「そそ。でな、昨日の夜は俺様、アルトの様子見してたからログインできなかったんだけど、お姫さんはどうだったのかなと気になってな。
お前、インしてたんだろ?」
『ああ、そういうことでしたか…
そう言えばアリアさんも昨夜はログインしていらっしゃいませんでした。
几帳面な方ですし、連絡なしでというのは珍しいなとは思っていたのですが、まだ体調がすぐれないでいらっしゃるのかもしれませんね…』
「あ~…それ気になるな…。
お姫さん、普段ならその日、即落ちする事を伝えるためだけにインしてきそうな性格だし、それできねえくらい体調悪いのか…。
ジジイ、悪いけど、俺様アルトの面倒みねえとだし、今日もインできねえから、お姫さんの様子見頼むわ」
『そこで、女性の方を自分が…と言いださないのがギルベルト君ですよね』
と、そのやりとりにまた本田が笑う。
それに
「仕方ねえだろ」
と、ギルベルトは口をとがらせた。
ギルベルトだって本当は全て自分でやりたい。
でも二兎追うものは一兎を追えずだ。
中途半端なフォローを入れるわけにもいかないし、両方に充分なフォローを入れるのは自分1人じゃ手に余ってしまう。
それならどちらを自分でとなれば、より深刻度の高そうなアーサーの方だろう。
「お姫さんは深窓の令嬢らしいし?助けの手はその気になればたくさんあるだろ。
いざとなったら俺様は面白くはねえけど、ミアもいる。
でもアルトは誰も保護してくれない1人暮らしの子どもで、危険も差し迫っていそうだしな…
俺様が手を差し伸べてやらないと、へたすりゃ殺される可能性だってある」
あとは…それは敢えて言葉にはしなかったが、気になってしまうのだ。
おそらく目の前にいる相手といない相手の違いなのだろう。
どちらも同じくらい大切だとは思うのだが、アーサーは今、本当に手で触れられる距離で苦しんでいるから、それを振り切って、今どうしているかわからない、実際どの程度困っているのかわからないお姫さんの窮状を調べに行く事は出来ないのだ。
もちろん、アーサーがこういう状況じゃなければ、ギルベルトはおそらくそれでもなんとか情報を集めて助けようとするのだろうが……
「結局…順位付けできねえほどの大事なモンてのは複数作ったらダメだよな……
お姫さんはもし上手くいけば一生添い遂げる事ができるかもしれねえ相手で…でもアルトはいつか俺様の手を離れて誰かみつけちまうんだよな。
普通なら優先すんのは前者だってわかってんのに、今、本当にこの今の瞬間に、こいつ見捨てられねえんだよ」
ギルベルト的にはなかなか深刻な心の叫びだったわけなのだが、
『互いに生涯支え合う事を誓ったものの相手は大人な嫁を取るか、まだ自分の保護下で守ってやらなければならない子どもを取るか悩んでいる父親のようですね』
と、深刻に落ち込んでいきそうな気持ちを救いあげるように、本田は少し茶化した感じで言うので、
「ああ、まさにそれだな。違いねえ」
と、ギルベルトも少し肩の力が抜けて小さく笑った。
『まあアリアさんもギルベルトさんのそんな性格はご存じですから。
もしインしていらしたら私がちゃんと事情をご説明しますし、カークランドさんの面倒をしっかり見て差し上げて下さい』
と、最終的に請け負って、そろそろ始業時間なので…という本田に礼を言ってギルベルトは電話を切った。
とりあえずお姫さんのことは本田に任せておけば、何かあったら連絡してくれるだろう。
だから自分が今やるべきことは、アーサーにいかに3日の有休が過ぎたあとも一緒に暮らすことを了承させるかである。
そう腹が決まったギルベルトの脳内での重要事項…
お姫さんとアルト、両方に一緒に暮らす事を了承してもらえたら、いったいどっちの趣味に合わせて家を買おうか…
心配性なのか楽観的なのか、今ひとつよくわからない男なのであった。
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