ファントム殺人事件_Ver錆義15_名探偵、闇に紛れし真実を照らす

部屋につくなり錆兎はそれぞれ問題の日と同じ位置につくように指示をする。
それから錆兎は黒河の遺書をPCに一旦落とすと、そのまま人数分印刷した。

そのうち、一旦は家や寮に帰っていたらしい村田と煉獄、そして井川、最後に東が入ってくる。


「今黒河先生がそこで自殺したって警察が言ってたけど…やっぱり先生が犯人なのか?」
と村田。

「…ったく…俺はこの中では一番多忙な身なんだぞ。
一応テニス部のOBとしての責任もあるから来てやったんだ!
ちゃっちゃとすませろ、加藤!」
と東もイライラした口調で言った。

全員集まった所で加藤はチラリと錆兎に合図を送り、錆兎はそれにうなづいてまず宇髄に黒河の遺書を配らせた。

「今回は当校内で起こった事というのもありますので、俺が加藤さんから説明等の役割を一任されてますので、よろしくお願いします。」
錆兎はその間にそう言って頭を下げる。

それから全員に遺書を印刷した紙が行き渡ったのを確認すると、
「まず、お配りした用紙に目を通して下さい。」
と全員にうながす。

「これ…おかしくないですか?」
まず井川が口を開いた。

しかしその後の言葉を続ける前に東がそれにかぶせる。

「どこがだ?!結局黒河先生の老いらくの恋ってやつだろ?
まさにオペラ座の怪人じゃないか。
若い綺麗な奴に惚れた当然相手にはされないであろう男。
醜男かジジイかってだけの違いで。
ま、あのジイさん観劇とか好きだったからな。
年甲斐もなくロマンに浸ってみたんだろ」

「先生になんて言い方をっ!!」
その東の馬鹿にした言い方に、黒河を尊敬していた井川が激昂した。

「ホントの事だろうがっ!
先生とか言ってるが結局実は単に現役高校生に血迷って人殺したただのエロジジイじゃないかっ!」
東はそんな井川にさらに小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

「二人とも止めて下さい!」
錆兎はそんな二人の間に入って、二人を引き離した。

「とりあえず…感情的になるのは事態を混乱させるだけです。
今説明するので俺の説明を聞いて下さい」
と井川に言い、東にも

「とりあえず不必要にあおるのは止めて下さい。
そもそも…本当に黒河先生が犯人だと思いますか?
と静かに聞く。

「他にないだろっ」
東はその錆兎の言葉に思い切りうなづいた。

「ようはあれだろっ。
生徒会のミスコンの候補者を優勝させるために、そいつに惚れこんだ黒河がライバル消しにかかったってだけだろ。」
その東の言葉に彼以外の周りがお互い顔を見合わせてざわついた。


「確かに…黒河先生がうち(生徒会)の候補者に惚れ込んだのは確かだと思う」
錆兎はそんなざわめきの中話始めた。

「あの日…丁度こんな感じで今のメンバーが揃ってて、3人の先輩諸兄には義勇を生徒会の候補者として宇髄が紹介しましたね?」

「おう、そうだったな」
と、それに頷く加藤。

「この時点では義勇が生徒会の候補者という情報がOBの皆さんにはインプットされました」

「ちょっと待て!お前の言ってる事がよくわからん」
そこで東が話をさえぎるが、錆兎はそれに対して

「おそらく東さんが疑問に思っていらっしゃる点については、今後の説明で納得して頂けると思いますので、しばらく静聴のほど、お願いします」
と返して続けた。

「で、その後、黒河先生が登場。
先生にも義勇を生徒会のミスコン候補者として紹介しました。
ということで、この時点では全員が義勇のことをミスコン候補者として認識しています

「ちょっと待て、それどういう意味があるんだ?」
机の上で腕組みをして聞いていた東が眉をひそめると、錆兎はデスクの上からミスコンの候補者名簿の用紙を手に取ると、皆に見えるようにかざした。


「…!!!???」
目をむいてピョンと机から飛び降りる東。

「皆さんが帰られたあと、正確には翌日の昼にですね、村田が義勇に代わってミスコンに出ることを宇髄が提案、生徒会からの参加者はその時点で義勇から村田に代わってるんです。
ということで、これ以後は義勇が出場予定者だったと知る機会はなくなるので、今回の犯人は義勇が生徒会からの出場者という認識を持つ事のできた当日の来訪者にしぼられるということで、皆さんにこちらに来て頂いた訳です」

