やっぱり・現在人生やり直し中_義勇と実弥と煉獄と_1

…え?…ええ?…今回の任務ってそんなにやばいものだったのか?
…柱1人でも珍しいのに3人も?
…うわぁ…俺1人でも初めて見るよ。
…ずいぶん3人違うもんだなぁ…
姫と従者と用心棒?
…そもそも水柱が1人きりっていうのも珍しい……



その日の任務はまあある程度は大きな任務と言えないこともなかった。

ただし大きいのは範囲だ。
夜になると街に悪さをしにくる鬼たちの住む山を回り、鬼を一掃するというものである。

鬼の数自体は多いものの、鬼自体の強さはせいぜい一般隊士でもなんとか倒せる程度。
だが、万が一強めの鬼がでることを考えて柱を1人配置しておこうか…そんな程度のものだったはずだ。

ということで、今回は片割れが入院中につき、単体慣れしていない水の対柱の片割れを慣らしがてら置いておこうか…などという予定だった。

それが、いざ蓋を開けてみれば、いつもは圧倒的存在感を放つ片割れの横にほわほわと可愛らしい笑みを浮かべて寄り添っている義勇の左右後方に、今日はその片割れの代わりに何故か圧倒的威圧感を放つ男たちがドン!!ドン!!と、それに付き従うかのように立っている。

「…不死川…軽い任務のはずが、錆兎と並んで攻撃の要と言われている君まで出てくるから、隊士達が何事かと驚いているぞ!」
夜の闇にも鮮やかな火色の髪をたなびかせて仁王立ちしながらそういう煉獄に、

「それはてめえのせいだろぉ。錆兎に継ぐ第二の指揮官、煉獄の坊っちゃんよぉ」
と、不死川はギロリと隣をにらみつける。


そんな2人のやりとりを凝視する隊員たち。

「あのっ!今日は柱は水柱様のうちのお一人だけと伺っていたのですが、風柱様、炎柱様もご一緒ということなのでしょうかっ?!」

と、手を上げて言う勇気ある隊員の言葉に、それまでどこかぼ~っとした様子で立っていた義勇は普段はにこやかに笑みの形を成している深い青の瞳にじわりと涙をにじませた。

そしていきなり、

「…今日は…っ……さびっ……錆兎が……」
と、声をつまらせるのに、後ろでやりとりをしていた2人が、カッと、憐れな犠牲者をにらみつける。


「…おら、別にもう命の危険とかはなくなったんだろ。泣いてんじゃねえよ…」

と、それからすぐぶっきらぼうではあるが労るように言ってごそごそと羽織から手ぬぐいを出して義勇の涙を拭くのは不死川。

一方の煉獄は、ひっ…と、その視線だけですくみ上がる隊員を、笑顔だがどこか恐ろしい眼力でギロリと凝視すると、

「うむ!確かにその通り!本来は義勇だけの出動予定だった。
だが俺と不死川も一緒だった前回の任務で水の対柱の2人にかなり無理をしてもらったので、2人がかなり疲弊していてな。
錆兎は絶対に休息をということで出動禁止中。
そんな中で、疲弊している義勇に何かあっては錆兎に申し訳が立たない。
ゆえに同行させてもらうことにした!
繰り返すが義勇も疲れている。
あまり負担にならぬように

と、有無を言わせぬ様子で言い放つ。



もうこれ自分たち一般の隊士は要らないんじゃないか…と、ほとんどの隊士達が思った。

任務先の山まで1刻ほどの道のりを、水の柱を挟む炎と風の柱のあとについて歩く。
途中で夜が更けると当たり前に出る鬼は、ほとんど虫でも払うかのようにその2人が刀で一閃、薙ぎ払っていった。

鬼より前を歩く2人の柱の圧の方が怖い。



「…錆兎が心配だから…早く帰りたい……」

と、ぽつりとつぶやく水の柱がとても涼やかで愛らしく感じる。
もうすぐ成人する男性だと言うのに、愛らしく感じる。

そう…左右の恐ろしい威圧感を放つ2人に囲まれていると、特に…。


そんな風に見られているとは夢にも思わず、義勇は左右にいる二人を見て不思議に思う。

そもそもが煉獄はとにかくとして、不死川の方は前世とは随分と違う気がする。
前世ではここまで優しい男ではなかった。



ことの始まりは錆兎が強制入院生活に入って3日目のこと…

義勇に任務の指令が入った。

まあ、当たり前だ。
それでなくとも胡蝶が完全に脱落。
錆兎も1週間任務につけないとなれば、人材の余裕がそうあるわけではない。

一応普段は自分だけの任務というものについたことがほぼない義勇の事は当然本部もわかっているので、あてがわれたのは弱い鬼が多数いる山の鬼討伐で、万が一隊士が対応できないレベルの鬼が出た時のために、念の為に柱を1人置くというだけのもの。

ほぼ危険はないということなので、錆兎も不承不承納得し、義勇は本当に久しぶりに錆兎が一緒でない任務に入ることになった。


不安だ…

何がかと言えば鬼よりも一緒に任務につく隊士達と協調体制が取れるのか、それが一番不安だった。

なにしろ普段はそういうコミュニケーションは全て錆兎がやってくれる。

では1人だった前世ではどうだったのだろうと思い返すと、当時は気にしてはいなかったが、なんだか取れていなかった気がする。

それをしょっちゅう同僚の胡蝶しのぶに『だから皆に嫌われるんですよ、冨岡さん』なんて揶揄されていたのを思い出した。

当時はもう何もかもがどうでも良かったからそれでも構わなかったが、今生では錆兎がいるのだ。
錆兎の相棒ともあろう自分がそんな人付き合いの1つも出来ない人間のままであって良いわけがない。
でも今更どうすれば良いのだろう…

