だって・現在人生やり直し中_蟲柱、怒る

絶対に納得できません!
何故、兄さんが私の担当じゃないんですか?!
しかも一緒に住むって何ですかっ?!」



半年ぶりの柱合会議後のことである。
そこでまた3人の新人柱が誕生した。

新霞柱が直前の任務で鬼に受けた血鬼術の状態がひどいということで会議には欠席だったが、恋、蟲、霞とこれでようやく空きがなくなり、柱が勢揃いしたことになる。

お館様も大変喜んでいらして、これで鬼殺隊の未来も明るい…と、会議自体は非常に和やかに終わった。

問題はそのあとの、柱の顔合わせだ。



例によって新人はひと月、先輩柱と慣らし戦闘を行うことになるので、お館様が退出なさったあとに柱は皆その場に残って、柱の初顔合わせ後、先輩柱達が己の慣らし戦闘同行の担当の新人の所に行って今後を話し合う…そういう流れになっていた。

ということで、各柱の自己紹介が終わり、胡蝶しのぶは脳内でその日の予定をたてつつ、引退した姉同様、水の対柱の2人が自分の前に来るのを待っていた。

──さすがしのぶだ。短期間に頑張ったな
と、まず兄がいつものように笑って頭を撫でてくれて、

──…祝いに甘味でも食べて行くか…
と、そういうところだけは空気が読める、天然ドジっ子がそう言っていつもは持ち帰りをする団子屋に、誘ってくれるはずである。

姉の分は土産に買って帰ろう…いや、姉だけじゃなくカナヲやアオイ達の分も……


そんな風に楽しい想像を巡らせていたしのぶの前に、ぬぅっとでかい影がさす。

小柄なしのぶからしたら、錆兎とてかなり大きいが、それを遥かに超えた巨漢に顔をあげれば、派手な額当てをした男が目の前に立っていた。

これは確か…と、さきほどの自己紹介を思い出す。

「うず…い……さん、ですね。音柱の」
何故こんなところに?邪魔なんですけど…と心のなかでは思いながらも、表面上はいつものようににこやかに笑みを浮かべ、

「おう!祭りの神の宇髄天元様だっ!よろしくなっ!」
と、伸ばされる宇髄の手を思わず避けると、宇髄は少し意外そうに目をみはる。

しかしそれからまた手を伸ばしてくるので、これははっきり意思表示をしないとわからないクチかと思い、しのぶは

「頭に触られると髪が崩れますので」
と、その宇髄の手を払い除けた。


自分の頭に触れて良いのは姉と兄だけだ。
曲がりなりにも柱にまでのぼりつめたのだから、先輩柱と言えど軽々しく子ども扱いをされるのはゴメンだ。

そんな気持ちで、それでも感情を制御できないのは未熟者とばかりに、顔には笑みを浮かべて不快感を隠す。

しかし宇髄は漂う空気など破って自分で作り出すものとばかりに、強引に…素早く手を伸ばして頭に触れてきた。

もちろん反応速度なら胡蝶とて負けてはいない。

頭にわずかに手が触れた瞬間にすいっと身をかがめてその手を避け、

「なにをするんですかっ!!!」
と、今度こそ本気で声を荒げると、宇髄は

「慣らしで一ヶ月一緒だからな。
本音も言わずに澄ましていられてもやりにくいからなぁ」
と、悪びれずに笑った。

そこで、胡蝶は初めて、え?と思う。

「何言ってるんですか?
私の慣らし戦闘は兄さん…水の対柱ですよ?」
と、目を丸くすると、宇髄も宇髄で

「へ?おま、それどこ情報だよ?
対柱は霞担当だぜ?」
と、信じられない言葉を返してきた。

「えええ??!!!!」

確かにはっきりそうとは言われていない。

新人の方に担当が伝えられるのは柱合会議の席で担当の先輩柱からだから、この場合は宇髄の言うことの方が正しいのだろう。

でもそれはない!あまりにない!
だって姉さんの時は兄さんが担当だったじゃない!!
それなら私の時だってっ!!

あまりに思い込んでいて、あまりに楽しみにしていただけに、急には受け入れられずに宇髄に詰め寄ると、

「実はな…ここだけの話、霞柱の時透は顔合わせの直前の任務で血鬼術浴びて現在幼女になっちまってるらしくてな。
しかもその鬼を逃しちまったもんだから、慣らし以前に幼女を引き取って面倒見ながら一緒にその鬼を探し出して倒さねえとなんねえってことで、これは錆兎案件だろってなったわけだ。
誰かの面倒見ながら何かを追って情報集めつつ戦えるなんて、他にいねえからしかたねえだろ?」

と、宇髄が子どもに言い聞かせる時の大人のように、少し身をかがめて胡蝶の視線にあわせてそう言うと、胡蝶の眉がみるみるつり上がった。

「納得出来ないっ!納得できませんっ!
私だって兄さんと暮らしてみたいっ!!
わかりましたっ!血鬼術ですねっ?!
血鬼術浴びてくれば良いんですねっ?!!」

と、半分涙目で反転しかけるのを、

「待て待て待て待てっ!!!」
と、宇髄が慌てて止める。

「確かにお前が同じようになったら、あいつはまとめて面倒みようとはするだろうけどな?
お前だって覚えてんだろうがっ!
あいつはいつでも自分のことが後回しだから、過労死すんぞ?」

過労死…の一言で、胡蝶の足がピタリと止まる。
それは…ないとは言えない。

実際、自分の姉を救うために彼は過労死で死にかけていて、その見舞いで医療所を訪ねていったのが彼との初対面だ。

胡蝶の動きが止まったことで宇髄も息を吐き出した。

「とにかく、おまえのことは錆兎からもくれぐれにと頼まれてるし、1ヶ月は宇髄様が派手につきあってやるから、それで納得しとけ」

という宇髄に、胡蝶はむぅ~っとした顔をしたが、脳内、感情の制御をできないものは…と、お題目のように唱えながら気を取り直し、

「仕方ないので一ヶ月は我慢します」

と、引きつった笑顔を浮かべた。





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