ハプニングは続くものである。
お姫さんの状態を気にしながらも何が出来るわけでもなし、ネット内の人間関係で休むわけにもいかないので出社した会社では、フロアに入るなりなにか周りが騒がしい。
と、もしそうなら自分がフォローに入らなければ…と、心づもりで歩を進めれば、なんと
──胃?!胃が痛むんですねっ?!救急車呼びますかっ?!!!
という本田の珍しく切迫した声。
誰か体調が?と問うまでもなく、目に入って来たのはデスクにうずくまっている、可愛い可愛い直属の部下の姿。
その時点で脳内でくすぶっていたもの全てが吹っ飛んだ。
「俺様、今日車で来てるから連れてくわっ!
ジジイ、俺らの休暇の手続きだけ頼むっ!!」
本当に偶然だが、今日車で来ていて良かった。
とにかく反論を許す気はさらさらなく、ギルベルトはアーサーを抱き上げてその軽さに驚く。
いつもいつも、──こいつちゃんと飯食ってるのか?このうっすい腹にはちゃんと内臓とか普通に詰まってんのか?──と、秘かに心配していたが、細い細いと思っていた部下は見た目に比例して羽根のように軽かった。
成人男性がこんなんで、体調を崩さない方が不思議だとすら思う。
アーサーは腕の中で血の気を無くして、痛みのせいだろうか、ぷるぷると震えている。
ギルベルトの実家は皆動物が好きで、よく捨て猫やら捨て犬やらを拾っては病院に連れていき、面倒を見つつ里親を探し、見つからなかった子は自宅で飼ったりしたものだが、そんな事をしていたので、もちろん救いの手が遅すぎて冷たくなった子猫なども多く見てきた。
今、手の中の自称成人男性は、まるでそんな子犬やら子猫のように思われた。
慎重に…しかも早急に適切な対応を取らねば死んでしまうかもしれない…
と、ひどく恐ろしくなる。
──アルト、アルトっ。すぐ病院連れてってやるから、楽にしてろよっ!
と、声をかけても力なく一瞬睫毛を震わせただけで、反応がない。
気持ちは焦るが慎重に、ギルベルトは駐車場に舞い戻ると後部座席にアーサーを寝かせてその上に自分のスーツの上着をかけてやり、車を発進させた。
──ストレス性…胃炎?!
会社の健康診断にも使っている病院に運び込んで診療を受けさせて、言われたのがそれだった。
医者いわく、一応気になるなら後日に胃カメラやレントゲンを取っても良いが、ついこの前、健康診断で異常がなかったので、おそらく神経性だろうとのことである。
今は鎮痛剤を処方されて痛みが治まったら疲れたのだろう。
診察室の椅子に座るアーサーはどこか眠そうで、目をしばしばさせているその姿は、どこか夜更かしをした子どものようで愛らしい。
…が、問題は解決していない。
そこまでの体調不良を起こさせるストレスの原因は一体何だ?
とりあえず薬だけもらって病院を出ると、まず駐車場で本田に連絡。
今日はギルベルトもアーサーも有給の手続きをしておいてくれたとのことなので、それに感謝しつつ、アーサーを乗せて車を走らせた。
向かう先は自宅マンション。
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