──何か胃に来るくらいのストレスになるような事する奴がいんのか?
真剣な顔をする課長補佐は怖い。
整いすぎた顔立ちだけに怖い。
言葉からするとバレてはいない。
単に心配してくれているのだろう。
でもなんと言えば良いのだろうか……本当のことは間違っても言えない。
アルトを育てるって決めたのは良いけど、同じような事が起きる可能性があるとまずいからな。
俺様も気をつけてはいたんだけど、何か言われたりされたりしてんのか?」
黙っていると話が進んで行ってしまいそうだが、濡れ衣を着せるのは親切にしてくれているお姉様達に申し訳ないので、否定しなければならない。
「いえ…皆さんとても親切に可愛がってくれてます」
「…かばったりしねえでいいぞ?隠すなよ?」
「ホントですっ!」
と、そこは顔をあげてしっかり目を見て訴えると、課長補佐は、──そっか…──と言って少し視線を落として考え込んだ。
そして彼にしては珍しく目線を合わせずに、ぽつり…と言う。
「もしかして…何か俺様との仕事、やりにくかったりするか?
仕事のやり方だけじゃなくて…なんか合わないって感じてるとか……」
うあああ~~!!!そっちに行くのかっ!!!
ひどく悲しげな表情で聞いてくる課長補佐にアーサーは頭を抱えたくなった。
「違いますっ!!それもないですっ!!!
会社は皆さん親切で優しい先輩ばかりで、仕事も楽しいですっ!!」
「…じゃあ、何があったんだ?
何か困ってるんだろ?」
思い切り否定すると、改めて聞かれてアーサーは押し黙った。
本当のことは言えないのだから、何かみつけなくては……
このところ困っていること?
なんだろうか……
(ネット内の)ストーカーや(リアルでの)しつこい無言電話くらいじゃ、困ったことのうちに入らないか……
「それ、充分入るだろぉぉーー!!!!」
「へ?」
脳内で言っているつもりが、小声で呟いてしまっていたらしい。
課長補佐にガシっと両肩を掴まれた。
「大丈夫なのかっ?!!
何もされてはいねえよな??!!!」
近い近い近い近いっ!!!!
課長補佐の端正な顔が間近にあって、正視できずにうつむくと、彼は無言で真っ青になった。
「いえっ!!ストーカーの方はネット…えっと…そう、SNSのことなので問題ありませんっ!
アカウントも消したのでもう無問題です。
無言電話もただ出たらハァハァ言ってるだけなので…」
オンラインゲームと言うとバレるので、とりあえずSNSのことにして、それでも追及されかねないのでアカウントを消した事にして過去のことに。
無言電話の方は今も続いているが、週に2,3日、切ると1回に3,4度ほどかかってくるが、その都度無言で切れば収まるので、まあいずれ電話番号を変えるかとは思うが、今は放置中だという現状を説明する。
これでとりあえずこの件についてはOKと思っていたら、OKではなかったらしい。
課長補佐にいきなりぎゅうっと抱きしめられた。
そしてため息と共に降ってくる
──お前なぁ…そういう事は早く言えよ……
という声は呆れたような色を含んではいるモノのとても優しい。
伊達に会社で“みんなの兄貴”扱いされているわけではない。
面倒見の良さが筋金入りらしく、男らしく筋張った手がくしゃくしゃと頭を撫でてくれる感触が心地いい。
本来はパーソナルスペースがかなり広いアーサーですら、緊張が解けてしまうというのはすごいことだ。
もし自分が猫だったら、ゴロゴロと喉を鳴らしているだろうとアーサーは思う。
そのくらい他者を甘やかし慣れている手だ…
しかしながら、その面度見の良さは、アーサーの想像の範疇を空の彼方まで突き抜けている事を、彼は課長補佐の行動で知ることになる。
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