なのに・現在人生やり直し中_番外:ご都合血鬼術の話

※Twitterで夫婦の日にちなんで公開した話です。
本編より前、本編で出てくる、無一郎&煉獄&善逸が幼児化した時の話です。



「うん、水屋敷は鬼殺隊柱専用託児所ではないのだが……」

急遽発生した極秘任務だと言われて任務先から呼び戻されてみれば、本部の人間が困り顔で連れてきたのは何処かで見た顔の幼児。
しかも前回よりも人数が増えている。

嫌な予感に任務の内容を聞いてみれば、案の定、その幼児達の面倒をみてやってくれとのこと。
そこで錆兎が冒頭のセリフを返したわけなのだが…

そこには見るからに無一郎、杏寿郎、そして善逸であろう幼児と、こちらは大人の宇髄、不死川、胡蝶に伊黒。

またご都合血鬼術か?
何故それだけ揃っていて、遠方での任務だった自分達を呼び戻す?!
そもそも何故柱に面倒を見させようとする?

と、もっともな問いかけをしてみれば、本部の人間いわく…本当にたまたま3人が居合わせた宿でいきなりかまされた血鬼術。
幸いにして女性で部屋が別だったことで難を逃れた甘露寺が、今その鬼を追っているらしい。
万が一を考えてその補佐に安定の悲鳴嶼を向かわせていて、鬼を倒すべく務めている最中だとのこと。

ということで、善逸はとにかくとして、柱二人がいきなり血鬼術で幼児になりましたなどと一般隊士に知れたなら、さすがに不安を煽るだろうし士気に関わるだろうと、この件は極秘に処理されていて、出来れば表に出したくはない。

そんなわけなので、彼らを本部にはおけない。
ならどこに置く?
そうだ!柱の館だっ!継子がいない柱なら気軽に隊士が出入りすることもないだろう…ということらしい。


「ああ、そこまでの事情はわかった。
でも他に4人も柱がいて、何故任務中の俺達を呼び戻す?」
と、さらに錆兎が続ければ、幼児の中から無一郎がトテトテと歩いてきて、
「父さん…抱っこ」
と、紅葉のような小さな手を伸ばしてくる。

それを当たり前のように片手で抱き上げて、
「一応は甲の後輩に託してきたが、それでは万全とは言い切れないから今回は俺達柱を派遣したんだろう?
花屋敷は確かに隊士の出入りが激しいから無理としても、何故他が面倒を見ようとしない?」
と、そのままそう続ける錆兎に、4人の柱が一斉に生温かい視線を向けた。

そして指摘したのは宇髄である。

「お前さぁ…気づいてるか?
言ってる事とやってる事が違うんだが?」

「は?」

ぽかんとする錆兎に、今度は不死川が続けた。

「つまりなァ、今お前が父さんとか言われて抱き上げてるガキが、自分の親はお前ら対柱だから俺らんとこじゃ嫌だとか言いやがったって事だァ」

言われて初めて気づいたらしい。
錆兎が無一郎に視線を向けると、無一郎はぎゅうっとその首にふくふくした腕を回してしがみつく。

「え?いや、つい習慣で…でもそれはそれ、これはこれだろう?」
と、おろそうとするが、

「僕をよそにやらないで、父さん」
と、しがみついたまま降りない無一郎に、今度は義勇が

「無一郎はうちの子だろう?何故引き取らない?
錆兎が育てるのが嫌ならいい。
無一郎は俺が1人で育てる」
などと言い出した。

は?なんでそうなるんだ?

「いや待て、義勇。
その言い方はなんだかおかしいだろう?
まるで俺が産ませておいて子を捨てる薄情な父親のような言い方はやめろ!」
と、錆兎は義勇に焦って言う。

「だって無一郎を捨てるのだろう?」
「捨てるわけじゃない!」
「なら、うちに連れ帰るのだな?」
と、にこりと言う義勇に諦めのため息を付きながらもう一度無一郎をしっかり抱え直す錆兎。

そこで
「…俺も…出来れば水柱屋敷がいい……」
と、続いて杏寿郎が珍しくおずおずと錆兎の羽織の裾を掴むので、幼児の姿であるのと普段うるさいくらいの人間だけにどこか憐れを誘って、錆兎は思わず空いている方の手で杏寿郎を抱き上げた。

そうして最後の1人、善逸は手を伸ばすことも出来ずにただその場でじわりと涙をこぼし始める。

錆兎はその姿にさらに諦めのため息を付くと、
「ちょっと母さんのところにいっておけ」
と、無一郎を義勇に引き渡し、片手に杏寿郎を抱いたまま善逸の前に膝をついて

「お前もか」
と、善逸の頭を撫でた。

そうやって手を差し伸べられてさえ、善逸はうつむいて
「で、でもっ…俺、柱じゃないしっ……め、めいわくだしっ…」
と、小さな手をぎゅうと握りしめてシャクリをあげるので、どうにも放っておけなくなって、

「迷惑なら来いとは言わん。ほら、行くぞ」
と、善逸をもまた抱き上げて立ち上がる。


「ほらな、そういうことになるだろう?
水の対柱様はガキどもに大人気だからな」
と、宇髄が言えば、

「まあ、任務の方はお前らの分まで引き受けてやるから任せとけェ」
と不死川が請け負い、

「私だって…私だって、今度こそ兄さんちの子どもになってみたかったのにっ!
何故私が居る時にそういう鬼が来ないんですかっ!
と胡蝶が頬をふくらませた。



こうして幼児3人を抱いて帰宅。

──母さん、前に列車旅行で着てたあの着物が僕好き
と、無一郎が言うので、義勇は箪笥の奥から引っ張り出した着物に着替える。

すると、何故か杏寿郎が大きな目を見開いて
──は…ははうえーー!!
と、泣きながら義勇に抱きついて、その膝を無一郎と争い出す。

そんな阿鼻叫喚の中、1人大人しく部屋の隅で正座をしている善逸に気づいて、
「母さんは大人気だな。
善逸、お前はあそこに入っていかないでいいのか?」
と、錆兎がその前にしゃがみこんで視線を合わせて聞くと、善逸はふるふると首を横に振った。