そんな事を考えながらそれでも任務に向かう準備をと廊下に出たところで、いきなり鉢合わせたのは、不死川実弥だった。


「よぉ、見舞いに来たんだけど、錆兎起きてるかァ?」
と、どうやら見舞いに持ってきたらしい花束を掲げてそういう言葉に義勇がこっくりと頷くと、不死川は

「おぉい。義勇、なんかあったかァ?」
と、いきなり顔を覗き込んでくる。

本当に…不死川実弥は前世と随分変わった。
前世では義勇に対する言葉に随分と棘があった気がするし、そもそも互いに名前など呼び合うような仲ではなかった。

それなのに今は…
「なぁんか顔色悪いぞ。大丈夫かぁ?」
などと頭を撫でてくるではないか。

同い年なわけだから決して本意ではないのだが、何故か前世では対して変わらないと思っていた不死川の上背が随分とでかくなっている。

いや、他の人間に対してもそう感じるので不死川が伸びたというより、おそらく義勇が伸びなかったのであろう。
今の義勇はかろうじて伊黒より若干高いくらいで、前世では目線が並んでいた不死川や煉獄を見上げてしまう。
もちろん錆兎はしっかり背も伸びていて、不死川より少し高いくらいあるのだが…。

まあそんなわけで、どことなく今生の自分は年齢よりも子供じみて見えるのだろう。
相手も特に悪意があってのことではないのだから、その辺りは気にしないことにして、義勇は単身で任務の指令が来てこれから支度をしにいくところなのだと告げた。

「あ~…錆兎なしでかァ…。
そいつは…心配だな、錆兎も………俺も…かぁ」
と少し考え込むようにそう言われて、義勇は驚く。

目を丸くして見上げる義勇の視線に気づいたのだろう。
不死川は少し苦笑する。

「お前ら防御系の奴らは俺ら攻撃系の人間の最後の最後の命綱で、大事にしてやんなきゃなんねえのに、胡蝶は…守ってやれなかったしなぁ。
おしっ、決めた。
俺は今日から休暇だから、付き合ってやる。
錆兎もその方が安心だろうし、ヤツが今入院するはめになってんのは、前回むりにひっぱってった俺が原因だしなァ」
と、その言葉に義勇はもっと驚いた。

不死川はこんな事を言う男だったのか…?

そう言えば胡蝶が以前、言葉は乱暴だがすごく紳士になったとか、義勇の記憶の中の不死川実弥像からするとありえないことを言っていたが…

そうして驚きに目をぱちくりしていると、そこに歩いてきたのは煉獄だ。

「おう、二人してどうした?錆兎は起きているか?」
と、こちらはやはり見舞いに果物の籠を掲げながら、それでも不死川と同じことを言う。

「錆兎は起きてるらしいぞ。で、義勇は任務。俺はそれについていく」
と、不死川が答えると、煉獄も、

「むぅ…それはどういうことだ?」
と聞いてくるので、義勇はやはり不死川にしたのと同じ説明をした。

「なるほど!では不死川は休んでいていいぞ!
俺も今日は休みだから、俺が義勇についていこう!」
と、今度はこちらもそんな事を言い出した。

まあ煉獄は前世では不死川ほど邪険ではなかったし、万人に対して平等に優しい男ではあったが、ここまでには距離が近かっただろうか…

そんな風に義勇は考え込み、隣では
「何が”では”なのかわかんねえよ」」
と、不死川がツッコミを入れている。

それに煉獄は当たり前だと言わんばかりに
「俺は新米時代に二人には世話になっているからなっ!
錆兎には同門の兄のように思えと言われた。
さすれば、ここは普通の同僚の不死川よりも、弟である俺が同行すべきところだろう!
と、言い放つ。

それに対して不死川は不死川で
「ぁあ?
そういう事言うなら、俺だって新米当時、守りを主体にした奴らはとにかく大事にしろって錆兎に直々に言われてんだ!
ここは具体的にそう言われた俺が行くべきところだろうがぁ」
と、返した。

それで義勇は合点がいった気がした。

なるほど、錆兎かっ!

錆兎がいるから前世ではそうでもなかった同僚たちがここまで優しく親切な男に変わったのか!
すごい!さすが錆兎はすごい男だ!!

…と、ひたすらに感動しているが、実は錆兎が生存しているために自分自身も前世とはずいぶんと変わっていて、それも彼らの態度が一変している一因になっているとは思いもしない。

とにかく錆兎が生きていることで世界が優しく明るい世界に変わっていくことが嬉しくて、頭上で言い争う二人を見上げて

「錆兎はすごいなっ!!」
と、思わず満面の笑みで言うと、2人は言い争いをぴたとやめた。

義勇がいつも錆兎の横でニコニコしていて、女性もいることはいるが基本男所帯の鬼殺隊では癒やしと言われているのは伝え聞いている。
体格も他の隊士よりも特別良いわけでもない。
顔立ちもそこらの女よりもよほど綺麗な顔をしている。

そして…今回錆兎(セコム)がいない!!


(…これは…鬼より別の方面が危険なんじゃ……)

無邪気にニコニコしている義勇を見下ろして、二人して思った。

「あ~…今回は2人で囲むかァ~」
「うむ、そうだな。それが良いと思う」

鬼なら何かあればなぎ倒せるのだろうが、隊士達相手にはそうも行くまい。
それなら…と、風と炎が秘かに協力体制を取ることに決めた瞬間である。




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