「ちょっと待てよっ。犯人はだから黒河だったんだろ?!
この遺書にもそう書いてあるじゃないか」

東はヒラヒラと黒河の遺書のコピーを振った。
その様子に錆兎は小さく息を吐き出した。

「先生は確かに”ファントム”です。でも殺人を犯したのは別人ですよ。
それをこれから立証しますので、繰り返しますが静聴をお願いします」

錆兎の言葉に加藤がギロっと一同をにらみつけると、渋々全員が口をつぐむ。

「続けます。」
錆兎は言って先を続けた。

「その日、黒河先生は義勇が寮生だと知ったのだと思います。
そこからは東さんがさきほどおっしゃった通り。
現役高校生である義勇。年齢的に釣り合う恋人もいるとなると、叶う恋ではない。
立場上の事もあるし通常の手段で思いを告げる事もできない。

それでも何か伝えたかったんでしょう。
先生は観劇が趣味な事もあって、その時の自分をオペラ座の怪人の”ファントム”になぞらえて、叶わないとわかっていても伝えたい気持ちがある事を表現しようとして、目立たないように寮の裏口にカードを添えて花を置いた。
先生がやった事といえばその程度の事で、まあ…とがめられるほどの事でもないと思います」

「ちょっと待った…。錆兎、それじゃあ…」
驚く加藤に錆兎はうなづいて

「はい。ここからはクリスティーヌに恋をした”ファントム”ではなくて、”ファントムの正体を知った普通の人間”が彼を騙って行った、ロマンも何もないただの犯罪です。」
と、言いきった。

「ここで終わればただの切なくも悲しいロマンティストな男の恋物語で済んだんですが、問題は…その先生の様子をコッソリつけて全て見ていた人間がいたということです。

その人物は先生が花をこっそり寮の裏口に置いたあと、さらにこっそりその花に近づいてカード等を確認。
それで先生の名乗った”ファントム”の名を利用して、自分が殺害したい相手を殺害しようと考えました。

脅迫状はその人物…”偽ファントム”が送りつけたもので、テニス部の候補者を殺害したのもその”偽ファントム”です」

「誰がその”偽ファントム”なんですっ?!先生を殺したのもそいつなんですねっ?!」
憤る井川を制して

「落ち着いて下さい、井川さん。これからそれを説明しますから」
と、錆兎はとりあえず興奮状態の井川を椅子に座らせた。



「まず…一つ事実を確認しておきます。
黒河先生は”ファントム”でした。
彼にとってのクリスティーヌは“生徒会のミスコン候補者”という立場の人間ではなく、義勇という個人です。

とりあえずそれだけ明らかにした上で話を進めます。

学祭準備の一日目、黒河先生が寮の裏口に義勇宛ての花を置くのを確認した犯人は黒河先生を使って殺人計画を練ろうと考えます。

そして犯人はカードをチェックし、”ファントム”の名をみて、クリスティーヌを主演にすえるため邪魔者を排除するオペラ座の怪人”ファントム”になぞらえて、義勇をミスコンで優勝させるために邪魔者を排除していく”ファントム”という図式を考えだします。

その後犯人は最終的に、自宅がわかるテニス部の候補者は自宅に、自宅のわからないサッカー部、化学部の候補者に対しては部室に、同じカードで脅迫状を送りつけることにしました」

「ちょっ、ちょっと待て!
それじゃ、お前はテニス部OBの俺が犯人だと言いたいのか?!」
錆兎の言葉に東が慌てて駆け出すと錆兎の襟首をつかんで詰め寄った。

錆兎はその手首を静かにつかむとはずさせて、ゆっくりその手を下におろさせる。

「やましいところがないなら…静かに聞いていて下さい。
全てを話したあとで反論なり質問なりは受け付けます」

「ふざけるなっ!
素人探偵のくだらん推理など聞いてられるかっ!
名誉毀損で訴えてやるっ!!」
叫んで帰ろうとする東の腕を加藤がつかむ。

「警察の横暴も糾弾するぞ!」
それに対してギロリと加藤をにらみつける東だが、加藤は

「できるもんならな。
俺は海陽生徒会の期待の星でもあるこの名探偵に自分のクビかけるぜ?
と平然と言い放った。

その言葉に一瞬目を丸くする錆兎。
それから
「これは…絶対に失敗できませんね」
と苦笑した。

「まあ…東さんがまどろっこしいのが嫌だとおっしゃるので、結論言います。
殺人の犯人は黒河先生ではありません。

黒河先生にとってのクリスティーヌが義勇個人であるのに対して、犯人にとってのクリスティーヌは生徒会のミスコン候補者の立場にあるもの、つまり本来村田になります。

しかし犯人は殺害した黒河先生の遺書を偽装する際に義勇をミスコンで優勝させたいということで話を進めています。

ゆえに、犯人は”クリスティーヌ”に当たる生徒会からの候補者が”村田”ではなく”義勇”と思い込んでいた人物という事になります。
なので各人の認識を追って行きたいと思います。