「…それじゃなくても、迷惑かけてるし……」
と、幼児の顔で幼児らしからぬ表情で言う善逸に錆兎は大きく息を吐き出した。

そして
「子どもがおかしな気を使うもんじゃない。
お前は今はこの家の…俺と義勇の子どもだ。
そうだな、だが、かあさんの膝は空きそうにないから、父さんと台所だな」
と、善逸を抱き上げて肩車をすると、

「しっかり掴まっていろよ?」
と、言って台所へ行ってそのまま夕飯の支度をはじめる。

やがてグツグツという音とともに立ち上るいい匂い。

「とうさんと来た善逸だけに特別だ。みんなには内緒だぞ?」
と、小皿にとってよく冷ました里芋の煮っころがしを爪楊枝に刺してやると、善逸は目を大きく見開いて、

──あ、ありがとう……と…とうさん…
と、小さな小さな声で言って、それを頬張った。

それに錆兎は笑って
「ちゃんと礼を言えて善逸は偉いな。さすが父さんの自慢の息子だ」
と、後ろ手に頭を撫でてやる。

それにやっぱり一瞬固まって、
「えへへ。…とうさん…大好きだ」
と、笑う幼児の目には涙。

気配でそれを悟って、やはり自分の家に連れ帰ってやって良かった…と錆兎は思った。



そうして食事を終えて風呂に入れて夜寝る時間のこと。
無一郎の時とは違い、幼児でも3人も居ることだしと、自分達の寝室の続きの間に3人分の布団を敷いてやったのだが、杏寿郎と無一郎は当たり前に枕を持って大人の布団に乱入してくる。
そうして義勇の左右を陣取る二人。

もう子どもたちがいる間はそれも仕方ない…と思いつつ錆兎がふと隣の部屋に視線を向けると、枕を抱きしめて自分の布団に正座をして、じ~っとこちらを見ている善逸。

普段は騒々しい少年だと思っていたが、親子関係となるとどうにも遠慮してしまう性質らしい。
それでも来たくないわけではないらしく、手招きをしてやるといそいそと枕をかかえて走ってくる。

そうして側までくると、やっぱりおずおずと
──と…とうさんの…隣で寝ていい?
などと内気な子どものように聞くものだから、

──当たり前だろう。ほら、風邪をひくから、さっさと入れ
と、掛け布団をまくって招いてやると、嬉しそうにはいってくる。

こうして疑似ではあるが親子5人、にぎやかな半日を終えて和やかな空気の中みんな一緒に夢の中。


楽しい時間は早く過ぎ去るもので……

「あ~。今回は早かったなぁ。さすが悲鳴嶼さん」
と、一番早くに起きた錆兎は苦笑しながら、戻ったら着せるようにと預かった3人分の大人の着替えをそれぞれの枕元において、朝食を作りに台所へと足を向けた。



まあそれからはまたひと悶着。

「なんで今回はこんなに短いの?!
僕はまだ父さんと母さんのところにいる!」
とむくれる無一郎。

「よもやよもやだ。
もうしばらく子ども時代を堪能したかったものだが…」
と、杏寿郎も残念そうだ。

だが、柱は暇ではない。
それでなくとも二人が子どもになり、その面倒を二人がみて、合計4名の柱が機能しない状態だったのだから、仕事は山と積まれている。

二人が戻った事を知って、鎹鴉が任務を告げにやってきたので、
「別に休暇の時にまた来たら良いだろう?」
と、さんざんごねる無一郎を送り出し、また訪ねて来たいという杏寿郎の言葉にも了承して任務に行くのを見送った。

そうして最後の1人、善逸の所にも指令の手紙を携えたスズメがやってくる。

「あ、あのっ…」
と、指令を読んだ善逸は、出ていきかけて走って戻ってきていった。

「ん?なんだ、忘れ物か?」
と錆兎が言うと、そうじゃなくて…と、首を横に振る。

「俺…楽しかった、すごく…。
俺は孤児だから親って覚えてなくて…でも本当に親ってこんな感じなのかなって今回思って…だからっ…あのっ…」

なるほど、そう言えば以前任務でそんな話を聞いていたな。
あの距離感はそのせいか…と、その言葉に錆兎は納得した。

そして、それなら…と思う。

「無一郎もそうだったが、ひとたび親子として過ごしたなら、もうここはお前の実家だ。
また休暇にでも遠慮なく遊びに来い」
と、くしゃりとその金色の頭を昨日そうしたように撫でてやると、善逸は真っ赤になって、それでも嬉しそうに

「じゃ、行ってきますっ!」
と、無一郎がそうであったように、自分の家を出るように言ってでかけていった。

一体幼児化をさせる血鬼術を持った鬼というのはどれだけいるのやら。
おかげでどんどん我が家の子どもが増えていくな、と、笑いながら錆兎は義勇と手をつないで館の中に。

ふむ…確かに…。
でも産まずに子を持てるのだから、俺達にとってはそう悪くはないのかも知れないぞ?
と、義勇も笑って、まあそれでも今日はもうさすがに子どもたちも帰ってはこないだろうから、夫婦水入らずの時間をすごすとするか…と、もう一度寝室へと錆兎をいざなった。



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