前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_1告白と拒絶

「無理だ…お前のことは本当にそういう風に見ることは出来ない」

もう何回この言葉を繰り返しただろう。
竈門炭治郎…“今は”1歳年上の幼なじみだ。

この“今は”という点については、かなり特殊な事情がある。


彼、冨岡義勇には前世の記憶というものがあった。
そして彼に執拗に交際を申し込み続ける炭治郎もまた、前世の記憶を持つ人間である。

義勇が覚えている前世は大正時代。

当時は巷に人を喰う鬼が蔓延っていて、義勇はその鬼を退治する剣士の集まりである鬼殺隊という組織の最高位である柱と呼ばれる身分の人間だった。

その任務の時に助けた8歳年下の少年がこの竈門炭治郎である。

色々事情があって彼を自分の師匠である鱗滝左近次を紹介。
炭治郎も剣士としての技術を身につけ、試験を経て、鬼殺隊に入隊。
最終的に共に鬼の頭領である鬼舞辻無惨を倒した仲だ。

当時は命の恩人である義勇を慕ってくる可愛い後輩だったと記憶している。

義勇は前世では最愛の幼馴染を亡くした13の時以来、感情が凍りついてしまったような状態で、そこに生来の不器用さも加わってずいぶんと取っ付きにくく付き合いにくい性格で、他人に距離を取られがちだったが、炭治郎は反応の悪い義勇に臆することもなく、ずいぶんと人懐っこく絡んできたものだ。

そうなれば義勇だって多少はほだされる。

炭治郎少年に弟のような子どものような…そんな感情が芽生え始めて、最終的にはこの子どもを守ってやりたいと、自分の姉や幼馴染が自分に対してそうしてくれたように、命に代えても助けてやりたいと思うようになった。

そう、前世の義勇にとっては彼は可愛い庇護者だったのである。


それが今生で生まれ変わると相手は1歳年上で、親の都合で年中の半ばで転園した先の幼稚園の年長組に通っていた。

互いに幼い頃から前世の記憶があったようで、炭治郎はすぐに気づいて寄ってきた。
そしてそれから毎日毎休み時間に年中組の義勇を訪ねてくる。

最初はそれを受け入れていた義勇だが、本当に毎日毎休み時間だとさすがに困ってしまった。
決して外交的ではないので、自分の同年齢の友人を作ることが出来なくなってしまう。

だからそれとなく炭治郎は炭治郎の学年の友人もいるだろうし、自分も他の交友関係を作りたいから、もう少し遠慮してくれと頼んだのだが聞いてもらえない。

『年中組の友人なんて作らなくても、俺と居ればいいじゃないですかっ。
俺も義勇さんと居た方が楽しいし、俺、通いますよっ』
と、あの太陽のような笑みを浮かべて言う。

そうじゃない!そうじゃないんだ、迷惑なんだ!!
と、ハッキリ言ったこともあるのだが、

『迷惑だなんて、ひどいなぁ。
俺だって傷ついちゃいますよ~』

などと頭を掻きながら言いつつ、それでも全然傷つく風もなく、全く堪える風もなく、相変わらず通い詰め続けた。


そういえば前世でもそんな感じだった。
人の言うことを聞かずにグイグイ来る少年で、最終的に義勇のほうが根負けをした気がする。

それでもまあ、炭治郎も年長組で来年には小学校だから、それもあと1年ほどで終わるだろう…と、今生でも義勇は諦めた。


実際、翌年には炭治郎も卒園して行って、小学校の帰りが早い時に帰りに寄ったりはしてきたが、そういう日はそんなに多くは無い。

おかげで義勇も多少知り合いと友達の間くらいの距離感の相手は数人作ることができたが、小学生になると、また幼稚園の時の繰り返し。

なまじ幼稚舎から大学まで一貫校だったから、本当にこれまでもこの先も変わらないのだろうと思った。

でも上級生がついていればいじめとかもなかったし、炭治郎は前世の恩を返すかのように色々親切にしてくれたし、義勇の側に何か求めることもしなかったので、まあ、いいか…と諦めていたのだが、義勇が高等部に進学してすぐくらいから困ったことが起き始める。

