とある白姫の誕生秘話──パニックパニック大パニック4


嘘だろぉぉ~~~!!!!

アーサーはリアルで絶叫した。

間違いない。
ワールド商事で発売予定の男性化粧品のモデルと言えば、バイルシュミット課長補佐の他にいるはずがない!!

あ~…そう分かって思い出してみれば、最初の面接の時、彼は“ギルベルト”・バイルシュミットと名乗っていた気がする。

その後だって、本田課長はアーサーがいる時は気を使ってか、アーサーの事も課長補佐の事も名字で呼んでいたが、課長補佐と2人の時には彼を“ギルベルト君”と呼んでいたような…

いやいや、もっとはっきりしたところでは、まさに今日っ!広報企画部の美人の主任が“馬鹿ギル!!”と言ってたじゃないか…。

課長補佐のファーストネームは“ギルベルト
よくよく見てみれば、同じ銀髪。そして同じような兄気質。

こんなすさまじい偶然と言う事を除けば、2人が同一人物だと言う事はなんの不思議もないくらいそっくりだ。

ということは…だ、あれか、ギルのリアルの知り合いで、今日打ち合わせで遅れているノアノアはおそらく本田課長あたりかっ。

確か今日は帰り際に広報企画部に最終的なスケジュール確認のため寄って行くと言っていた。



こんなキャラにするんじゃなかったっ!!!

と、アーサーは頭を抱えた。


普通に男のキャラなら、偶然ですね、から、カミングアウトをしてさらに仲良くなれたかもしれない。
でもバリバリネカマの少女キャラで通しているので、言えない…今更言えない。

でもこちら側だけ竜騎士のギルがバイルシュミット課長補佐と知っているのに、素知らぬふりで接していて、後で何かの拍子にばれたら大ごとな気がする。

…というか、ネカマをやってると知られたら、翌日からどんな顔で会えばいいのかわからないし、なによりどう思われるかが怖い…。


とにかく課長補佐と知っているのに知らないふりはまずい。
非常にまずい。

とりあえずいまは戦略的撤退をするところだ。


「ギルさん…ごめんなさい、ちょっと私なんだかすごく体調悪くなってきて…今日は落ちますね」

まさか戦略的撤退させて下さいとは言えないので、当たり障りのない理由をつけつつ、ギルドハウスの自室にいたのを幸いに返事を待たずに即落ちをした。

これでとりあえず騙す気があったなら接触を絶たないだろうから、騙す気は無かったということは信じてもらえないだろうか……


こうしてログアウトすると、はぁ~とデスクに突っ伏して、一息つく。

(…これからどうしよう……)



結局その日は眠れぬまま夜が明けた。

出来れば落ちつくまで顔を合わせたくはないがゲームと違って会社はログアウトするわけにはいかないので、アーサーは重い気持ちを引きずって会社へと向かう。


…ああ…会いたくない……

入社以来、ずいぶんと親切に面倒を見てもらったし、1人暮らしで自宅ではネットで以外他人と話す事がなかったので、毎日会社で課長補佐と会うのは楽しみだったのだが、今日は切実に会いたくない。

しかしどんなにそう思ってもデスクが隣なのでそういうわけにもいかないだろう。
そう思ってフロアに入ったが、いつもは始業時刻よりも随分と早めに来ているバイルシュミット課長補佐が、今日は何故かまだ来ていない。

いつもと違う……

そのことにアーサーはさらに動揺した。

もしかして…実は何故かもうバレていて、何かそれが理由でだったらどうしよう……
そんな事を思うと、全身から血の気が引いた。
緊張しすぎて心臓がドッドッと早鐘を打ち、胃がずきずきと痛んでくる。

1人デスクに座って鞄を開けようとして、あまりの胃の痛みに思わずデスクの上に突っ伏した。

──おはようございます。おや?今日は疲れていらっしゃるんですか?カークランドさん

と、今出勤したのだろう。
突っ伏した頭の上からいつもと全く変わらぬ本田課長のおっとりとした声が聞こえるが、彼がノアノアかもと思うと、余計に胃が痛んで、応えるどころではない。

それでも無視は社会人としていけないだろうと、なんとか顔をあげると、にこやかに笑みを浮かべていた本田課長の表情が一気に緊迫した。

「カークランドさんっ?!どうしましたっ?!!大丈夫ですかっ?!!!」

そう聞かれても言葉が出ない。
かろうじて──胃が……──とだけ答えると、彼は

「胃?!胃が痛むんですねっ?!
救急車呼びますかっ?!!!」
と、電話を取りだす。

「グーテンモルゲン…」

と、そこで聞きなれた少しハスキーな声が聞こえてきたが、本田とアーサーの様子を見たのだろう。

「ジジイっ!!アルトどうしたんだっ?!!!」
と、それがほぼ叫ぶような怒鳴り声になって近づいてきた。

「ああ、ギルベルト君、ちょうど良い所にっ!
実はカークランドさんが急な胃痛で今救急車を呼ぼうかと…」
と本田が言うのに、

「俺様、今日車で来てるから連れてくわっ!
ジジイ、俺らの休暇の手続きだけ頼むっ!!」
と、言うや否や、いきなり横抱きに抱えあげられた。

痛さと驚きと緊張と…色々でパニックだ。

しかしそんな中で、もしかしたら昨日のがバレて不興を買ったのでは?と思っていた信頼しきっている上司の

──アルト、アルトっ。すぐ病院連れてってやるから、楽にしてろよっ!
と言う言葉で、もう色々が限界だったアーサーはあっさり陥落。
胃を抑えたままぎゅっと目をつむった状態で、半分意識が遠のいていった。



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