とある白姫の誕生秘話──愛息子の平和は俺様が守る1

楽しい。
人生がとっても楽しい!

幼い頃、自分自身や弟どころか、自分達の保護者である叔父ですら、捨て犬や捨て猫を放っておけず拾ってくる家族だった。

まず動物病院に連れていき、治療や予防接種をしたあとに譲渡先を探す。
それまでは自分達が面倒を見た。

小さな子猫などは、まだ子どものギルベルトの手にすら乗ってしまうほど小さくて、それなのにぬいぐるみとは違ってある程度の重さがあって温かい。

本当に弱々しくて、きちんと面倒を見なければ死んでしまうのでハラハラしながらも、その弱々しさと必死に生きようとする姿が健気で愛らしさに心惹かれた。

そんな家族の習慣はギルベルト兄弟が大きくなっても変わることなく、実家に居る頃はときたま叔父と自分達兄弟とずっと飼っている3匹の飼い犬の他に、小さな何かが一時的に居候しているというのが常だった。

だが1人暮らしを始めたこのマンションはペット禁止なので、それが出来ない。
そもそもビジネス街にあるので、そういう状況にもならない。

だからギルベルトはいつも会社から帰ると当たり前に1人で、自分自身のめんどうだけを見る生活が続いていた。

だが、それについて特にどう思う事もなかった。
なぜなら日中は嫌でも会社に行くし、会社に行けば手のかかる部下がたくさんいる。
部下どころか上司ですら面倒をみてやらねばならない始末だ。

日々は忙しく流れて行き、感傷に浸る事もなく過ぎて行く。
今が当たり前になって、気づかなかった。
自分が捨て猫に飢えていた事に……



ギルベルトの自宅には今、童顔の部下がいる。
胃痙攣を起こしたので病院に担ぎ込み、そのまま自宅へご招待という流れだ。

その胃痙攣の理由がストレスらしいので、直属の上司のギルベルトとしては放置はできない。

自分で言うのもなんだがギルベルトは女性社員にもたいそう人気があるので、以前、本田が転属してきたばかりの時も、ギルベルトが側につきっきりに近い状態で色々面倒をみていたことで本田に嫌がらせをしてくる女性が出た。

だから今回、自分で手元で部下を育てようと思った時には同様の事が起きないようにと細心の注意を払ってきたつもりだったのだが、それでも何か起こったのか?

そう思って、外では話しにくかろうと自宅に招いたのだが、その口から出て来たのは、なんと会社の人間関係の問題ではなく、ストーカーの存在だった。


病院で出た痛み止めがやや効きすぎているのだろう。
子猫のように大きく丸い目をしばしばさせながら語る様子は、成人済みの社会人の男には見えないくらいあどけなく、下手すればミドルティーンにしか見えない。

そんな幼げな相手から、ネット内とは言えストーカーされたり、リアルでおそらく同じ相手からの無言電話が繰り返し来ていたりという話を聞けば、放っておけるわけがない。

危ない。実に危ない。

この時点でギルベルトはこの子どものような部下を自宅に引き取ることを考え始めた。
とりあえずそれをどう切りだすか…と、思っていると、ついつい抱き寄せた腕の中、とうとう眠気に負けたのか、部下はすやすやと寝息を立てていた。

その様子はどこか昔拾って適切な処置をしたあとに疲れて手の中で眠ってしまった子猫達を思い出させる愛らしさで、心の中がほんわりと温かくなる。

とりあえずスーツのままでは皺になるだろうと自分のパジャマに着替えさせてみたが、見た目通りギルベルトよりはずいぶんと細く小さく、ギルベルトだとちょうど良いパジャマがぶかぶかで、それでもそのままベッドに放り込むと、大きなタオルにくるんだ子猫を思い起こさせた。

(…ああ、小動物飼いてえなぁ……)
と、そんな光景を見ていると、実家を思い出してそんな事を思う。

(まあここペット禁止だから飼うなら引っ越さねえとだけど、さすがにそのためだけには悩むな。
そもそも1人暮らしだと世話ができねえし…)

などと思いながら、無意識にぴょんぴょん跳ねた金色の髪に手を伸ばした。

日々よく撫でていたが、この柔らかすぎてまとまりの悪い髪は、そう思ってみれば子猫の毛の手触りに似ている気がする。
こんな子ども…いや、実際には子どもではないのだが、子どものような同居人が居れば、毎日楽しくなるだろうなぁと思うと、もうだんぜん自宅に欲しくなった。

とりあえずストーカーや変態の毒牙にかけるわけにはいかないし、ここに住まわせてしまったらどうだろう…

すやすやとあどけない顔で眠るアーサーは頭を撫でると眠ったままふにゃりと笑みを浮かべた。
それに心の奥底から何かこみあげてくるものがある

それはおそらく父性本能とかそういうものなのだろう。
可愛くて愛おしくて仕方がない。

とりあえず少なくとも体調が少し戻るまでとアーサーと自分の分に取った有休3日間の間はここで面倒を見てやろう。

その後についてはその3日間の間で口説き落とすべし。

そう決意して、ギルベルトはとりあえず自分もベッドのアーサーの横にもぐりこんだ。



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