ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん7_ヤンデレ台風進路変更2


こうして錆兎は善逸を自宅まで送り届けて寮へ帰ると、相変わらず階段前ロビーで役員周りとたむろしている宇髄に、

「宇髄、彼女が元聖星って言ってたよな?今でも知り合いいるか?」
と、声をかける。

「お~!聖星だけじゃなく、大抵の有名女子校にはツテあるぜ?」
「いや、別に女子校巡りしたいわけじゃないから、そのツテは村田にでも使ってやってくれ。
そうじゃなくて例の電波の問題解決のために学祭に乗り込みたいから」
「あぁ?例のやつ聖星の女なのかよ。まさか知り合いじゃねえだろうなぁ」
「学校に行けばわかるだろ。てことで、お前も来てくれ」
「りょ~かい!その代わり今度ジジイが帰国した時はつきあってくれ。
お前と仲良しなとこ見てえらしいから」
「ああ、わかった」

と、そんなやりとりのあと、部屋に戻る。

そうして部屋のドアを開けると、同居人兼恋人様はリビングのソファの上で膝を抱えておかんむりだ。

善逸の様子を見に行こう…そう思いついて、ふいっとその旨を義勇と同じクラスの煉獄にメールして義勇を頼んで出てきたからだろう。

「ただいま」
と声をかけると、むぅっとした顔でそれでも
「…おかえり…」
とは返事をする。

今までもそうだったが、義勇はどんなに腹をたてていても行き帰りの挨拶を無視はしない。
おそらく、分かれたきり──ただいま──の言葉が二度と聞けなくなった経験があるからだろう。

「…煉獄に聞いたかもしれないが…善逸の様子が気になって見に行ってた。
相手がどんなやつかわからないから、お前を巻き込みたくなかった」
と、義勇の前に膝をついて、義勇の顔の高さに視線を合わせてそう説明すると、義勇は

「…巻き込まない錆兎が嫌だ……」
と、膝に顔を埋めて言った。

「…もし危険な可能性があるなら…余計に一緒に居たい。
善逸と言えど他人を守るために危険に飛び込んだ錆兎に何かあったらと怯えて待つ俺の気持ちを錆兎はわかってないだろう…」

ぐすっと鼻をすする音がする。
震える肩。

そこで錆兎は初めて悪いことをした…と思った。

「助けるな…とは言わない…。
助けが必要だと思う相手が居れば、俺がどれだけ止めようと助けにいってしまうのが錆兎だ。
それで止まるようならたぶんそれは錆兎の偽者で錆兎じゃない。
そんなこと俺だってわかってる…。
でも危険な場所なら余計に一緒に居たいんだ。
足手まといなら見捨ててくれても良いから…。
離れてる間に死なれるくらいなら、錆兎を見れる場所で自分が死にたい…」

お前と一緒にいるようになっていつも思っている…とそんな事を言われて胸が詰まる。

うかつだった。
過去に最愛の姉をあんな風に亡くした義勇は、自分が帰って来るまで、どんな気持ちでこうやって1人ソファで膝を抱えて待っていたのだろうと思うと、錆兎の方も泣きそうな気分になる。

「義勇…ごめん。本当にごめんな。
次からは絶対に連れて行くから」

と、言いながら錆兎は少し考えた。

そして、両手を義勇の頬に添えて顔をあげさせ、目に涙をいっぱいにたたえてシャクリをあげる義勇の前髪をそっとかきあげて、

額にするのは友情のキス…お前は俺の一番の友人、親友だ」
と、義勇の額に唇を落とす。

すると義勇の目が少し興味深げに錆兎の動きを追い始めた。
それにクスリと笑みをもらした錆兎は今度は膝を抱えた義勇の片手を取って、その掌に口づける。

掌にするのは懇願のキス。泣かせて悪かった。泣き止んでくれ」

そして次にその手をくるりとひっくり返して手の甲に口づけ。

手の甲にするのは尊敬のキス。お前とは互いに高めあって尊敬しあえる関係でありたいと願っている」

次にその手をぐいっと引いて、ぽすんと義勇の身体を抱き込んで、その首筋に軽く歯をたてたかと思うと、そのまま唇をゆっくり肩から腕へと這わせていく。

首と腕にするのは欲望のキス。欲情するのはお前にだけだ…唯一の愛しい恋人だからな」

それから今度は義勇の髪を一房取って口づけてニコリ。

髪へのキスは親愛のキス。一番可愛い、守ってやりたいと思うのもやはり義勇だ」

そうして最後は唇に。
優しく優しく触れたあと、視線をしっかり義勇に合わせて

──唇へのキスは…愛情のキスだ……誰よりも何よりも大切に思っている

と、吐息とともにそういう錆兎に、義勇はすっかりキャパシティをオーバーして両手で顔を覆った。

なんなんだ、なんなんだ、このイケメン高校生はっ!!
と、そのまま足をバタバタさせる。


「馬鹿かっ?!錆兎はなんでそんなに馬鹿みたいにカッコいいんだっ!!」
と、思わず真っ赤になった顔で睨むと、錆兎は
「機嫌なおったか?」
と、ハッハッと笑う。

「お前は少女漫画の主人公かっ?!」
「ん~義勇はこういうの好きかと思ってな」
「…嫌いじゃないけどっ…………好きだけどっ…恥ずかしいぞっ」
「ん、好きならいい。俺もかなり恥ずかしいが、お前が喜んでくれるならいくらでもやってやるし、言ってやる。機嫌はなおったか?」

立ち止まる事はできない性分だから、あるいはそれでお前を悲しませる事もあるかもしれないが、同じ過ちは二度はしないように気をつけるし、辛い思いをさせたなら、その倍楽しく嬉しい思いをさせてやれるように努めるから…お前は一生俺の側で笑っていてくれ…などと言われて、いまだ拗ねてるなんてことができるわけがない。

本当にとんでもない錆兎だ、と、義勇は思う。


「次は…今週末に例の炭治郎のストーカーの関係で宇髄を連れて聖星の学祭に足を運ぶ予定なんだが、お前も行くか?」

と、錆兎はその言葉通り、義勇が今回取ってほしくないと言った行動についてはきちんと改めてくれるつもりらしく、そう聞いてくる。

もちろんそれに義勇が否というはずもなく、義勇の聖星の学祭行きも決定した。



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