このたび妓夫太郎と堕姫が鬼狩り共に倒されて、私は重要なことに気づいたのだ」
突然招集がかかって集められたのは無限城の大広間。
ずらりと並ぶ膳
その上には料理と酒。
主食は人ではあるのだが、上弦ともなれば普通に人間の食事も食べられる。
宗教団体の教祖をしている童磨などは時には信者と普通に飯を喰ったり酒を飲んだりすることも少なくはない。
単に味を感じず腹が膨れず糧にならないだけだ。
つまりそれは飽くまで人間とコミュニケーションを取る一環で行うごっこ遊びのようなものなのだが、まあそれは良い。
ただ、なぜ鬼ばかりの集まりで上司がこんなものを用意しているのか…。
にこやかに席につくように促され、何が起きるのかと青褪めながら各々膳の前に座る上弦達。
見た目は宴席。
しかし出席者の表情はお通夜のような奇妙な空間で、上弦達の脳裏をよぎるのは先日鬼狩りに倒された上弦の禄の兄妹。
その叱責のための招集かと思われる。
(…普通に頭を吹き飛ばされるより怖いですねぇ……)
と、隣に座る童磨にコソコソっと囁いた玉壺に無惨の触手が伸びてきて、その頭が吹き飛ばされた。
「希望通り頭を吹き飛ばしてやったが、気分はどうだ?」
と、いつもの冷ややかな笑みと言うものを浮かべられて、震え上がる玉壺。
「い、いえ、違います、違うんですぅ!」
と、短い手で頭を拾って別の手をワタワタと上下に動かす玉壺を見て、
「何が違うのだ?」
と、あいも変わらず冷ややかな表情で見下ろす無惨。
それに、
「無惨様、それで今日は皆の交友を図るためにお招きいただいたので?」
と、どこか期待したような目で童磨が間に割って入る。
その問いを完全にスルーして、無惨は童磨に一瞥もくれずに冒頭のセリフを口にしたわけだ。
それに童磨はニコニコと笑みを崩すことはないものの、どこかがっかりしたような顔をする。
それでもめげずに
「彼らを連れてきたのは俺なので、叱責されても…」
と、さらに紡いだ言葉もまた、
「鬼狩りは倒しても倒しても減りはしない。
倒せば倒すほど、やれ倒された人間の意志を継ぐだの、敵討ちだの減るどころか増えていく。
そう考えると、それなら倒さないほうがいいのではないか…という結論に至ったのだ」
と、無惨は次の言葉で被して完全にスルー。
「あ…無視されちゃった…」
と、笑顔のまま眉尻を下げる童磨に構わず、無惨は自分の席の隣に座る鳴女に盃を突き出すと、注がれる酒を一気に飲み干して話を進めた。
同じくそんな童磨を完全に無視で、
「それは…鬼狩りを叩き伏せて殺さずに放つということですか?」
と、それも無惨に倣い、手酌だが酒を注いで盃を口にしつつの黒死牟の疑問には、何かを吹き飛ばすでもなく無視するでもなく、
「いや、それでは微妙に増えはしても減りはしない」
と、普通に返す無惨。
それに複雑な表情の玉壺は再度頭を吹き飛ばされ、同じく複雑な表情の童磨はしっかりと無視をされた。
「では…いかようになさるおつもりで?」
と、黒死牟はこちらもそんな二人を気にすることなく続ける。
「鬼を狩るより楽しいことを見つけてやればいい」
「…はあ……」
自信満々に言う無惨に、戸惑い気味の黒死牟。
そんな微妙な反応にも、相手が黒死牟であれば怒りもせず普通に会話を続けるところが、彼が他の部下たちと一線を画していることがよくわかる。
「もちろん全員にそんな事をしていてはきりがない。
だから鬼狩りの中でも強く、他の鬼狩りに対して影響が大きそうな奴を選んで、理想的な夢を見せてやろうと思う。
幸いにして見せたい内容の夢を見せられる血鬼術を使う部下がいる。
一度の血鬼術で丸一日で覚める夢を見せられるだけだが、戦闘向きではないだけに、殺気もなく気配を悟られにくく、血鬼術もかけやすい。
そうして理想の世界を見せてやって、鬼狩りをやめるなら毎日その世界の夢を見せてやるという交換条件で鬼狩りをやめさせれば、強い鬼狩りが1人減る。
倒したわけではないゆえ、敵討ちだの意志を継ぐだのいう輩も出ず、うまくすれば強者ですらそれだとバカバカしくなって鬼狩りをやめる者も増えるかもしれない」
