それが現在のギルベルトの住居である。
「…ここ…どこですか?」
と目をぱちくりするアーサーに、
「俺様の自宅」
と、言うと、アーサーはさらにびっくりしたように目を丸くした。
そんな可愛い部下を外に促すと、オートロックのドアを抜けて廊下へ。
そのままエレベータに乗りこんで7階でおりる。
シックなグレーの色合い。
つやつやのタイル張りの廊下。
共有部分の空調は建物で一括管理されていて廊下も外には面していないので、エントランスに入った時点で管内全てが適温になっている。
そんなギルベルトにはもう慣れた空間に、アーサーはまるで初めて外に出た子猫のように落ちつかなさげに周りを見回していた。
そんなところが、ああ、可愛いなと思う。
ギルベルトは元々小動物を飼い続けた一家で育って、きつく見える顔立ちのせいか気を許してもらうまでに時間はかかるのだが、子どもだって大好きなのだ。
本当の子猫ならここで抱き上げて運んでやるところだが、アーサー相手にそれをやったら、さすがに一応ぜんっぜん見えなくても成人男子なわけだし、ギルベルトは良くてもアーサーは嫌がるだろう。
それを少し残念に思って苦い笑みを浮かべながら、ギルベルトは前に立って自室まで誘導した。
「…ってわけで、到着だ。どうぞ?
ああ、靴は脱いでな?」
靴のまま過ごす人間もいるが、ギルベルトは床も含めて綺麗に保ちたい派なので、玄関できっちり靴を脱ぐ派だ。
このマンションの玄関は入って右側に大きな靴箱があるので、それも気にいって買ったのだ。
ちなみに入って左側には大きな鏡が設置されている。
玄関から一段あがった木目調の廊下。
右側は大きな収納で、左側にはバスとトイレ。
廊下を抜けると12畳のリビングダイニング。その左側にはカウンターキッチン。
奥と右側にそれぞれ寝室と書斎がある。
まあ1人暮らしとしたら充分な広さだと思う。
難点を言えばペットが飼えない事くらいか…。
「とりあえず、ソファに座っててくれ。
飲むもの淹れてくるから」
と、部屋に入ってからもなんだか怯えた子猫のようなアーサーに苦笑して、くしゃりと頭を撫でると、キッチンに。
リビングダイニングに面したカウンターキッチンなので、ちゃんと心細げにしているアーサーの対応が出来るのが良い。
とりあえず胃に優しい物を…と、アーサーには蜂蜜入りのホットミルクを作りつつ、自分の分はスイッチ一つで自動で入るバリスタのコーヒーを淹れる。
実家に居る時は家族全員飲むのできちんとドリップで淹れていたが、1人暮らしを始めてからは、自分の分だけなのでほぼこれで済ませている。
そうしてマグカップをふたつ手にすると、ギルベルトはリビングに戻ってホットミルクの方をアーサーに渡した。
──…ありがとう…ございます……
いまだ慣れずにおずおずと見つめてくる大きくまるいグリーンの瞳。
ぴょんぴょんと跳ねた小麦色の髪もどこか猫を思わせて、全体的な雰囲気が可愛らしいと思う。
「…あの……」
「ん?」
「…俺…どうして課長補佐のご自宅に連れて来られたんでしょう?」
膝に乗せて頭を撫でまわしたいな…などと、内心ギルベルトが思っていると、とうの子猫は泣きそうな顔で言う。
そのどこか不安げな様子が可哀想で可愛い。
だからその不安が安堵に融けるよう、言ってやる。
「あ~、結局原因はっきりしてねえしな。
外だと込み入った話もしにくいと思って連れて来た。
…というわけでな、解決に全力を尽くしてやるし、守ってやるから言え。
何か胃に来るくらいのストレスになるような事するやつがいんのか?」
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