本年度の参加者15人が揃って集合場所に戻ると、本部から派遣されている黒服の隊員がそう挨拶をする。
その言葉を聞いて、みな、ようやく終わったのだと互いに抱き合い、喜びを分かち合った。
そんな中でも一度はここでの錆兎の死を経験している義勇はなおさらに感慨もひとしおだ。
錆兎が生きて隣にいる。
握った手の力強さと温かさにまた涙が溢れてきた。
その後は隊服と階級の説明。
次いで、鎹鴉という連絡用の鴉をつけてもらった。
そして最後に正規の隊員になると配布される刀を作る鋼を選ばせてもらう。
正直、義勇は前世の時は怪我で朦朧としていた意識が戻ったのは最終選別の数日後で、その時に同時に錆兎の死を知って自暴自棄になっていたのもあって、どんな基準で選んだのか覚えていない。
その後も鋼など気にしたこともなかったから、どれを選んでよいのか迷ってしまったのだが、錆兎は迷いなく1つの塊を手に、
「これがいい」
と、何故か義勇に渡す。
「え?錆兎の…じゃなくて?」
渡されたから受け取ったものの、ぽかんとする義勇に、
「ああ。なんだかそれが義勇に似合うと思った。
俺のはなんとなくでいい、義勇が俺に似合いだと思うものを選んでくれ。
互いに互いのためにと選んだものなら、もし任務で離れる事があっても支えになる。
そう思わないか?」
と、にこりと笑みを浮かべて言う錆兎。
「う、うん!じゃあ!」
自分のものと思うと全くわからなかったのだが、錆兎のものと思うと、どんなものが良いと言うイメージがすぐにわく。
錆兎は強くて…誰よりも輝いていて…そんな感じの物と探せば目につく1つの鋼の塊。
「これっ!これが錆兎らしいと思う!」
義勇はそう言って、ひときわ硬そうでつややかに輝いているそれを手にとると、錆兎に手渡した。
………
………
………
………うん……良いんだけど…強いしな、たぶんすごい剣士になるんだろうからいいんだけど………天然のタラシなのか?錆兎って……
と、そんな風に盛り上がっている2人を視界の片隅に入れつつ、ため息をつく少年が1人…
なんだか今回は鬼の恐ろしさに対する不安での疲れとは別に、なんとなくこの2人のどこかよくわからない距離の近さと、胸焼けがしそうに甘い空気がただよう言葉や行動の数々に疲れた気がする…
心のなかでそう零しつつ、村田は自分らしく特に目立った特徴のない、当たり障りのない鋼を手に取った。
まあこれで自分も正規の隊員だ。
そして一旦鬼殺隊に入ったなら任務は多種多様で、同期だとしてもそうそう一緒になることはないはずである。
ないはずなんだが………
なぜだかこの2人とは長い付き合いになる気がする…と、そんな事を思いながら。
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