やっぱり・現在人生やり直し中_義勇と実弥と煉獄と_2

ということで、今現在、二人して威圧感を放ちながら、今ひとつ危機感のない義勇の左右を囲んでいるわけなのだが……

そんな柱達から少し離れて歩く一般隊士達の中で、

「対柱様とは何度かご一緒したことがあるけど……」
と、鬼殺隊ではもう長い隊士の1人がぽつりと呟いた。


「正直、錆兎様の印象が強烈過ぎて、義勇様はその隣でにこにこしている方というイメージしかなかったから、今回お一人で作戦に参加されると知って、仕切って先陣切る義勇様ってどんな感じになるんだろうと思ったんだけど……」

「おう…なんかいつもと変わらないな。
笑顔か泣き顔かだけで…」

といった2人に風柱の殺気に満ちた視線が突き刺さった。

「…おい、てめえら…曲がりなりにも柱のこと舐めてっと、後悔するぞぉ。
こいつはな、俺や錆兎みてえな攻撃に振り切れた柱にとっては命綱なんだ。
普段止め刺さねえってだけで、俺らが安心して前に出られるように、俺らの動きを妨げないように、些末なことで怪我を負わないように、最新の注意を払って守ってくれてんだからなァ。
ふざけた事言いやがったらぶっ飛ばすぞ」

ギン!と一睨みしながら、片手は義勇の頭を引き寄せている。

「まあ、まだ色々見えていない若輩者にそう怒るな、不死川」
と、硬直する隊士達を見て、場をとりなすように笑みを浮かべながら煉獄がそこで口をひらいた。

そして後ろを振り返る。


「まあ、不死川の言ったとおりだ。
普通の戦いの場では柱となるくらいの者は全員それなりに戦える。
が、鬼の中でも特別強い者が出てくれば、当然1人では倒せないこともある。
そういうときのため、普段でも共闘をする時の練習のように戦う事が多い。

攻撃を主に受け持つ者と守りを受け持つ者。
一見攻撃を受け持つ者は強そうに見えるが、攻撃に意識が行くため防御が薄い。
そこを補ってくれるのが守り手だ。
この守り手がいなければ成り立たない戦いも多い。

錆兎があれだけ強いと言われるのは、彼の防御の部分を義勇が請け負って、その分を全て攻撃に回せるからだ…止めを刺すだけの人間では厳しい戦いに生き残ることは出来ん…と、錆兎の受け売りだがな。
そういうことだ。覚えておくといい」

そう言うと、煉獄はまた前を向く。



「…なるほど…寄り添って守ってもらえるとは、良いものだな」
と、それを合図にまた小声で始まる雑談。

「防御を気にしないで良いとなれば、攻撃も安心してできるな」
「しかも…守り手はそこらの女でも足元に及ばないたおやかな美人だ」
「うむ」
「錆兎様が羨ましいな」
「私生活もいつも一緒と言う話だから、仕事から戻ればあの麗人が微笑みながら飯を作って食わせてくれるとなれば、そりゃあ任務も張りがでるな」
「錆兎様はきっちりとした方だから、一汁三菜は当然、家庭内の事はきちんとこなせよ…とかおっしゃっていそうだが、義勇様は義勇様で、近頃のなっていない女達のように、文句があるなら自分でやれとか言わずに、いつもにこやかに尽くしていらっしゃるんだろうなぁ…」

と、声を潜めているつもりでも聞こえてくるそんな隊士達の雑談を聞きながら、煉獄は以前の同期に対する錆兎の言葉を思い出して苦笑した。

一方で不死川はちらりと義勇を見下ろしう~んと考え込んでいる。

そして当の義勇はふわりと2人の間から飛び出して、軽い足取りで雑談をしていた隊士達の前へと駆け出した。

まるで体重などないかのように、本当にふんわりと前に立つと、ガラス玉のような澄んだ青い目を彼らに向けて

「錆兎は…優しいから(いつも料理を作ってくれるのも家の事を整えてくれるのも、全部錆兎の方だ。だから俺はほぼ家事は出来ないし)俺は(たまに洗った皿を拭いたりとかくらいで)たいしたことは出来ていない…」
と、いつものように肝心な部分を思い切りはしょって伝える。

そうしておいて、本人は誤解は解いたとばかりにまたふわりふわりと煉獄と実弥の間へ。

そう、錆兎が自分に無理をさせるような男だと言われては、やはりそんな誤解は解かなければならないとある種の使命感に駆られた行動なわけだが、それがテレパシーレベルの何かがないと理解し得ないくらいの言葉足らずのせいで、返って大きな誤解を招いているということには、義勇は全く気づかない。


「錆兎は…優しいから。俺はたいしたことは出来ていない」

という、発せられた言葉だけを繋いで、とどのつまりは義勇の謙遜の言葉なのだろうと理解した内容に、

「さすが当代随一の水柱様の対…。
まさに水のような優しさたおやかさ…」
「他の柱の方々がお守りしたくなるのもよく分かる…」
などと、後ろの隊士達はおぉ~と感嘆のため息をつく。


そして、そのどう聞いても誤解しているな…と思うつぶやきに、しかし不死川も煉獄も一瞬考え込むが、最終的に

『まあ、良いかっ!誤解させておけば。
隊士達の士気をあげると言う意味では便利だしなっ!!
と、そこはこっそりと口をつぐむことにした。



そんなこんなで鬼の住む山についた頃には男ばかり10人の一般隊士達は目指せ柱とばかりにやる気満々になっていたが、それでも気合だけでいきなり実力がつくわけではない。

2人で1体ずつ、コツコツと倒しているのを見て、義勇が後ろの煉獄を振り返った。

「俺はこういう任務は初めてなのだが…これは柱も鬼を倒していいものなのか?」
「うむ。別に悪くはない。
彼らが倒せないほどに強い鬼が出てきた場合は即動けるよう居場所ははっきりさせておいたほうがいいが…」

