妹を庇った時に負った名誉の勲章らしい。

それは錆兎が高校生の剣道の全国大会で優勝した時に、錆兎を特集した雑誌のインタビューで知った。

そして今生でも錆兎はやっぱり錆兎だなと義勇は思った。


ともあれ、昨日、その錆兎から自宅を10分早く出るように言われていつもよりも早く駅についた義勇がそんな風に前世よりも年を経て頼もしく成長した錆兎がそこにいることに驚いて固まっていると、錆兎は笑顔のまま駆け寄ってきた。


「おはよう、義勇」
と、頭半分ほど高い位置から錆兎が言う。


え?何故ここに?…と思っていると、
「登校中にもきちんと護衛できた方がいいだろう?
これからは迎えに来るから一緒に登校しよう。
今週は部活が休みだからこの時間で、来週からは悪いが30分ほど早く家を出てもらえるか?」
と言いつつ、当たり前に持っていたカバンを取り上げられる。

「え?あ、あのっ…時間はいいけど、カバンは自分で持てるからっ!」

片手で義勇と自分のカバンを持って、もう片方の手で当たり前に義勇の手を取る錆兎に、義勇は慌ててそう言うが

「俺にとっては付き合うっていうことは、こういうことだ。
もちろん義勇には義勇の付き合い方があるんだとは思うが、少なくとも今回、俺と付き合っているからということで諦めてもらうとしたら、こういう付き合っているということがわかりやすい付き合い方の方がいいだろう?
だからとりあえず最初は俺のやり方でやってもらって、その後、少しずつ擦り合わせをしていかないか?」
と、そう言われるともう返す言葉がない。

だって嫌なわけじゃないのだ。

今はもう嫁に行ってしまったが、今生でもやっぱり姉として生まれた蔦子姉さんに幼い頃から少女マンガを見せられてきた義勇は、自分で言うのもなんだが少女趣味に育っている。

好きな相手に大切に守られて幸せに暮らす…そんな展開は決して嫌いではない…というか、大好きだ。

大好きな大好きな錆兎にそんな風に大切な宝物のように扱われた日には、幸せすぎて眩暈がしてしまう。


「…ありがとう…錆兎」
と、熱を持った顔で見上げると、

「ん。じゃあ行くか」
と、錆兎はまた笑って頷いた。


こうしてまるで物語の中の主人公にでもなったような夢心地で階段を上がっていると、スマホが振動した。
ポケットに手を突っ込んでスマホの着信を見ると、やはり炭治郎からである。

いつもいくらやめてくれと言っても義勇の家まで迎えに来てしまうので、今日も来ていて、出てこない義勇に痺れを切らしたのだろう。

自業自得、スルーしてしまおうか…と一瞬思うが、さすがに待ちぼうけの末の遅刻は気の毒だと思って仕方なしに出てみた。

すると案の定
『義勇さん、今日は学校お休みされるんですか?
もしそうなら俺も一緒に休みますから、とりあえず開けてください』
と、声がする。

いや、義勇が休むなら自分も休むってなんだ?
ずる休みはだめだ、だめだろう?
…と、その発言に呆れながらも、義勇はとりあえずその認識を正すことにする。


「いや、今はもう駅だ。今日は早く家を出たから」
と、伝えると、電話の向こうで
『え?!なんで今日に限って?ちょっと待っててくださいっ!急いで行きます!』
と、焦った声がした。


そんなやりとりをしているうちにホームに着き、ちょうど電車が来たので、電話中なら待つか?どうする?と視線で問いかけてくる錆兎に大丈夫、乗る、と、アイコンタクトを送りながら、

「人と一緒だし、もう電車来たから切る」
と言って、強引に通話を終わらせてスマホの電源を切る。


「もしかして炭治郎からか?」
と、そのやりとりを黙って見ていた錆兎の問いに義勇が頷くと、錆兎は

「やっぱり登校中から追いかけてたのか。
迎えに来て正解だったな」
と、苦笑した。


そうか…それを察してわざわざ一緒に登校することにしてくれたのか…

と、義勇は今更ながらに錆兎の気遣いを知って感動すると同時に、さすが錆兎!と、もう前世から何回そう思ったかわからない言葉を心の中で叫ぶ。

義勇の脳内では錆兎はいつだって強くて優しい正義の味方だ。
錆兎が隣にいてくれれば何があっても全ては大丈夫なのである。

ずっとずっとこうして再び錆兎の隣に居られる事を夢見ていた。

それが今叶っているだけでも嬉しすぎるくらいなのに、錆兎は混んできた電車の中で、ドア側に立つ義勇の左右に手をついて潰されないように庇ってくれるなど、まるで本当に大切な恋人に対するような扱いをしてくれる。

それだけじゃない。

「朝早く出ても待ち伏せられてたりしたら嫌だろうし、今日は帰りは一緒に帰って義勇の家まで送ってって場所を確認するな。
で、明日からは家まで迎えに行くから」
なんてことまで言ってくれた。

普通なら遠慮すべきところなのだろうし、他の相手なら義勇もそこまでは悪いから…と辞退しているところだが、相手は錆兎だ。
前世から知っているこの想い人の性格はよくわかっている。
やるのが嫌なら自分から申し出たりはしない男だ。


だからこそ

「ありがとう…。
本当に…どうしようと思っていたんだ。
これで本当に安心して玄関を出られる」
と、素直に喜んで礼を言う

すると錆兎も

「ん。どういたしまして。
もう大丈夫だからな。
他にも何か困ってたらいつでも連絡しろよ」
と、綺麗な藤色の目を少し細めて笑みを浮かべた。


いつもなら不快な満員電車も庇うような錆兎の両腕に包まれていると、まるでそこだけ幸せな夢空間だ。

ずっとこうして話すどころか視線を交わすことすら出来なかったことを考えると、今の状況は幸せすぎて眩暈がする。

本当に不謹慎だが炭治郎様々だ。


…と、そんなことを考えていたのが悪かったのだろうか…
錆兎と並んで校門をくぐった義勇は、とんでもない光景を目にすることになる。




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