とある白姫の誕生秘話──吐露12

こうして無事邪魔者は追っ払ったところで、本番だ。

アーサーに関しては事情を聞きたいだけで、別に脅して拘束したいわけではないのだ。
まあ…手放してやれる気はしないので、事情が分かれば穏やかに優しく…しかし断固として説得するつもりではあるが……

「アルト…体調は大丈夫か?」

玄関からほんの2mほどの短い廊下の先、リビングにつながるドアを開けると、ギルベルトの愛し子が若干怯えたようにソファに座っている。

出ていった原因は何かわからないが、黙って出ていった手前、気不味い事は気不味いだろうし、気持ち良く戻ってもらうためには、アーサーが取った行動に対しては微塵も怒ってはいないのだ…と、示す事がまず必要だ。

だからギルベルトは威圧感を与えないようにと、アーサーの手前で片膝をついて、みあげるようにして話をする事にする。

本題に入る前に、まず心配をしているという事を前面に。

「エリザが見かけた時は公園で座ってたって言うし、このところ体調も崩してたしな。
少し心配した」

と、微笑みかけてやると、大きな目を見開いて硬直していたアーサーはぽろりと涙をこぼして

「ごめんなさい…」
と言う。

まるで親に叱られた子どものような様子に、元々責める気などなかったのだがさらに憐憫の情が募った。

「別に怒ってもいねえし、アルトが謝る事でもねえよ。
ただ事情がわかんなかったから、俺様が勝手に心配しただけだ。
…で、いきなり出ていった理由…聞いても良いか?
俺様、何かお前の気に障る事しちまったか?
それならごめんな?
なおせるもんならなおすし、謝るから」

いつもそうするように下から手を伸ばしてアーサーの柔らかい頬に掌で触れると、親指で零れた涙を拭ってやる。

するとアーサーはしゃくりをあげて

「ぎるは…悪くなくて……」
と、首を横に振るので、どうやらまた何か悲観的な方向の思い込みにとらわれたのか…と、ギルベルトは意識してゆっくりとした口調で聞き返した。

「俺様が悪いわけじゃない?」
とのギルベルトの言葉にアーサーはこっくりと頷く。

「おれがっ…かってに…こわがって……」
ひっくひっくと嗚咽の合間から漏れる言葉に、ギルベルトは考え込む。

もしかして、本田の時に懲りた女性社員達が直接的じゃない表現でアーサーに何かプレッシャーをかけたのか?

そんなギルベルトの想像は、次の瞬間あっさり否定された。

「ぎるっ…がっ…いやになるからっ…おれのことっ……」

何故そうなるーー?!!!
あまりに突拍子もない発想にギルベルトは内心頭を抱える。

ありえないだろう。
正直、ギルベルトは人当たりは良いが、基本的には来る者拒まず去る者追わずという主義で、常に周りと一線を画している。

そんな自分が半ば強引に自宅に住まわせたり、こんな風に追いすがってくるだけで、どれだけ特別な存在なのか、わかって欲しいわけなのだが……

「あのなぁ……」

はぁ~とため息をつきながら、ギルベルトはアーサーを抱きしめた。


「俺様は元々はきつい顔立ちしてるせいで他人に距離をとられやすかったんで、努めて人当たりは良くしてっから誤解されるんだけどな、元々はパーソナルスペース狭い方じゃねえんだよ。
仕事では面倒見たり親しくしているようでも、プライベートには足踏み入れさせねえ主義だしな。

ほぼ寝に帰るだけだった前のマンションですら他人を招いた事はねえし、ましてや生活スペースになってる今の家で一緒に暮らすなんて、特別な相手じゃねえとしねえからな?

アルトは試した事ないかもしれねえけど、今の家で俺の私室の鍵な、かけたことないんだぞ?
いつでもアルトが来れるようにだな、いつも開けてる。

俺様は兄弟仲すげえ良くて、弟めちゃ可愛いけど、それでも親しき仲にもってことで、実家に居た頃にさえ自分の部屋はきちんと鍵をかける習慣のある俺様が、だ。

そのくらいお前は特別なんだよ。
ちょっとやそっとの手間暇かけられたくらいで嫌になるくらいなら、一緒に住まわせたりしてねえよ」

ぎゅうぎゅうと抱きしめながらそう言うが、手の中の愛し子は

「でもっ…ぎるっ…いやになる……」
と、泣きながら首を横に振る。

「だ~か~ら、ねえって。
どうすれば信じんだよ。
籍でもいれれば気がすむか?」

自分の事が嫌になったわけではなさそうな反応にホッとしつつも、頑なにギルベルトが自分を嫌になるのだと主張するアーサーにギルベルトが悩んだ末、そう言うと、

「…りこん…もっとやだ…かみ…いちまいで……死ぬまでおちこむ……」
と、即答される。

その返答に、不謹慎ながらどんだけ後ろ向きなんだとギルベルトは小さく吹きだした。



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