とある白姫の誕生秘話13_伝説のストーカー、その名は…

お姫さん、それダメなやつだ!断れっ!!

伝説のストーカー、ヒゲとの付き合いは、そんなウサの言葉と共に始まった……



いつもの通りのレベル上げパーティ。
今日は狩り場へ向かうにはアクティブな敵の多い所を通るため、全員音を消す白魔法をユウにかけてもらっての移動。
その途中でみつかる遺体。

『えっと…蘇生して差し上げてよろしいですか?』
と一応時間が若干でもかかることだしと、パーティのメンバーに許可を求める優しい白姫の言葉に否と言うほど余裕のないプレイヤーもおらず、皆快く了承。

その上でユウが何故かこんな場所で1人で倒れている戦士に蘇生魔法をかけて蘇生する。

白姫の小さな手の先にやどった柔らかな光が倒れている戦士を包み込み、ふわりと身体が浮くように置き上がる戦士。

「ありがとうございます。助かりました」
と深々と礼。

「いいえ。ちょうど通りがかって良かったです。
ではお気をつけて。
私達は行きますね」
と、にこやかに微笑みながら手を振るユウを、しかしながらその戦士は

「あの、申し訳ないのですが…」
と、呼びとめた。

「はい?」
こくんと小首をかしげるユウ。

彼女が足を止めると、彼女を守るように前を歩く竜騎士も足を止め、彼女に付き従うように後ろを歩くブラックメイジがあたりにモンスターが現れないかを警戒する。
それに倣って他のメンバーもやや壁沿いに移動して待機した。

「もし徒歩で帰られるのなら、姿消しの薬を持参しておりますのでお分けいたしましょうか?」

ホワイトメイジの姿消しの魔法と同じ効果の薬。
それは自分で魔法を使えるユウには本来必要がないものなのだ。

が、魔法には効果時間があり、定期的にかけ直さなければならないのだが、姿消しの効果は魔法を使用したり攻撃行動を取ったりすると切れてしまうため、敵から見えない場所までもたないと他のメンバーにかけ直す時に彼女にかかった魔法は解けてしまう。

そこで魔法で自身にかけなおしていると、呪文の最中に見つかってしまうので、一瞬で効果を発揮できる薬を彼女はいつも持参している。

もちろん本来はそういう場所で切れそうになった時は切れそうな本人が薬を使うべきで、ウサやノアノアなどは黙って自前の薬を使うが、中にはホワイトメイジがかけてくれる事を前提に薬を持参しないプレイヤーも少なからずいるので、ユウは多めに薬を持ち歩いているのだ。

そんなこともあって、今回も戦士がこんなところで1人で死んでいるということは、薬がきれたのかと思って聞くユウに、戦士は

「ご親切にありがとうございます。
でも俺は1人で来たわけではなくて…実はパーティーが少し離れた所で全滅していて、助けを呼ぶために人が通りそうなあたりまで逃げて来たんです。
狩り場に向かう途中で本当にお手数をおかけして申し訳ないのですが、うちのパーティの白だけでも蘇生して頂けないでしょうか?」
と、申し訳なさそうに申し出た。

なるほど。そういうわけだったのか…と、納得する一同。

『どうしましょう?皆さんが少しだけお時間がよろしければ、私個人としては助けてさしあげたいんですが…』
と、それはパーティ会話で相談するユウ。

『俺はかまわない』
とまずお姫さんに賛同する竜騎士ウサを皮切りに
『俺もかまわねえよ?』
『そうですね。明日は我が身かもしれませんし』
『普通に死に戻りだとデスペナが痛いゲームですしね』
『救出に行きますか~』
と、ウサとノアノア以外も了承してくれたので、

「わかりました。
追尾しますので現場まで案内してくださいな」
と、最終的にユウが了承の意を示して、戦士の案内で彼らのパーティが全滅している場所まで向かうことになった。



こうして徒歩で3分ほど。
アクティブなモンスターのただなかに転がる5体の遺体。

それをブラックメイジの引き寄せの呪文で自分達のいる安全な場所に引き寄せる黒のノアノアと、サブクラスをブラックメイジにしているためメインの半分までの黒魔法を使えるユウ。

こうして足元に5体の遺体が転がった時点で、ユウがホワイトメイジに蘇生魔法をかけた。
光に包まれてふわりとおきあがるホワイトメイジ。

本来ならこれで『それではっ!』と去っても良いのだが、蘇生後5分はデスペナルティでHPとMPが10分の1の衰弱状態になっているので、蘇生されたばかりのホワイトメイジはMPが足りなくて蘇生魔法を唱えられない。

「とりあえず次はナイトを起こすか?
そうしてそちらの白とナイト、2人で蘇生したら早いだろう。
ここは一応敵はわかないが、他のパーティのとばっちりで敵が通る事がないとも言えないし。
俺達が行ったら危険だろう?」

ウサの提案は通りがかりで蘇生を頼まれたパーティとしてはもっともなものだ。
全員を回復するにはそれなりにMP消費もあるので、ユウ自身もMP回復に時間を取られるし、それだけこちらの狩りが遅れる。

一応ホワイトメイジを蘇生した時点で最悪全員蘇生の道は開かれたわけだから、そこで衰弱中の危険について気遣うだけ優しいとも言える。

しかし全滅側のパーティの方は無言だ。
それが即ち彼らの言葉にはできない意志表示とも言えた。


そう、ナイトやレッドメイジも蘇生魔法が使えるのだが、このゲームではデスペナルティとしてレベル×200の経験値が減るなかで、減る経験値が本職のホワイトメイジしか使えない蘇生レベル3だと減るのが本来の5%に、2だと25%に、ただの蘇生魔法だと50%に軽減される。
だから出来れば皆本職の蘇生を受けたいのが人情というものだ。