まず生徒会役員は全員その後の候補者に村田を据えるという確認取っているので省きます。
残るは加藤さん、井川さん、東さん、黒河先生。

そのうち東さんを除く3人は、翌日、生徒会室に来て、候補者が村田に変更になったという話をきいています。

だから…その時点で黒河先生にとってのミスコン出場者は義勇ではなく村田に修正変更されているので、義勇をミスコンで優勝させるために黒河先生が殺人を犯すというのはありえないんです。

現に黒河先生は、その後義勇をクリスティーヌとして、ラウルと幸せにという祝福のメッセージと花を再度送っていますが、一枚目のカードと同様、それに添えたカードでもミスコンうんぬんについては全く触れてません。

で、東さんが最後までそれを知らなかったのは、ついさっきのご本人の発言から明らかなわけですが…」

「でたらめだっ!黒河が犯人じゃないからといって俺が犯人だなんて証拠にはならんぞ!
俺を陥れるために誰かが仕組んだんだ!」
東は加藤に腕を掴まれたままさけぶ。
それにも錆兎はうなづいた。

「あとは…物的証拠ですね」

錆兎は片手に持っていた茶封筒から2枚のカード、そして3通の脅迫状を取り出した。



「これがそれぞれ受けとったカードおよび脅迫状です」
錆兎はそれを指し示して言った。

「まず3通の脅迫状から。
まずテニス部の候補者のモノ。
おそらく本人と…あとは東さんの指紋がついています」

「当たり前だろう!俺がお前に渡したんだっ!その時についたにきまってるだろう!
そんな事で犯人にされては敵わん!」

東がムスッというのに錆兎は
「そうですね。そこでついてないとか言う方が怪しいです」
と淡々とうなづいた。


「これでわかっただろう!じゃあ…」
という東の言葉を完全にスルーして錆兎は続けた。

「他の部に届いたモノに関してはおそらく発見した部員とその他数人のそれを見た部員達の物らしき指紋がついてます。

ということで脅迫状はいいとして…問題は花に添えられていたカード。

2回目に義勇の方に届いたのは発見後すぐ手袋をして回収したので黒河先生の指紋のみなんですが…最初に届いた方には何故か黒河先生以外にもう一人…そのカードを盗み見た時についたありえない人物の指紋が残っていたんですよ
おそらく…脅迫状に関しては気を使ったんでしょうけど、まだ殺害計画をきっちり練っていなかった頃に触れたものにはそれほど気をつかってなかったんでしょうね…東さん」

錆兎の言葉に東は唇を噛み締めてうなだれた。

「…嫌な男だとは思ったが…ホントに貴様ほど嫌な男に会った事はないぞ…」

その言葉に錆兎は苦笑した。

「俺じゃありませんよ。日本の警察が優秀なだけです。俺は今回加藤さんの代理です」
「…この大嘘つきめっ。地獄に堕ちろ」

「あんな事言われてるぜ?」
シン…とした沈黙を宇髄のクスクス笑いがやぶった。

その宇髄の言葉に元ミッションスクール生の義勇が真剣な顔で言う。
「大丈夫っ。俺がちゃんと天国に行けるようにマリア様にお祈りをしてやるからっ」

その真剣な語調の言葉に
「頼むな、真面目に…。思い切り頼りにしてるから」
と若干情けない声を出す錆兎に吹き出す一同。

結局その後、警察に連行された東は最終的に、後輩であるテニス部の候補者と関係を持っていたこと、上司の娘との縁談が持ち上がり別れ話を持ちだして揉めたため、殺害を目論んだことなどを自供したらしい。

こうして”ファントム”騒動は幕を閉じた。


Before <<<    >>> Next


2 件のコメント :

  1. 些細な誤変換を見つけたので「自体」→事態かと(^^;お暇な時にご確認くださいませ。

    返信削除
    返信
    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😊

      削除