それが冒頭の言葉につながるわけだが…
なんと付き合ってくれと言われ始めたのだ。


「何度も何度も言っているが、そういう目でお前を見たことはないし、この先も見ることはできない」
と、何度断っただろうか。

「今更それはないですよ。
そういう目で見たことがないなら、これから考えてみてください」
「無理だ」
「義勇さん、前世もそうでしたけど簡単に切り捨てすぎです」

そんな問答をここ半年ばかり毎日のようにしている。

が、本当に無理なのだ。


学校は男子校で、前世も男が多い団体だったのもあって、同性ということは義勇の中では正直それほど問題ではない。

前世でも男同士で想いあっている人間は回りにごまんといた。
かくいう義勇だってその一人だ。

…とは言っても…出会って3年間、子どものように無邪気な想いを持っていて、失って数年もした思春期に、ああ、あれが初恋で自分にとってこの世で唯一にして永遠の愛だったのか…と、24で死ぬまで自分の中だけで抱え続けただけの実ることはなかった想いだったのだが…


確かにあの時代、炭治郎には弟のような親愛の情はあって自分の命よりは優先してやろうとは思っていたのだが、それは恋情には決してならない。

命はくれてやれても心はくれてやれない、そんな感情だったのだ。


炭治郎が年下でまだ頼りない少年だったということもないとは言えないが、それ以前に、自分の全ての恋情を伴った感情は、いつでもただ一人の人物に向いている。

錆兎……

義勇が10の歳から3年間を一緒に過ごした兄弟弟子。

鬼殺隊の最終選別で同期全員の命を救うのと引き換えに自らの命を落とした、強く正義感にあふれた…でも誰よりも優しい少年。

義勇の恋心は一片たりとも余さず全て彼のものなのだ。
それは今生でも変わらない。

なんと彼もまた今生に転生して、しかも義勇と同じ学校のクラスは違うが炭治郎と同じ学年、1学年上にいた。

義勇たちの学校は中等部まではいくつか系列校があって、高校で系列の中学から皆が集まり一つの学校になる。
錆兎はその系列校の一つに通っていたようだ。

これも本当に何かの縁だったのだろうか…

義勇は高等部に進学して初めて、錆兎が中等部まで通っていた学校にかなり見知った面々もまた通っていた事を知る。

まあ、個人的には錆兎以外はどうでも良いと言えばどうでも良いのだが…

ただ、錆兎と同じ学年に生まれて錆兎と恐らく幼稚舎から一緒にすごしてきたのであろう彼らがひどく羨ましくはあった。


こうして錆兎をみかけて、前世で命を落とした13歳を超えて生きている錆兎を目の当たりにして嬉しくはなったが、声をかけたい…とは思わなかった。

だって彼は相変わらず面倒見の良さもあって人気者だ。

勉強も運動も出来て、あの、義勇と二人きりで学んでいた頃と違って、同級生はもちろん、上級生からも下級生からも大勢から慕われている。

二人きりの環境でなければ、義勇なんかが近寄れるような相手ではなかったのだ。

それでも…それでも今生でも変わらずに、義勇の恋心は錆兎にのみ向けられていて、それは前世と同じく死ぬまで変わることはないだろう。

だから…元々弟分として見ていた炭治郎は論外としても、義勇が錆兎以外の誰かに恋心を向けるということはありえないことなのだ。


前世では炭治郎は霊魂となって狭霧山に留まっていた錆兎の指南を受けて剣術の腕を磨いて最終選別を突破したので、彼もまた錆兎のことはよく知っている。

だから唯一くらいに錆兎のことを語れる相手ということもあって、こんなことになっている今ですら、傍にいることを拒絶しきれない。
錆兎に近づくことを諦めた分、錆兎について語るくらいはしたくて、それが出来る相手は本当に炭治郎だけなのだ。

だが、惰性でのこれ以上の接近はダメだと思う。


炭治郎が義勇がきっぱり『不快だから近づくな』といっても、それを聞き入れるような性格ではないことは前世で思い知っているのだが、それでもそこは譲れない。

どうしたら諦めてくれるのか…と、もう数ヶ月も続くこの押し問答にもいい加減疲れてきた。

その日もとにかく無理だっ!と振りきって、義勇は日直だったので担任に日誌を届けに職員室へと向かった。


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