どうせ皆、課長補佐の方に目が行ってアーサーになんか注意を向けはしないだろう。
それは幸運と言って良い。
同性だとか異性だとかは関係ない。
カッコいいものはカッコいいし、見ていて楽しい。
ということで、まあそれほど拒否感もなく、むしろ機嫌良くその日の就業時間を終えて、アーサーはいつものようにコンビニで弁当を買って帰って、それをチンしている間に渡された化粧品の使用法に目を通す。
なるほど。
ただ見かけを変えるために塗るだけでなく、普段から手入れが必要なのか…ふむふむ…
化粧水に美容液に乳液…。
気をつけないと一つくらい忘れそうだ。
…というか、習慣づけるまでが大変だ。
就業時間内の事ならきちんとやる自信があるのだが、プライベートだと今ひとつそのあたりの自信がない。
とりあえず時間を置くと忘れそうなので、今日は大急ぎで弁当を食べて、即風呂に入りがてら、洗顔と基礎化粧を済ませてしまおう。
こうしていつもなら寝る前に浴びるシャワーを早めに済ませてしっかりと説明通りに基礎化粧品をつけ、すっきりしてPCの前に座る。
そしていつもの通り、レジェンド・オブ・イルヴィスの世界へ出発だ。
その日はノアノアはリアル事情で30分ほど遅れるということ。
何かするには短いし、さて、どうしようか…と思っていると、それならパーティだけ組んでおいて釣りをするなり合成をするなり素材狩りをするなり好きにしていようとギルからパーティの誘いが来たので迷わず入る。
その上でアーサーは自室で合成をする事にした。
と言ってもそんなにすごいものではなく、いつも持ち歩いている姿を隠す薬のストックを作るだけだが…
──ノアノアさんがリアル事情で遅れるって珍しいですねぇ…
しゅわわっと音をたてて薬が出来る様を見ながら、何をしているのかはわからないギルに話しかけると、
「あ~、あいつ基本出かけんの好きじゃねえからな。
仕事終わったら家まで直行派だし」
と、返って来た言葉で、ああ、そう言えば2人はリアルの知り合いだと言ってたな…と、アーサーは思い出す。
「そう言えば…リアルのお知り合いとおっしゃってましたよね」
「おう、同じ会社の社員。部署も同じ。
今日は新しいプロジェクトが発足して、その打ち合わせの詰めでノアノアはちょっとだけ残ってる」
「そうでしたか。ではギルさんもお忙しいんですか?」
と聞いたのは、なんとなくな話の流れだった。
…が、その質問からとんでもない事実が飛びだしたのだ。
「あ~、俺様も参加するっつ~か…あ、そうだ。
お姫さん、実は俺様今度顔出しすることになったんだわ」
「…顔…出し?」
どこかで聞いた言葉になんとなくひやりとする。
「おうっ!
これ他には秘密だけどな。
たぶん実際街に出るのは2カ月後くらいか…。
男性化粧品のモデルをな、やることになって」
…だん…せい……化粧…品???
どこかで聞いたような…と思う
…まさか?まさか、まさか、まさか??
違ってくれ!と心の中で絶叫するが、今そうやって考えて見ると、何故これまで気づかなかったのかと思うくらい、2人は似ていないか?
というか…名前からして一緒では?!!!
リアルで血の気が引く。
が、当然そんなアーサーに気づくことなく、ギルは実に悪気なくとどめの一言を放ってくれた。
──ワールド商事から売りだす某団体とのコラボの化粧品なんだけどなっ!
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