──初めまして。こちらレベル58~60の白黒赤竜シのパーティですが、レベル上げご一緒して頂けませんか?狩り場はアイアン平原、終了は0時の予定です。
──ぜひ、よろしくお願いします。
──ありがとうございます!お誘いします!!
と、レベル上げパーティに必須のタンクを無事勧誘。
『みなさん!レベル60のナイトさん入りますっ!!』
と、パーティ会話で報告すると、あがる歓声。
タンク不足の激戦区で無事タンクをゲット!!
誘われ待ちを投げ捨てたリーダーの面目躍如の瞬間である。
まるで幼かった子どもが立派な大人になった姿を語るかのようにしみじみと言うノアノア。
『お姫さん、集めるの早いよな。
人気ジョブは結構パーティ選んで誘われても無視する輩とか多いのに、ほぼ返事もらえるもんな。
誘い方が上手いんだよな。言うべき事を簡潔に、でも漏れなく伝えるから』
『ああ、それは確かになっ。
ただ──パーティどうですか?──的な誘い方する輩も多いからな』
『最低限の挨拶と、他のメンバーのジョブ、レベル、狩り場、終了時間を網羅して伝えてくれるリーダーだときちんとしてそうで安心するし、馬鹿じゃなさそうだからそこそこ稼げそうな予感するよな』
そんな頼もしかった先輩諸兄の言葉に義勇は機嫌よく最後の1人にパーティの誘いを送った。
そうして今日もレベル上げに出発する。
固定パーティの先輩達と共に着々とあがるレベル、今日もゲームは楽しく平和に進んでいくのであった。
そんなここ最近ずっと一緒の固定パーティ発足の裏事情はというと……
──お姫さんはお姫さんであるがゆえに、ストーカーは常に現れ続ける
それが錆兎の出した結論だった。
ではどうするか?となった時に思ったのは、もうユウの側でストーカーがストーカー化しないように見張るしかない、ということである。
で、結局ゲーム内で一番多いのはレベル上げにかかる時間なので、そこを共有しようと、ノアノアを巻き込んで3人で固定パーティを組むことにした。
幸いにしてユウは誘われにくいDPS(アタッカー)の自分達と違って誘われやすいヒーラーなのもありレベルはすっかり追いついていたので、日々3人固定+野良で3名探してレベルをあげることにする。
リーダーは最初は錆兎がやっていたのだが、そこで、自分のための固定なのだから付き合ってくれている錆兎に手間をかけるのは申し訳ない…と、自分がパーティを作るリーダーを引き受けると申し出るあたりが、ユウがそんじょそこらの甘ったれたお姫ちゃんと違うところだ。
どことなく可愛らしさがにじみ出ていて、その気になれば好きなだけ甘やかしてくれる相手などいくらでも見つかるのに、自分で出来る事は極力自分でする、他に迷惑をかけないようにしようとする気づかいがあるあたりが、錆兎的にはとても好感が持てる。
そんなユウだから、返って甘やかしてやりたい、甘えて欲しいと思うくらいだ。
さすが俺のユウだ!!
そう思う錆兎が虫よけの盾になる理由に、いつしか単なる保護という以外の物が混じり始めている事は、本人も気づいていない。
しかしそんな彼の心の変化に気づく者もちらほら…そう、一番彼の側にいるもう一人の固定メンバーとか?
──新郎がオークに追われているところを助けたのが、新婦と新郎の出会ったきっかけでした…
最近すっかり有名になったこのゲームは、そんなコマーシャルでさらに有名になった。
宇髄もよくそのコマーシャルをみかけて、これまでは、『ネトゲに夢を持ちすぎだろ』と思っていたのだが、最近はそんな出会いをするCPが本当に身近に発生するかもしれねえな…と思い始めていた。
そんなリアルと現実をごっちゃにする輩が身近にいたらうっとおしいと思っていたのだが、案外悪くない。
自分がそうなりたいかと言うとリアルで可愛い恋人達がいるので丁重にゴメンこうむりたいところなのだが、双方を知っている親しい若者達がもどかしく距離を縮めていくのを見ているのは意外に楽しい。
宇髄がそう思っている相手は、自分のリアル部下だが自分の方が何かと面倒を見てもらっている鱗滝錆兎と、元々世話好きの彼がネット上で面倒をみているユウという名の少女キャラである。
このユウの方は、最初のギルドでケイトというそのギルドのマスターが連れて来たネット初心者らしいプレイヤーだ。
紅茶や刺繍、花などに詳しかったり、そう主張するわけでもないのにどこか愛らしい女性らしさがにじみ出ている少女キャラ。
甘やかしたがる周りに甘えることなく、常に礼儀正しく敬語を崩さず、自分のことは極力自分でやろうとしたうえで、助けを求める時も極力相手に手間暇をかけないようにという心遣いが見え隠れする今時珍しく出来たお嬢ちゃんだ。
先日も60になった彼女のホワイトメイジのクラス装備取りを手伝ったのだが、6人パーティが3組一緒に行動するアライアンスでするそのイベントで、当然のようにイベントに必要な諸々をきちんと調べた上で野良で他のクラス装備希望者やヘルプを集うのは本人。
自分がお願いしたヘルプには、当たり前にその場所に行くまでに必要な戦闘を避けるために姿を隠す薬や戦闘に必要な食べ物と薬を自前で配布。
最後にはお礼にとそのジョブに合わせた食べ物を1ダースずつ渡す気遣いようである。
ノアノアはドカン!と一発がでかいブラックメイジなのでレベル上げでは誘われにくい反面、イベントのヘルプではよく呼ばれるが、正直ここまで丁寧できちんとした当事者は初めてだ。
やや天然なところがあるが、とても真面目で細やかさに満ちた良いお嬢ちゃんだと常々感心する。
彼女を連れて来たケイトには勝手に夫婦扱いをされて内心辟易としたものを感じてはいたのだが、彼女を見いだしてきた事だけはGJ!と思う。
そんな彼女がケイトに粘着されて困っていた時にそれを助けたのが、リアルで自分が世話になっている部下で実に好青年だと思っている錆兎だ。
自分はネット恋愛は面倒くさい人間なのだが、彼らが徐々に親しくなっていく様をみているのは楽しい。
どうせなら2人くっついてしまえばさらに楽しいのに…と思い始める。
ユウの方の年齢も性別もわからないのでリアルでまでとは言わないが、ネット内では非常に性格も良い美男美女なわけだし、イルヴィスウェディングくらいしてもいいのではないだろうか。
そんなあれこれを見るのもオンラインゲームの楽しみの一つではある。
と、宇髄の彼女の1人はそんな二人の話を聞いて、実は秘かにやっている同人活動の最新刊に、そんな2人の物語を題材にしたいかも…などと言っている。
題材はそう…
──新婦がストーカーに追われているところを助けたのが、新婦と新郎の出会ったきっかけでした…
あたりでどうでしょう?…と。
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