「なるほど!さすが無惨様でございます!!」
と、ここぞとよいしょする玉壺。
だが、なぜかまた頭を吹き飛ばされる。
「な、なぜっ?」
と、それにヨヨと泣く玉壺だが、
「わざとらしいからだ」
と、一掃された。
しかし今回はもうひとりの塩対応され仲間である童磨は、無惨の方から声をかけられる。
「そういうことでな、人間どもの中に潜ませている間者からの情報を元に、今回の標的は二人一組の対柱として人気の高い水柱の片割れにすることにした。
他の柱の教育係も務めていて、若い柱からの信頼もかなり厚い男らしい。
こいつを落とせばかなり影響するだろう。
ということで、鱗滝錆兎。
この20歳の男が戻りたくないほどに好ましい理想とする世界を考えるぞ。
特に童磨、貴様は人間どもの願いを聞く教祖などやっているのだから、そのあたりも詳しいだろう。知恵を出せ」
普段は塩対応でも背に腹は変えられぬと思ったのだろう。
そう言って本日初めて童磨に視線を向ける無惨。
もちろん童磨はさきほどまでのことなど何もなかったことのように大きく頷いて、そうですなぁ…と、言葉を紡いだ。
「若い男がまず望むものと言えば、当然女でしょう。
一般的には華奢でしかし胸がでかいのがいい。
あまり頭の良すぎる女は好まれない。
少し馬鹿で幼く無邪気なくらいが可愛らしく色っぽいと思う男が多いと思います。
何を考えているかわかりにくい謎めいたところのある女も人気です。
あまり自意識過剰でピリピリしている女は興醒めですが、自分のことは意識して恥じらいを持って欲しい。
あとは…自分だけを好きでいるのが好ましいが、かといって他の男に人気のないのも魅力がないようで面白くない。
だから男は皆その女のことを好きになるが、女の方は自分一筋というのが好ましいですね。
あとは異性にモテるからといって同性に嫌われる女というのも頂けない。
同性からも大切にされるような女だと尚可というところでしょうか」
「なるほど。さすが大勢の人間と接しているだけある。
あとは女の顔立ちか。
確か間者の情報では対の片割れと恋仲らしい。
よし、決まりだ!
片割れの男の顔の『全ての男を惑わせる色っぽい巨乳天然えっち幼女』に迫られる夢にすれば良いということだな!」
…それが若い男の夢…と言うとかなり違う気がする…むしろエロオヤジの夢じゃないだろうか…
と、それを耳にしつつ猗窩座は思うのだが、無惨様が大変楽しそうでいらっしゃるので、空気を読んで黙って盃を口に運んでいる。
玉壺はそれに一緒に盛り上がり、黒死牟と半天狗はその手の話題には疎いこともあって、得意な者に任せるとばかりに始めから聞いていない。
誰も止めない。
止める奴はいない。
「相手役の女はもちろんのこと、最初は皆が惚れている女に惚れられて他の男に妬かれて嫌われていたのが、人柄の良さを認められて、皆から祝福されてむしろ女との仲を応援される、この友情物語もいれてやれば完璧です」
「おお、そうかっ!さすが童磨!」
「いやいや、それほどでもありますが…」
と、どんどん話が出来上がっていく。
もう帰ってはダメだろうか…と、猗窩座がついたため息に、もう一つため息が重なって、ふと顔を上げると、目の前で同じくため息をつく黒死牟。
こちらは猗窩座とは違ってはっきりと
「どうやら私が出来るようなこともなさそうなので、退出させて頂きます」
と、はっきり言ってから腰をあげる。
そんな黒死牟の行動に、猗窩座もこれ幸いと
「では私も…」
と、それに続いた。
あとに残ったのは盛り上がる無惨と童磨、なんとか仲間に入りたい玉壺と、退出するタイミングを逃してオロオロとする半天狗。
そして我関せずとばかりに三味線を引いている鳴女と、なかなかカオスな空間の出来上がりだ。
そうしてそんな中で…極楽教の教祖童磨プロデュースによる世にも恐ろしい柱取り込み計画が発動したのである。
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