温泉旅行殺人事件_Ver錆義27_エピローグ

「なんか…色々えぐられる事件だったな…」
帰りの電車の中で錆兎がつぶやいた。
いつものごとくその横では錆兎の肩に頭を預けて義勇がすやすや寝息をたてている。

今までの事件というのは、一番最近の宇髄の別荘のもの以外はたいてい犯人に問題があって、犯人が捕まってめでたしめでたしというものだった。

が、今回のは違う。
どう考えても被害者が悪い。

まあ…その明らかに悪い被害者は殺されたのだし、このままでは炭治郎の身の危険がなくならないかもと思えば、解決しないという選択肢はなかったのだが、なまじ犯人達と犯罪が起こる前から良い関係が築かれていて、その人柄の良さも知ってしまっているだけに、自らの手で引導を渡してしまったことが、どうしても心に影を落とす。


「まあねぇ…人間関係考えさせられたよ、色々。
澄花さんは豪快で面白いおばさんだったし、雅之さんは穏やかで優しくて、俺、結構好きだったのになぁ…」
と、善逸も脱力したように肘掛けに肘をついて言った。

「法は必ずしも善性や正義とイコールではないって事だな」
と、そこで炭治郎がそんな彼らしからぬ発言をして、錆兎と善逸を驚かせる。

二人の驚きの視線を受けて、炭治郎は
「だって俺と義勇さんが巻き込まれたりしなければ、たぶん錆兎が介入することはなくて、そうしたら未解決の殺人事件だったと思うけど、解決しなくても誰も困らなかったんじゃないか?
むしろ女性に乱暴してそれをネタに脅迫して関係を強要するような男が裁かれずに生きていたら、第二第三の犠牲者が出たんじゃないだろうか。
俺にも二人妹がいるから、他人事とは思えない」
と、実に彼らしい怒りを表明した。


確かに…確かにそうかもしれないが、日本が法治国家である以上、そこは法にゆだねなければならない。

…となると、20年も前の婦女暴行はとっくに時効で、悪人は野放しなわけだが…


はぁ…と、錆兎もため息をつく。

父親が警察関係者で自身もまっすぐ正義感を持ち続けてその後を追うようにその職を目指し続けてきたわけだが、皆と出会った夏休みのオンラインゲーム以降、本当に色々と揺さぶられることが多すぎる。

現実社会は本当に、白黒ではなく灰色で動いているのだ。
一所懸命でも必ずしも報われるわけじゃない。

世の中はとかく不公平なものだ…。
と、同じく善逸もそれを痛感している。

ただ、彼の場合は錆兎と違って、そんな不条理なんて日々感じ続けながら育ってきたので、ある種諦めと言うか、達観しているところはあるのだが…

それでも善逸は少しでも薄暗い世界からの脱出を夢に見る。


正月早々に凶を引くなんて不吉な始まりに相応しい旅行だったのかもしれないが、凶は…これ以上悪くはならないからあとは好転するだけとう考え方もあるらしい。

ということは、次こそは自体が好転するはず…。

次こそは奮発した500円分くらいの良い事は起こしてくれよ、頼むよ、神様…。
変な事に巻き込まれないようにって言う願いはきいてくれなかったんだから、次こそはもう一つの願い事は頼むよ、マジ…。

静かな時間が流れる中、善逸は心の中でそう祈りつつ、今回は大変な思いをさせたから…と、宇髄の年上の彼女である美人女将の秋ちゃんがみんなに持たせてくれた料理自慢の宿特製の豪華幕の内弁当を、ありがたく頬張った。

──完──



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