そしてそこにさらにもう一つ入る寝台。
それは鬼殺隊一巻き込まれの似合う男のためのもの………
「それでさ、なんで俺いまさらお前の監視役に呼ばれるわけ?」
と、宇髄と話した数時間後の病室には6年前に錆兎が怪我で1週間ほど入院することになった時にやっぱり一緒に拘束される羽目になった男がいる。
なんで今さら彼がかというと、本部の極秘名簿の彼の名前の横には6年前のあの日に水柱療養監視要員と記されているからに他ならないのだが、当然錆兎も義勇も…そして村田自身すら知らない。
だが、今回、宇髄の口利きで、義勇以外にもうひとり誰かを病室に泊まらせて欲しいと言う依頼が発生した際、当然のごとく名簿を確認した事務方から、その記載をうけてはじき出されたのである。
錆兎だってもう13歳の頃の少年とは違う。
自分は気合で治すから寝ないなどと駄々をこねたりはしない。
だからまあ、本当はもう彼でなくてはならないということはない。
…ないのだが、そこは悲しいお役所仕事ということで、その名簿はおそらく錆兎か村田、どちらが鬼殺隊を辞めるまでは修正されることはないだろう。
まあそんな哀れな男のことはさておき、錆兎が入院中、少しだけ鬼殺隊を変えていくであろう小さな変化があったらしい。
「…錆兎さん……良かった。ごめんなさい…本当にごめんなさい…」
と、頭半分小さな妹に付き添われるようにして訪ねてきたのは胡蝶カナエだった。
錆兎と義勇の最初の後輩。
大切に大切に育てて、荒れ地に咲く花のように殺伐としたこの世界を癒やしてくれた彼女は、しかしすぐその芽を摘み取られてしまった。
それでも…生きててくれてよかった…と思うのは、仕方ないことだと思う。
だが立派な柱になろうと日々頑張っていた彼女の事を思うと、しかたのないこととは言っても、それを口にするのははばかられて、
「いや…もっと早くに助けに行ってやれなくて済まなかった。
そのせいでお前の隊士として柱としての可能性を閉ざしてしまう結果になってしまった」
と、そう詫びれば、彼女は泣きながら首を横に振った。
「いいえ。私は弱かったから。せっかくお二人に色々教えて頂いたのに…」
と言う彼女は、間違っている。
彼女の努力して勝ち得た価値は、彼女自身だとしても否定して良いものではない。
「いや、お前は強かった。
俺も義勇も…不死川もだな。
お前の笑顔と献身にずいぶんと支えられてきた。
お前は…立派な柱だった。
今まで本当にありがとう。そして、お疲れ様」
と、彼女に礼の言葉を述べれば、彼女は小さく首を横に振って、そして涙を拭いて微笑んだ。
「いいえ。思えばほんの1月の間に、大切なことを沢山教わって、たくさんの愛情と手をかけていただいて、あまつさえ命まで救っていただいた恩は何も返せていませんから。
錆兎さんが自分に返さないで良いから、後輩に返せと言った恩…やっぱり錆兎さんに返そうって思いました。
私ね、花屋敷に医療所の一部を移して頂くことになったので、これからは医療に携わることで錆兎さん義勇さんを支えて行こうと思ってます。
だから、これからもよろしくおねがいします」
と、微笑む彼女は晴れ晴れとした顔をしている。
ああ、そうか。
隊士として戦わなくても、別の戦い方もあるのだ。
怪我をした隊士を少しでも多く救うこと…それがこれからの彼女の戦いだ。
実に彼女らしい。
「良い決断だと思う。
じゃあ、俺が次に入院する時は、入院先は花屋敷だな」
と、錆兎が言えば、彼女はぷくりと頬を膨らませて
「入院するほどの怪我をすることを前提で任務に赴いてはだめですよ。
もしひどい怪我を負って戻ったら、錆兎さんには特別に一日に団子1本の特別料金を請求します」
などと可愛らしい事を言う。
そんな姉と錆兎のやりとりに、それまで姉の影に控えていた妹は、
「大丈夫。そのうち私が柱になって、姉さんの代わりに錆兎さんを守ってあげますから」
などと、勝ち気な風に微笑むのを、それは頼もしいと、その時は笑ってみせたのだが……
そのわずか1年後、新しい柱だと彼女を紹介されることになろうとは、錆兎もこの時はさすがに思いもしなかった。
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