続・現在人生やり直し中_決戦後

「…今回はすでに退職したのに済まなかったね。
でも柱の中でもこういうのは君が一番適任だと思ったんだ。
ごめんね?」


数刻後…”元”風柱は、産屋敷邸にいた。

先代の頃から仕えて、鬼殺隊に入隊して9年。
柱になってからももう7年の月日が流れようとしているが、”お館様”への敬愛の心が増すことはあっても減ることはない。

本来なら命が尽きるまでお仕えしたいと心から思ってはいるものの、激戦の中で痣がでてから3年。
今はまだ予兆はないが、25までの寿命と運命づけられた時点で、柱のまま死ぬのは避けたい。

柱は象徴だ。
強く雄々しく…軽々しく死ぬような状況からはもっとも遠いものとしておきたい。

だからこそ、まだ予兆もないうちからの引退を決意しただけなので、柱としてでなければ影でお力になれることなら、自分は喜んで余生をお館様に捧げようと彼は思っていた。

それをそのまま口にすると、お館様は困ったように、残された時間が少ないなら自分のために生きて欲しいと微笑まれる。

しかしそう言う彼のほうこそ、自分のために時間を使うことなどこれまでもこれからもまったくないのだから、まったく説得力のない言葉だと、風柱は思った。

だがそのことについてはもうどうやっても折り合うのは難しいと、お館様は話を本題に戻すことにしたらしい。

「…それで…彼はどうだったかな?」
と、一言。

言われて”元”風の柱は思い出す。

子ども…でしたね」

「まだ無理…かな?」
という主の声は少し残念そうで、無理だとは言いたくなくなってしまう。

特に強要するわけでもないのに、他人に否と言えなくする何かを持っている…ずるい人だ…と、彼は苦笑した。

「自分の継子なら、あと2年待ってやってくれと言いたいところですが…水柱は空席になってからがさすがに長過ぎる。
炎の柱も空席の今、そのどちらかには柱を置いておきたいところですね…」

炎は代々柱を出している煉獄家の長男が今12歳。
こちらもまだ早すぎる。
となれば、多少早くともやむを得ないのかもしれないが…

「実力は十分通用します。
下弦をもうひとりの継子の補佐を得てほぼ1人で倒しました。
精神面もかなり忍耐強く大人で人望も厚い」

「うん、いいね。では何が問題なのかな?」

と、先を促す主に、彼は考え込む。

「問題は…」
「うん」
強すぎること…ですね」
「強すぎるのはだめかな?」
「駄目です」

さらりと綺麗な黒髪を揺らして小首をかしげて問う主に、かれは言う。


「強く賢く、ひとたび戦いとなれば指揮官として、皆がなるべく安全に効率的に動けるような布陣を考えられる稀有な資質は持った人材だとは思います。
だが強いから他人の身は守れても自分の身を守るという概念がない。
だから自分は無茶をする。
無茶がすぎればいずれ死ぬ。
一般の隊員ならともかく、柱がたやすく折れるようでは、隊員達の士気に影響します」

「なるほど…強すぎる刀は折れることを想定せずにいきなり折れてしまう…ということかな」
「いかにも」

「うん…それじゃあね…鞘をつけてあげることにしようか」
にこりとそう云う主に

「それは…兄弟弟子を…ということでございますか?」
と、彼は水柱候補の子どもの、さらに幼気な片割れの顔を思い浮かべた。

「うん。義勇だね。
左近次の話だとね、2人でよく合わせ技の稽古もしているらしいよ」

「そばに置くとして…扱いはどのように?」


それは確かに良い条件に思えた。

二人とかなり近い距離に居た少年も、二人の兄弟弟子ならでは連携の見事さについて語っていたし、またその仲睦まじさについても語っていた。

ただ、同い年の兄弟弟子となれば、どちらかの身分が高くなると軋轢が生まれたりはしないものだろうか…と、そこが気になった。

しかし彼の主は彼が思っていたよりもかなり柔軟な考えの人物であったらしい。

「対で水柱ということでいいんじゃないかな。
幸いにしてまだ子どもだからね。
互いに支え合って生きている様子でも、周りの目は優しくなるし、彼らが大人になったら大人になったで、対であることが当たり前に認識されているだろうから問題はない。
愛らしい子どもだということは、ある意味大きな武器だよ

その言葉に彼は平伏するしかなかった。

本当に…本当に己の主の柔軟さと懐の深さは、己よりも遥かに年若く、むしろ今語っている子どもたちの方に近い年の者とは到底思えない。

だが、今回の水柱の就任をきっかけに、新しい時代が来るのだろうと、すでに自分自身には"元"がついた風柱は思った。

その新しい時代には、きっと自分の継子が自分の代わりにこの若い主を支えてくれる。
やることはやった。あとは老兵は去るのみだ…


そうして全てが決定事項とされると、いよいよ主と…そして"柱"であった自分との別離の時がくる。

敬愛する若き主に、

「ではそのように進めておこう。
ご苦労だったね。本当に…父の代から君が居てくれて、とても嬉しかったよ」

と優しく労われて、不覚にも涙が出そうだったがなんとかこらえ、おそらくこれが最後の別れになるのだろうか…と、

「お館様も…お元気で…」
と万感の思いでそう言うと、彼は”元”風の柱らしく、音もなくその場をあとにした。


こうして鬼殺隊が始まって以来の対柱が誕生することになったのである。


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