と、そんな会話を交わすと、義勇は

「錆兎のところに早く帰りたい(から自分も倒してくる)…。
非常時のためには煉獄がいるから(別に自分がここにいなくてもいいだろう)…」
と、いきなり飛び出していって、打ち潮で流れるように数体の鬼の首を刎ねる。

今回は弱い鬼ではあるが、一般隊士からするとやはり侮れない敵である。
それを下手をすれば自分たちよりも小柄で細い義勇が、まるで動かぬ無機物でも斬るかのようにコトリ、コトリと首を落としていく様を見て、隊士達は唖然とした。

そのままの勢いで山のさらに奥へと吸い込まれるように消えかかる義勇に、

「不死川、俺は非常時に備える。義勇は頼んだ」
と、言う煉獄の言葉で、

「あ、ああ」
と、はっとしてそれを追う緑の風。


それを呆然と見送る一般隊士に、煉獄は

「お前たちも早くしないと2人に全部鬼を倒されてしまうぞ」
と、苦笑して皆を山の中へとうながした。





こうして数刻後…

「…結局…俺達なにしに来たんだ……」
と、一部鬼からあぶれた隊士達の唖然とした呟き。

「…本当にものすごい速さで倒してしまわれた…」
「…あんなにたおやかにいつも錆兎様の横で愛らしく微笑んでいらしても、やっぱり柱なんだなぁ……」
「…うん……」

などと納得の一般隊士達。


そんななか、不死川が打ち漏らしがないようにと、最終確認に回っている間、義勇は煉獄にタタッと走り寄って、

「預けたものを出してくれ」
と、その背に背負った包みに視線を向ける。

「うむ。これだな」
と、その言葉に煉獄が背に結わえた風呂敷を外して渡すと、義勇がそれを丁寧に開いた。

そして、
「みんな、お疲れ様だ。
これでも食って少し疲れを癒やしてくれ」
と、隊士達のほうに差し出す団子。

柱になりたての頃、ひと月ほど水の対柱達と行動を共にしていて、その行動にも慣れた煉獄が

「俺の分もあるのかな?義勇」
と、肩越しにそれをひょいっと覗き込むと、義勇は

「もちろんだ。実弥と杏寿郎は休みなのにわざわざ来てくれたからな。
それぞれ団子の他に特別におはぎと芋ようかんを用意した」
などと言ってふわりと微笑みを浮かべた。



うむ…愛い。

年上の先輩柱に言う言葉ではないが、こんなところが義勇はとても愛らしいと思う。
同時に…その危機感のなさはまずいとは思うが……


「義勇様は…召し上がらないのですか?」
ふらりと前へ出る隊士。

「いや?ちゃんと自分の分も用意している」
「で、では、私が食い終わった串を持ち帰ります!
「そうかっ!ではお前に頼もう」
「お、お前抜け駆けはっ!!」
「義勇様、俺が持ち帰りますので、召し上がったあとの串は俺にっ!!」
「何を言う!お前は鬼を退治して疲れているだろう!
俺は仕留めそこなったから、まだまだ体力に余力がある!
義勇様、俺が持ち帰りますっ!!」
「ふざけるなっ!義勇様の串は俺のものだっ!!

うむ…これは…錆兎が知ったら全員楽しい鬼退治連行案件だな。
と、煉獄は笑顔を貼り付けたまま思う。

そんな隊士達を前に
「みな…実は団子はあまり好きではなかったか?」
と、いつまで経っても団子を前に争っている隊士達にしょぼ~んとする義勇。

「いやいや、俺はこの団子が大好きだぞ。
これを食うと任務が無事遂行された気分になる」
と、煉獄は後ろからひょいっと一串取り、それを二つ一度に串からこそぎ取り、

「うむ!旨い!!」
と、頷いた。

「そうかっ!芋ようかんも食え!杏寿郎!」
と、嬉しそうに見上げる義勇の手の中の包みから芋ようかんもつまみ出し、5分の1ほど割って

「おすそ分けだ」
と、義勇の小さな口に放り込んでやる。

錆兎がいてもそんなやりとりが許される程度には、煉獄は水の対柱とは親しく馴染んでいる。
初日には、心のなかで少し義勇の笑顔を愛らしいと思った程度で、錆兎に思い切り嫌な顔をされたものだが…

そんな昔を懐かしく思いながらも、煉獄は隊士達の身の安全のために、義勇が食ったあとの串はしっかり回収。
その場で他の者の串と一緒に燃やしておく。

そんなことをしているうちに不死川も戻ってきて、団子の他におはぎまで差し出す義勇に目を丸くした。

「なんでおはぎ?」
自分がおはぎが好きだなんて、はて、義勇に伝えたことがあっただろうか…と、首をかしげる不死川は、義勇に

「(前世で)実弥と仲良くしたくて用意した(ことがあったんだ)」
と、にこりと言われ、

「…お前…そういうとこだぞ!
本当に今に食われるからな。鬼より狼に食われる。
俺は錆兎のダチだから…まあ食わねえけど、俺と錆兎以外には気をつけておけよ。
ほんっきで気をつけろォ!
錆兎が今回みたいに出れない任務は俺を呼んどけ。
守ってやるからよぉ」

と、言いながらその場にへたり込んだ。


「…狼…そんなに今狼が増えてるのか?」
と不思議そうに見上げる義勇に煉獄は苦笑。

「そうだな…。まあ義勇は1人で多人数との任務につかないほうが良い。
錆兎が同行できない事情が出来た任務の時には、俺も可能な限り同行しよう」

と、義勇の肩をぽん!と叩いた。




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