リスクは高い。だがメリットも大きい。
相手が信頼のおけない奴ならお姫さんの顔を晒すということは、お姫さんを前回以上の危険に晒すことになる。
が、ここでそれをはずさせれば、相手に対する信頼の証にもなるし、相手が本当に信頼できる人間なら、お姫さんの顔を認知しておいてもらえれば、何かあった時に助けてもらいやすい。
考えてみれば取れとも取るなとも自分に言う権利はない気がして、ギルベルトがそれはもしかしてずるいのか?とおもいつつも判断をお姫さんに任せると、お姫さんは迷うことなく
「ギルベルトさんとアントーニョさんが守って下さってるんですから、怖いことなんて何もありませんよ」
と、仮面に手をやってそれを外した。
ほぉ…と、ウッディーンと娘達の側からため息が出る。
「まあ…なんて綺麗なお姫様っ!
お人形さんのようね。
ナガルプルになんて売られなくて良かったわ。
あんな狒々爺にこんな綺麗なお姫様が…なんて思ったらゾッとする」
ふわりと止める間もなく近づいてきてアーサーの手を取ったのは、さきほどファーティマと呼ばれた娘。
「本当に!やっぱりあのぶよぶよ魔神、切り刻んで海も藻屑にしてやったほうが世のため人のためですわっ!」
と、最初にこちらを無礼だと不快感をあらわにしていた娘も、それに眉を釣り上げる。
そんな2人に、おそらくまとめ役なのだろう。
一番年嵩らしい娘が
「ファーティマもドニアもお客様の前よ。
およしなさい」
と、やんわりと二人をたしなめた。
…が、ギルベルトにとってはまさにそれは探していた情報の1つだ。
「…ナガルプルとは?」
と聞くと、ウッディーンはそこで
「それを話したかった。
おそらく…私と君の共通の敵となる男の名だよ」
と、にこりと微笑んだ。
その上でちらりとファーティマに視線を向けて、
「その辺りを含めてこのあたりの現状と勢力範囲、そしてできるなら同盟の申し出をと思ってご足労願ったのだけど、どうやら私の可愛い小鳥の一人がここの勢力範囲の話よりも君のお姫様の金細工の方に興味が津々みたいでね。
私達が話をしている間、彼女にもお姫様と話をさせてもらっても構わないかな?」
と、笑みを向けると、
「さすがウッディーン様っ!」
とファーティマが目を輝かせ、他の二人が
「ウッディーン様はファーティマを甘やかしすぎですわ」
と、ため息をつく。
ずいぶんと気のおけない仲らしいウッディーンと3人娘の様子にギルベルトは微笑ましさを感じながらもどことなく安心感を覚えた。
「ああ、実はあれはお姫さんが原材料の仕入れからデザイン、細工職人まで全部整えて、できれば売り出せればと作ったもんだから…」
「ほお…それはすごいな。
では、こちらのアミーナを交えて商談をさせてもらっても?
彼女は私の補佐的な仕事もしてもらっている娘だから、彼女を通せばある程度の規模で広められると思うよ」
「そうしてもらえるとありがたい」
「じゃあ、私は君に現状説明と対ナガルプル関係の話を…その間にお姫様はアミーナと商談を…ということで、とりあえずいいかな」
「ああ。頼む」
と、そういうことで、ソファの右側左側にそれぞれ寄って、ウッディーンとギルベルト、それにウッディーンの主に護衛と警備を担当しているというドニアがナガルプルと勢力についての話し合い、そしてアミーナとファーティマ、それにアーサーとアーサーの護衛としてアントーニョが金細工の販売についての商談というように分かれて話をすることになった。
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