その目は真剣にディスプレイに向けられている。
“共同研究”のはずの物をほぼ1人でまとめあげて、最後の一文を打ち終わると、セーブをして印刷ボタンをクリックした。
すると後方にある電話とFaxとスキャナを兼ねたプリンターから音がする。
そして1人でやっているのに何故か4人分の単位になる予定のレポートが印刷されてきた。
「これで…いいか…」
はぁ…とため息をついてPC眼鏡を外す彼は、冨岡義勇と言う。
ところどころ跳ねてはいるものの綺麗な漆黒の髪に涼やかな青い瞳。
その上を彩るまつげは長く濃い。
染み一つない透き通るように白い肌をしていて、可愛らしいほど小さな唇は紅をひいたわけでもないのに、綺麗な桜色だ。
そんなパーツに構成された男性にしては少し線が細い感じの美しくも愛らしい容姿は、どこか日本人形を思わせる。
下手をすれば年相応どころか中高生に間違われることすらあるのだが、これで大学3年生。
見かけによらず頭の方は優秀で、学年でもトップクラスの秀才である。
そんな彼が今作成、印刷していたのは、夏休み明けまでに提出が義務付けられている共同研究の課題だ。
それを何故1人でやっているのかというと、実に話は簡単だ。
他がやるのを待っていたら、確実に一緒に単位を落とす事になるからである。
教授が出席番号順で勝手に決めた研究班での共同研究。
男2人に女2人。
いつまでたっても誰も何も進めようとしないので、仕方なしに彼が研究テーマを決め、手順の説明書を作成し、さあ、分担をと言えば
──やだ~、わかんない。何すればいいの~?
と、女の1人が、
──そんな難しい事できな~い
と、もう一人の女が、
そしてトドメ、
──俺ら主席の冨岡とは脳ミソの出来違うし?
と、残りの1人、男が言った時点で、
(ああ、やっぱり今回も1人で進めるしかないのか…)
と、思った。
義勇は昔から何故かそういう役回りになることが多い。
共同研究、班発表など、大勢でやるはずのものを何故かいつも1人でやることになっている。
勉強自体は嫌いじゃないし、それに付随する作業をするのは嫌ではないが、どうせなら皆で仲良くワイワイとやってみたい。
人見知りであまり友人を作れない義勇にしてみたら同級生と密に接する数少ない機会なのだが、なんだか作業だけ押し付けられて終わることが常だ。
寂しい…と思いながらも、やらない奴に無理に分担を振ったところで最終的に提出期限ぎりぎりで手をつけてない発言をされるのは目に見えている。
そうするとどうせそれの尻拭いをする事になるのだろうから、それくらいなら時間の余裕を持ってやれるように最初から自分でやった方がいい。
「…わかった。もういい。
俺が1人で進めておく。
期限までには全員にまとめたレポート配布するから」
と、自分ならそれを言われたら見限られてしまったと動揺するであろう発言をしてみても、班の3人は、わ~い!!とはしゃいでいる。
これは早々に諦めて正解だったのだろう。
と、そうため息をついて、義勇は1人で研究をすることになったのだ。
思えばいつでもそうだった。
“成績が良いから”と、いつも面倒事を押し付けられてきた。
例えば同じことを女子がやろうとすれば、誰かしらが、“大丈夫?”、“きつくない?”などと声をかける。
なのに、自分がやる時は“よろしく~!”の一言で済まされるのは何故だろうか。
確かに成績は悪くはない。
主席かそれに近い成績を取って来た。
でもそれは実は人見知りで他人に気軽に声をかけられない彼が、自分が困らないようにと黙々と努力してきた結果だ。
自分だって他人と気軽に話せる性格だったなら、皆で楽しくワイワイとやりたかった。
4部ずつ印刷した資料をきちんと整えてホチキス止めをすると、義勇はそれを書類ケースに閉まって、ワープロソフトを閉じた。
夏休み明けに提出の課題はこれで完了。
1週間ほどかかったが、ようやく楽しい夏休みだ。
ここまでに全宿題課題は終わらせてある。
しかし義勇はPCを落とす事はない。
理由は【レジェンド・オブ・イルヴィス】
大手ゲーム会社が作成した、いま話題のオンラインゲームだ。
義勇は元々はそれほどゲームなどをやるほうではない。
だがたまたま大学のクラスメート達が話しているのを聞いて、興味が沸いたのだ。
元々、ファンタジー小説とかは秘かに好きで、ファンタジーRPGだというその種類にも惹かれたし、絵柄も愛らしい。
そしてなにより、自分でその世界にキャラクタを作ってその世界の住人になりきる事ができるというのは、楽しそうだ。
なるなら可愛い女の子が良い。
大学のリアルな人間を見続けていて思う。
可愛い女の子なら、きっと1人でみんなの分の仕事まで押しつけられたりせずに、友人知人に囲まれた楽しい生活が送れるのだろう。
もうぼっち生活はいやだ!寂しい!俺だって人生楽しみたい!!
そう思い続けてきたが、現実では可愛い女の子になれるわけもなく、その願いがかなえられることはない。
なら、娯楽であるゲームの中でくらい、他人に囲まれて愛される人生というのを満喫させてもらっても良いはずだ。
そんな思いで義勇はPCに向かって黙々とキャラメイクをする。
目指すは周りが勝手に集まって構ってくれるような可愛い少女キャラ。
目指せ愛されキャラだ。
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