ユウはまだレベル的に蘇生2しか使えないので25%だ。
が、プレイヤーのレベルが60だとしても、素で12000減るよりはナイトの蘇生で6000になる方が良いが、それがさらに3000になると思えば、経験値を稼ぐのが大変なこのゲーム的には絶対に3000ですませたい。

しかしそこで言葉をあげたのは、当のナイトだった。

「申し訳ないが、そちらのナイトの蘇生で良いから俺を起こしてくれないだろうか?
俺は一刻も早く起きて衰弱を終えてパーティを守る義務がある。
もしお姫様のMPに余裕があるようなら、レッドメイジを起こしてやってもらえないか?
できれば他のメンバーは白さんの蘇生2で起こしてもらうが、状況的に危なくなったら俺がタゲをとって敵を引き離している間に彼の蘇生で全員起こして白さんのワープ魔法で安全な場所に逃げてもらうので」

その場に居た全員がおおーーー!!!と思う。


『…ナイトの鑑だな』
と、こちら側のナイトが感嘆したようにパーティ会話で呟いた。

『ああいうナイトさんこそ白さんの蘇生2で起こしてあげたいですね』
『本当にな。どうだ?あっちのパーティが復帰するまで待たねえか?』
『それが良いと思います!』

『…ってことでウサとユウちゃんもかまわねえか?』

何故か無言の2人。
真っ先に反応しそうな2人が無反応なのをいぶかしく思いながら、ノアノアがそう言うと、まずウサが

『あ、ああ。すまない。考え事してた。いいんじゃないか?』
と答え、

『そうですね。そうしましょう』
と、ユウは答える前にすでに蘇生2の詠唱に入っていた。


……???

律義な2人のそれぞれの反応に首をかしげつつも、ノアノアはサブクラスの白魔法を使って、念のためパーティーメンバーに姿隠しの魔法をかけていった。

その一方で錆兎にウィスを送る。

──錆兎、どうかしたのか?
と、聞くと一瞬の間。

返って来た言葉は
──あのナイト…ユウの知り合い…か?

──はぁ?そうなのか?
──いや、わからないが…
──…何故そう思ったんだよ?
──……自分とこの白は“白さん”で、ユウのことは“お姫様”…だったから
──あ~!!言われてみればっ!!!

あれだけの会話の中でよくその部分を拾いあげたモノだ…と、錆兎の注意深さに宇髄は感心する。
だからリアルの仕事でもあれだけ有能なのだろう。
いや、リアルが有能な彼だからそこに気づく…というのが正しいのだろうか……


──知り合いかどうかは本人に聞けばいいんじゃね?

ユウは聞かれれば錆兎に隠しごとはしないだろうと思って言うと、

──…聞いた
──それで?
──ちょっと取り込み中だから待ってくれって返って来た。
──なるほど。


まあ…そういう反応なら9割方知り合いなのだろう。
知り合いじゃないなら違うと一言言えば良いだけだ。
そうじゃないからどういう知り合いかを言うのには時間が足りないと言う事だと宇髄も思うし、錆兎もそう判断したのだろう。


こうしてそれからは衰弱から回復したあちらのパーティのホワイトメイジと一緒にユウが全員に蘇生2の魔法をかけていく。
そして全員無事復活。

あちらのパーティから丁寧な礼を受けて、その日ももう少し奥まで行ってレベル上げを始めた。



──ウサさん、さきほどの話ですけど……
と、ユウからウィスが来たのは、狩りが始まって少し落ちついてきた時のことだ。

──さっき?ああ、例のナイトの事か

あたりに気を配りながらも、モンスターの沸かない場所までシーフが連れて来たモンスターを倒し終わって次を連れてくるまでの間、一息入れつつ錆兎は保留にされたままの質問を思いだした。

──ええ。実はウサさん達と固定を組む前に一度ご一緒した事があるんです。
──それで覚えてた?
──だと思います。とてもスキルも高いナイトさんで
──ほお?
──狩り場に行く途中で迷った時も1人で戻って来て下さって
──ほおほお……

(つまり…他のパーティメンバーを放置でお姫さんを連れに戻って来た…と?)
と、このあたりで少しもやっとする。

──今回も『不思議な縁だよね。良かったらフレ登録をしてくれないか』と言われて……

お姫さん、それダメなやつだ!断れっ!!

もうそのセリフ回しが決定打だと思う。
そういう運命的なとか、その手の意味合いの言葉を吐く輩はかなりの割合でストーカー化する。
というか、今まで散々してきたじゃないか…と、錆兎は天を仰いだ。

何故気付かない?
いや、そこで警戒して気づいたらユウじゃないのかもしれないが…

──え?でも…もう登録しちゃいました…

オーマイガッ!!

──お姫さん…このゲームにはブラックリストと言う機能があってだな…
──それは知ってますけど、理由もなしにいきなりそんな失礼な真似できません。

そうだよなぁ…それが出来たらやっぱりユウじゃないな……
と、錆兎はがっくりと肩を落とした。

これは…またストーカー退治に奔走する日々が始まるのか……

ケイト、ルークと追い払った矢先に第三のストーカー出現か?!
と、そんな錆兎の当たらないで良い予感はやっぱり当たるどころか、相手がその類の事ではこれまでにない大物だった事を知るまでには、まだもう少し時間がかかる。

…俺…どんどん敵が増えていくんだが…と、ため息をつきながらも、それでも飽くまでお姫さんを守る騎士として、錆兎は覚悟を決めるのであった。



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