宇髄の部屋

【宇髄の部屋】…それは人気歌手の宇髄がゲストを招いて話をする、ただそれだけの番組である。


この毎回変わらないセットと宇髄がいるだけの、とてもテレビ局の懐に優しい番組は、しかし、歌以上に話の上手い宇髄の軽快なトークと多彩なゲストのおかげで、深夜番組にも関わらず、主に若い女性を中心に人気番組となっている。

そんな番組の今日のゲストは、今大人気の幼馴染二人組のアイドルユニット【水柱】だ。

さ~今日も【宇髄の部屋】、派手に行くぜぇ~!!
今日のゲストは俺ほどじゃねえが、イケメンアイドルユニット【水柱】の錆兎と義勇だ~!!!」

生粋の目立ちたがり屋。
頭を布で巻き、ラインストーンでキラキラした額当てでそれを止めて、左目にはペインティングをしてやはりラインストーンをつけていて、『派手にやろうぜ』という言葉が口癖の宇髄はいつもの通り、テンション高くゲストを招き入れた。

その声に合わせてセットに登場する二人組。

並んでいてもどこか前を行っている感がある宍色の髪の青年は錆兎。

男らしくも端正なその顔には口元から右頬にかけて傷があるという、アイドルとしては変わり種といえるかもしれない容姿だが、それを全く気にした様子もなく、ハキハキしていてまっすぐで、侠気に溢れるその性格から男女問わず大人気だ。

一方でその錆兎と寄り添うように並ぶのは義勇。
歌やダンスは錆兎同様そつなくこなすが、ややおっとりした性格で口数も少ない。
同じ事務所の女性アイドルの胡蝶しのぶに言わせると、天然ドジっ子らしい。

そんな対象的な2人が並んでテレビに登場した瞬間、当然スタジオには届かないが、番組を見ている全国の女性たちは自宅で歓声をあげていることだろう。

「こんにちは。よろしくっ!」
と、にこやかに言う錆兎と
「…よろしくお願いします……」
と、やや錆兎に隠れるように言う義勇。

「おう、ふたりともよく来たなっ!まあ座ってくれっ!!」
と、宇髄は2人に座を勧めた。

「失礼します」
と、芸能界の大先輩に礼儀正しく言って座る2人。

そんな2人を前に、宇髄の視線は2人の手に向かっていた。


「なあ、お前らなんでそんな風に手ぇつないでんの?」
との宇髄の言葉通り、錆兎の右手と義勇の左手はしっかり繋がれている。

それに錆兎はにこやかに
「あ~、俺は両利きだからっ!」
「はぁ?」
「だから、手ぇつなぐ時はだいたい利き手が空くように俺の右手と義勇の左手!」
と当たり前のように言うので、宇髄はぽか~んだ。

いや、そうじゃなくって、左右の問題じゃなくてな?
普通繋がなくね?」
と、ツッコミを入れると、錆兎と義勇はきょとんと互いに顔を見合わせた。

「いやいや、なんだか俺がおかしなこと言ってるみたいな目で見てるけど、普通、義務教育をとうに終えた男2人が手とかつながねえからっ!」

と、さらに焦って言う宇髄に、何故かしょぼ~んと肩を落として

「つないだら…だめか……」
と、言う義勇。

いや、ダメなわけじゃない、ダメなわけじゃないけどな?と、宇髄が複雑な表情で言葉に詰まっていると、そこは錆兎がどきっぱり

「別にダメじゃない。大丈夫だ義勇」
と、無駄にキリリと断言する。

あまりにそれが当たり前のように言う錆兎に、宇髄は苦笑。

「お前らさぁ…もしかして普段もべったり?」
「いや、べったりとかではないですよ?」
と、それは否定する錆兎だが、

「へー。じゃあ手ぇつなぐのは癖みたいなもんか。
ロケ先で同じ部屋止まったりとか、買い物行くときはいつも一緒とか、そういうんじゃないんだな?」
と言う宇髄の言葉には、

「あ、それはしますよ?
同じ部屋だし、ツインとか取っても大体一緒に寝るからベッド一つしか使わないし。
休みはたいてい2人で遊びに行ったり買い物したりで、あまり1人で行動することはないです」
と、当たり前のことのように言う。

「え??え?それベッタリって言わなかったら、何をベッタリって言うんだよ?」

「え~?あ、宇髄さんが女性口説いてる時みたいなの?
こう…接触過多っていうか…」

「お~ま~え~~カメラ回ってんだぞ、ごらっ!」
と乗り出す宇髄に、

「冗談ですってっ!」
と、ハハハッと錆兎は爽やかに笑う。


そんな風に宇髄と錆兎がポンポンと軽快なやり取りをしている間、義勇は用意されているチョコレートをもっもっもっとひたすらに口に運んでいる。

「お~い、相方はよくしゃべるけど、お前本当にしゃべんねえなあ」
と、それに宇髄が声をかけると、顔をあげた義勇の口元にチョコレート。

「おい、口についてるっ。アイドルが型なしだぞ」
と、トントンと自分の口の周りをつついて笑う宇髄に、義勇が慌てて服の袖口で拭おうとするのを、錆兎がその腕を掴んで止める。

そして
「とってやるから。衣装が汚れる」
と、自分の指先でそれを拭ってやると、汚れた指をそのままぺろりと舐め取った。

「ありがとう、錆兎」
「…ん」

「お前らなぁぁ~~~」

当たり前にそんな行動に出る2人に宇髄ががっくりと肩を落とす。

「ほんと、デキてんの?ホモなの?」
と、深夜のテンションで宇髄が言うと、錆兎がまたきっぱりと

「義勇について誤解をされるようなこと言わないでください」
と、否定したかと思えば、じ~っと相方に視線を向けて、

「まあ、俺は義勇ならイケる気がしないでもないけど」
と笑った。

すると義勇は義勇で
「…俺も…錆兎ならいいよ?何しても良い」
などと言うものだから、

「こらこらこらこら、深夜番組の夜中のテンションでも、お前ら一応アイドルだからな?
これ以上そういう発言されると、俺が干されるからやめてくれっ!!」
と、宇髄がとうとう降参した。

わはは~!勝ったっ!!
と、錆兎が得意げに笑うので、だいたいの人間は冗談だと認識したが、一部の特殊な趣味の女性陣の間では、このやりとりは尊い告白として、語り継がれることとなるのである。


その後は2人の新曲やツアー活動についての話に移り、最後の最後、

「じゃ、今日はそろそろ時間だから、自由に宣伝させてやるよっ!
俺優しいなぁ~」
などと言う宇髄の言葉で、

「今週の月曜日夜7時から俺と義勇が読者の要望に応える新番組、【水柱のファンの皆様の仰せのままに】が始まりますっ!
第一回は俺と義勇がお好み焼き食べに行くからぜひ見てくださいっ!」

と、錆兎がパネルを手にそう言って、最後、義勇が

「…みてください」
と、繰り返して終わったのだった。



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