そうだ・現在人生やり直し中_そして現実へ

ああぁ~~とため息が聞こえた。
割れた世界の向こうは真っ白な空間で、そこにいたのは鬼殺隊の制服を着た見慣れぬ隊士。


この状況で出てきたその男が普通の人間とは思えない。
とりあえず背中にひっついたままの義勇に被害が出ても嫌なので、錆兎はその喉元に刀を突きつけて言った。

──お前が黒幕か?……と

そうして刀を突きつけられた男はあっさりゲロった。

どうやら男は鬼だが、その血鬼術はといえば夢を自由に見させることができるというもので、効力は一晩だけ。
普通の夢と変わらず、朝になれば勝手に目が覚めるだけという無害なものらしい。

「はぁ?それだけか?」
と、呆れて問えば、男は身を縮ませて

「はあ…それだけです、すみません」
と、答える。


「それで?なんでこんな悪趣味な夢を見せようと思ったんだ?」
と、錆兎がさらに問うと、男はぽかんとして、それから
「悪趣味……でした?」
と、ダ~っと滝の涙を流した。

え?え?ええ???

鬼といえどもいきなり泣かれて動揺する錆兎。

「お、おい、大丈夫か?」
と聞くとしゃくりをあげながら口を開く男。

「お、俺のっ…せいじゃなっ……」
「あ~、何がお前のせいじゃないんだ?」
と、もう半分呆れ果てながら問う錆兎に男が打ち明けた内情は、なんと鬼狩りを倒すより、楽しい夢を見させて脱落させようと言う計画だったらしい。

錆兎はこの世界の義勇もどきを乙女げぇむのご都合総受けの頭の悪い主人公の女のようだと思っていたのだが、実際目指したところはそこらしい。

『全ての男を惑わせる色っぽい巨乳天然えっち幼女』が男の理想だと上司が言いまして…」
と告白されて、錆兎は思わず鬼の首を斬り落としそうになった。

自分の大切な大切な恋人をなんてモノに改悪してくれてんだ!と、怯える鬼に引きつった笑みを向けながら、

「その上司って誰だ?」
と、問うと、鬼は無惨の名は口にしたら自動的に死ぬので、もうひとりの仕掛け人の名をあげる。

「上弦の弐、童磨様で…」
「あいつかぁぁーーーー!!!」

本当に腹が立つ。
童磨には可愛い可愛い後輩の胡蝶カナエの剣士生命を絶たれているのもあって、恨みもひとしおだ。

よし!奴はこの手で切り刻む!!
と、鬼殺隊をやめるどころか、そう決意を新たにする錆兎。


そのあたりで朝になったらしい。
目が覚めかけて、意識が現実の方に引っ張られていく。

そうして目を開ければ見慣れた天井。
それは病室のものではなく、住み慣れた水柱屋敷のもので、腕の中には相方。
しっかり手を握った状態で懐に潜り込むように眠っていたが、ぱちりと目を見開いて視線が合うと、開口一番の言葉は

「上弦の弐は俺達で倒さねばな。
俺の名を使ってあんな気味の悪い夢を見せてくれた礼は絶対にする!」
で、義勇は珍しくプンプンと怒っている。


しかし少しそうやって怒ったあとで、突然少し不安げな目で黙り込んだ。
そうしておずおずと錆兎を見上げて言う。

──…でも……やっぱり女だったら良かった…とか、思ったりはしなかったのか?

そう言ってスリッとすり寄ってくる身体は錆兎よりは細く小さいが、それでも防御の達人になる程度には鍛え上げた、常人よりは筋肉のついた男の身体だ。

錆兎は義勇の問いに、
「俺は夢の中でも言ったが、それがお前であれば男でも女でもかまわん。
だが、平和な世界であれば女でも悪くはないが、鬼のはびこる世界で共に走るには男の方が良いかもな。
子ができたら困るから安心して睦み合えないし。
祝言をあげたり夫婦と認められたり子を成したりということ全て、お前と常に共にあるというのでなければ俺にとっては意味がないから、まあ女になるなら平和な未来に生まれ変わった時だな」
と言ってその肩口に口づける。

そうか…今生ではむしろ男の方が好ましいのか…と、その言葉に義勇はホッとした。
錆兎はいつでも義勇が欲しい言葉をくれるのがすごいと思う。

そして義勇も
「そうだな。俺も錆兎の子を成せれば楽しいかとも思うが、それで戦地へと向かうお前の背を見送ることしかできなくなるのは嫌だな。
俺達は二人で1人の対柱だし、お前の背を預かるのは常に俺でありたい。
錆兎の子で地を満たすのは来世でだな」
と、笑みを浮かべた。

「…地を満たす…のか?」
義勇の言葉に錆兎がぷすっと笑うと、義勇は真顔で

「ああ、最低3人は欲しいんだ。
多ければ多いほどいい。
大きな錆兎と共に大勢の小さな錆兎に囲まれたい」
と言う。

それを想像して、錆兎はなかなか複雑な顔になった。

そして
「それは…さすがに気持ち悪くないか?」
と、思わず言えば、義勇は、”心外!!”という表情で
「気持ち悪くなどない!人生の勝ち組だ!」
などと言ったあとに
「錆兎の子の母親になりたいんだ。
錆兎の血を増やすなんて、何よりの世界貢献だ」
と、それはうっとりとした顔で口にする。

正直錆兎にはその心境はよくわからない。
だがそれが逆に義勇に似た子に置き換えて考えれば納得できてしまうので、そういうことなのだろう。

まあなにはともあれ、これだけ互いに対して強火担なのが自分たちだ。
二人で居られなくなるくらいなら、他の誰も要らない。
他の願いが全てかなったとしても、互いが居ないならそんなことは何の意味もない。

錆兎は正直子どもは大好きだし、自分の子がいれば楽しいかもとは思うが、その母親は絶対に義勇でなければならないので、もし自分たちが生きているうちに今の世が鬼のいない平和な世界になったなら、養子でもとって義勇と二人で育ててみるのも楽しいかと思っている。

まあ、それでなくとも、自分と義勇の子だと自称する後輩柱もいてしょっちゅう訪ねきて泊まっていくので、次世代を残せないのが寂しいかと言うと、そうでもないのだが…

そんなもろもろはとにかくとして、今回は本当にひどい目にあった。
ただの総受け女なら目もつぶれるが、義勇を元にした人間でそれをやられたら不快感MAX、とてつもなく喧嘩を売られた気分だ。

【上弦の弐、童磨は絶対に潰す!
それをさせている鬼舞辻無惨も当然潰す!!】

この計画を発案した無惨の意志に反して、錆兎は“打倒!鬼舞辻無惨”の決意を固くする。
もちろん対の義勇も同じくで、さらにその周りも錆兎の戦意につられて戦意が高まっていき、鬼殺隊士ではなおいっそう、鬼即斬の気運が高まっていくのであった。


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