水と土の石はすでにアーサーの手に戻され、火と風の石はギルベルトとフェリシアーノの中でそれぞれ光っている。
床に描かれた魔方陣の中央でアーサーが意識を集中すると、火と風の石も呼び掛けに応じて宙へと浮かび上がり、4つの石が魔方陣の中央に立つアーサーの周りをクルクルと回った。
(汝…我らに何を望む?)
4つの石の意識がアーサーの頭の中に流れ込んでくる。
宝玉の…永遠の消滅を…
アーサーがそう心の中で祈ると、4つの石は相談するように互いに寄り添い、そして離れて行った。
(人の意識はすでにそこまで進化したのだな…了解した…これ以後我らの力は世界に霧散し、宝玉という集合体になる事はない。賢明な人間よ…さらばだ)
そう告げると、4つの石はぱぁ~っと散って空気に溶け込んでいった。
「…ああ……」
一度は体内にそれを取りこんで存在を感じていたギルベルト、フェリシアーノ、マシューは少し名残惜しげに声をもらした。
「行ってもうたなぁ…」
「うん…」
「…ですねぇ……」
しみじみとつぶやく3人。
そんな当事者の感慨はなんのその、ギルベルトは
「んじゃ、帰ろうぜっ」
と声をあげた。
「ギルって…ほんと空気読まない男よね」
呆れ声のエリザに
「空気は破って壊して作るもんなんだろ?」
と、ギルベルトはケセセっと笑う。
「ま、いいわ。みんなとりあえずの目的なくなったわけなんだけど、それぞれこれからどうするの?」
エリザの問いに、は~い!とフェリシアーノがまず元気よく手をあげた。
「俺ね、せっかく武器とか買ったわけだしさ、冒険者になるっ!決めたっ!」
その言葉に一同生温かい視線をルートに送る。
みんなに注目されたルートは
「これを止めるのは無理だろう?必然的に俺もだ。国王陛下はまだまだお元気そうだしな。フェリが冒険者に飽きるまでに間に合わなかったら、申し訳ないがローデに頑張ってもらおう」
と大きく息を吐き出した。
「ま、俺もせっかくきたわけだし、あと1年はつきあうかな」
と、それにロヴィーノものっかり、エリザは
「その頃までに南のエロ王のタゲはずれてるといいわね、ふふっ」
とまぜっかえす。
「で?ギルベルト兄ちゃんとアーサーも来るんだよね?」
と当然のように聞いてくるフェリシアーノに、ギルベルトは
「俺はアルトしだいだ。どうする?」
とアーサーを振り返った。
「俺は……」
言いにくそうに口ごもるアーサーに
「なんでもいいぜ?好きにしろよ?」
とギルベルトが言うと、アーサーはぽつりと
「家に…帰りたい」
とつぶやいた。
「ええ??!!ちょ、待ったっ!実家帰るって事かっ?!!」
「…いや…あの……西の国の……」
真っ赤になってうつむくアーサーに、は~っと大きく安堵の息を吐き出すギルベルト。
「なんだよ、それならそうと早く言ってくれよ。なんでそこで口ごもるんだ?」
「だって…あれはギルベルトの家…だし……」
ごにょごにょ言うアーサーにギルベルトは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「何言ってんだよ。俺とアルトの家だろ。じゃ俺らの家に帰るか~」
こうして帰国する事にした二人以外はスコットの魔法で一気に大陸に送ってもらう事になった。
「ね、ホントに来ないの?きっとみんなで旅したら楽しいよ?」
まだ諦めきれないフェリシアーノに、アーサーはごめんな、と微笑む。
「まあアルトはその気になったら自力で大陸渡れるしいいんじゃね?
遊びたくなったらまた“ねこのみみ亭”行くわ」
とギルベルトがフォローを入れると
「きっとだよっ!」
とフェリシアーノ達は大陸へと戻って行った。
(まあ…当分は行かせねえけどな~)
と、ギルベルトが思っていたのは秘密である。
「で?魔法で一気に帰るのか?」
というギルベルトの問いに、アーサーは少し迷って
「少し…寄り道していいか?」
と聞いた。
「もちろん。どこ寄りたいんだ?」
とのギルベルトの質問には、行けばわかるとだけ返して、アーサーは絨毯を飛ばした。
そして辿り着いたのは…
「ああ…ここらへんだなぁ…」
ギルベルトは懐かしげに目を細めた。
「この辺でお前倒れてたんだぜ」
東の国と西の国の国境にある戦場跡。
崩れかけた建物の影をギルベルトは指さした。
「うん。このへんでうずくまってたのは覚えてる。
あの時はまさかこんな事になるなんて思ってもみなかったけど…」
そう言いつつ、アーサーはキョロキョロと辺りを見回している。
「何探しとるん?」
「…いや…なんでもない。行こう」
「…?」
アーサーが首を横に振って立ち去りかけた時、どこからともなく、にゃ~んと猫の鳴き声が聞こえてきた。
「え?まさかあの時の猫じゃないよな?」
その声に反応して姿を探すギルベルトの足元にはいつのまにか気配もなく猫がすりよっている。
「うあ~久しぶりじゃん、元気にしてたか~」
ギルベルトが声をかけると、猫はニヨリと微笑んだような気がした。
同じくアーサーの足元にも子猫がいる。
「やっぱり…普通の猫じゃないんだな?お前」
アーサーが猫にかけた声にギルベルトは不思議そうに首をかしげる。
「なんで?」
「だってほら、あれから2カ月以上もたつのに大きさ変わってないし」
「あ~~!!」
ギルベルトの方の猫は成猫だったから全然気付かなかったが、確かにアーサーの足元の子猫はもうあれからだいぶたつわけだから大きくなっているはずだ。
(あ~あ、ばれちゃったね)
(うん、ばれちゃった)
猫はクスクスと笑みを浮かべると、それぞれまた二人の足元にすり寄った。
(私達ね、クリスマスの妖精。クリスマスに人間の願いを一つ叶えてあげる事にしてるのよ)
「ほえ?」
呆然とする二人の目の前で猫達は金色の光を放ち、宙へと消えて行く。
(ねえ、プレゼントは気にいった?)
最後に聞こえた言葉…
「ああ、もちろんだぜっ!ありがとな~!!」
すでに光となった影に向かってギルベルトは大きく手を振って叫んだ。
「本当にに…クリスマスの贈り物だったんだな。
…てことは…もう俺のモンで返さねえでもいいんだな」
猫達の消えた戦場跡、ギルベルトはそう言ってアーサーを抱きしめる。
ずっとずっと欲しかった。一人は嫌だと泣いた声を拾ってくれたのはサンタではなく妖精だったらしいが、聖なる夜にはプレゼントが…という乳母のおとぎ話はどうやら本当だったようだ。
(妖精さん、ほんとありがとな。贈り物、本当に大事にさせてもらうわ。)
ギルベルトはしばらく妖精たちの消えた空をながめて、そう心の中でつぶやいたのだった。
── 完 ──
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