アーサー宅の冷蔵庫を見た課長補佐の第一声はそれだった。
アーサーの引っ越しの支度を手伝ってくれるという課長補佐と共に自宅に戻ったアーサーは、とりあえずPC周りはまずいからと思い、課長補佐にはキッチン周りの整理をお願いする事にしたのだが、まずは冷蔵庫の中身をなるべく消費してから食器の整理をした方がと冷蔵庫を開けた課長補佐に呆れかえられた。
「え?何か変な物入ってます?」
冷蔵庫には調味料と飲み物。
冷凍庫にはレンジでチンする弁当の類があるだけなのだが、何か古かったりする物が入っていたか?と思えば、
「入ってなさすぎだっ!!まさか毎日冷凍食品かっ?!」
と頭を抱えられる。
「…えっと…それは外に出るのが嫌な休日用で、普段はコンビニ弁当ですが……」
で、さらにため息をつかれた。
「わかった。もう良い。
今日からは俺様がきっちり栄養バランスの良い食事作ってやるからちゃんと食えよ」
との言葉で、帰りは食材を買い足しにマーケットによる事が決定した。
驚いた事に課長補佐は、イケメンで頭が良くて仕事が出来て運動神経も良いだけではなく、普通に家庭料理も得意らしい。
ということで、ほぼ何も入ってない冷蔵庫の中身は処分。
電源を落として、食材はないのにそれだけは豊富な種類の茶葉と茶器の類だけは梱包して車のトランクに。
クローゼットと食器棚は備え付けなので良いとして、冷蔵庫や簡素なテーブルと椅子など、すでに課長補佐の家にある共有するような家具はリサイクルに出すよう手配してくれた。
家具で持って行くのは寝室と書斎を兼ねた部屋に置いていたロフトベッドだけ。
それも課長補佐が郵送の手配をしてくれる。
あとは一緒に寝るのに先に連れて行った子以外のティディ達をバッグに詰めれば、あとはノートPCとスキャナを兼ねたプリンタ、それにわずかな文房具くらいしかない。
我ながら本当に物が少ない生活をしていたんだなと、アーサーは今更ながらに思った。
こうしてベッドだけは配送してもらって他の家具はリサイクル。
その他、小さな物は課長補佐の車に積んで、手配した物が全て部屋から撤去される明後日にもう一度部屋を改めて掃除しに来たら引っ越し完了である。
そして残り二日はアーサーの私物の荷ほどきと足りない物をリストアップ、購入する時間にあてられることになった。
とりあえずその夜はまだベッドが届かないので、前日と同じく、キングサイズの課長補佐のベッドにお邪魔する。
普通に考えれば他人…仕事の上司と同じベッドで眠るとかあり得ないわけなのだが、最初に課長補佐の自宅にお泊まりしてこうやって寝たのが体調を崩していて寝落ちた時だったので、なし崩し的に慣れてしまったところがある。
そして…随分と昔、実母と死に別れて以来忘れていた人肌の心地よさを思いだしてしまうと、強く拒否する気がなくなってしまう。
子どものように抱きかかえられて頭を撫でられながら眠りに落ちるのは気持ち良くて、普通ありえないとか、そんなのどうでも良くなってしまった。
課長補佐が日々、自分がアーサーの保護者なのだと言うのだから、そう言うことにしておこうと思う。
ああ…でも……
──課長補佐に寝かしつけてもらってるとか言ったら、お姉さま方に殺されそうだ……
心地よい眠気にどこか幸せな気分でクスクス笑いながら独りごとのつもりで呟くと、
「何か言われたりされたりしたら、ちゃんと俺様に言えよ?
うちの大事な息子に何しやがるって、きっちり抗議してやる。
愛息子を守るためなら、モンペ扱いされたって痛くもかゆくもねえからな」
と、本気なんだか冗談なんだかわからない言葉が頭上から降って来て、思わず噴き出した。
ああ…そう言えば甘やかされる生活…ネットに求めないでも今リアルで手に入れてるな…と、思った瞬間、何か重要な事を思いついたのだが、眠くてすぐ忘れてしまう。
まあ全ては明日の自分に投げておこう…幸い休みはまだ2日残っている…
そんな事を思いながら、アーサーはそのまま眠りについた。
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