とある白姫の誕生秘話──パニックパニック大パニック2

「何故おれが“可愛い”担当にっ?!!!」

入社したての会社の新事業、男性用化粧品。
その一般人モデルとしてバイルシュミット課長補佐が選ばれるのはわかる。
なにしろ、それを一般人として扱って良いのか?と問いたくなるレベルのイケメンだ。

しかしそのイケメンと並ぶのに何故自分のようなフツメンが?!と、思わず本田に異議を唱えると、本田は

「カークランドさん、童顔で可愛いですよ?
そもそも飽くまで本人の売り出しではなく化粧品の売りだしなので、実はバイルシュミット課長補佐ほどの容姿を求めてもいませんし。
あと、カークランドさんのお仕事って課長補佐経由なので、彼があちらの仕事で居ない時はやることありませんしね。
それなら一緒にあちらの仕事やっていた方がいいかなぁと…」

と、おそらく最後のが本音なのだろう。
そんな内情も話して来る。

確かにそうだ。
入社してからのアーサーの仕事はバイルシュミット課長補佐の雑務や手伝いがほとんどなので、彼がいないと出来る事がない。

そこを突かれると、もうやるしかない。


「本当に俺なんかで良いんなら…。
でも何をやれば良いんです?」

と、結局了承の意を示せば、本田はややホッとした様子で、──了承取れました…──と、おそらく広報部に連絡をしたあと、

「じゃ、支度をして下さい。
広報部までご案内します」
と、自ら案内役を買って出た。



こうして辿りつく広報部。
その中でも圧倒的に女性率の高いシマへと案内された。

男性化粧品の企画なのに女性が多いのか…と、不思議に思っていると、それを察したかのように本田が

「ああ、この企画を取って来たのが広報部でもやりてと名高いエリザさんという女性主任なんです」
と、教えてくれる。

ほら、あの方ですよ、と、示された相手は、綺麗な栗色の髪に花の髪飾りをつけた美女だ。
パンフレットを手にバイルシュミット課長補佐と何か話している様子は、美男美女でとてもお似合いに見える。

そう言えば開発部のお姉さん達が、バイルシュミット課長補佐には恋人がいるとの本田課長情報を披露してくれていたが、恋人と言うのは彼女のことなのだろうか?

もしかして課長補佐が広報でよく使われるのは、2人が親密な関係だからなのか?…そう思うと何かもやっとしたものが心の中から広がって行く。

何故…?

あれだけのイケメンだ。
恋人の1人くらいいたっておかしくないし、彼女だって美人で仕事も出来てお似合いじゃないか。

そう思うモノの、ひどく気が沈む。
本当に不思議な感情。
たぶん…優しくされすぎたからだろう、と、アーサーはそんな自分の気持ちをそう結論付けた。

これまで優しくされ慣れていなかったのもあって、新人の自分をしっかり守り育てようとするバイルシュミット課長補佐の熱意を特別な好意のように心が取り違えてしまっているのだ。

でもそれは恋人に対する気持ちとは方向性の違うものだから、別に恋人がいたからといって、アーサーに対するそういう熱意がなくなるわけではない。

むしろ恋人との未来のために仕事の成果を出そうと、より熱心に仕事を教えてくれるに違いない。
だからアーサーが彼の恋愛事情を不安に思う事はないのだ。

そう自分に言い聞かせて、アーサーは顔をあげた。



「お待たせしました。カークランドさんに了承頂きましたので、宜しくお願いします」
と、アーサーがそんな事を考えている間に、本田がパンフレットを挟んで話しあっている2人に声をかけた。

「お~!来たかっ!」
と、それにどこか嬉しそうな顔をする課長補佐に、アーサーも嬉しいような…それでいてどこかツキンと胸が痛むような、複雑な気持ちになる。

が、そんな感傷を吹き飛ばすように、

「きゃああぁ~~!!!かっわいいっ!!
やっぱアーサー君可愛いわねぇっ!!!」

と、いきなりすごい勢いで突進してきた美女に、ぎゅむっと抱きしめられた。


課長補佐と並んだらそう見えなかったのだが、実はわりあいと背が高いのだろう。
アーサーと同じくらいあるだろうか…。
まあ、アーサー自身は男性としてはそう背が高いわけではないのだが、ヒールの分高くなっているせいか、アーサーとそう身長が変わらない気がする。

ふわりと髪から香る良い匂い。
しっかりと抱きしめられているので、密着した胸元に、相手の豊満な胸が当たっている。

女性にこんなに近い距離に来られた事は幼い頃の母親以来で、どうして良いかわからず硬直していると、

「お前っ!いい加減にしとけよっ!!」
と、グイっと彼女から引きはがされ、ボスン!と課長補佐の腕の中に抱え込まれた。

腕の中でおそるおそる見あげた課長補佐の顔には笑みがなく、表情は厳しい。
もう目に見えて怒っている様子だ。

これは…やっぱり、自分の恋人が他の男に抱きついて気分が良いわけがない…そういうことなのだろう。

「…か…かちょ…ほさ……すみませ……」

自分でどうできたのか、どうすれば良かったのかはわからないが、怒らせてしまったのは確かだ。
とにかく謝罪して許してもらわなければ…と、半泣きになりながら口を開いたアーサーだったが、返って来た課長補佐の反応にさらに動揺することになる。

彼女から引きはがされて後ろ向きに抱え込まれていたのをクルリと反転。
しっかりと抱き合う形で抱きしめられると、

「凶暴な馬鹿女にいきなり抱きつかれて怖かったよな。
カバーが遅れてごめんな?」
と、なんと頭を撫でられる。

え?え?そっち?!!

驚くアーサーだが、エリザの方は

「あんたに凶暴とか言われたくないわよっ!!馬鹿ギルっ!!!」
と、当たり前に言い返している。

何かこう…甘い雰囲気と言うものがない気がするのは気のせいだろうか…

頭上で飛び交う舌戦。
それは結局

「とにかくっ!最初に言った通り、宣伝に協力するのは社員としてはやぶさかじゃねえが、アルトに変なちょっかいかけやがったら即降りるからなっ!!」
という課長補佐の言葉に

「はいはい。わかりましたっ!保護者様のお気に障るような事はしないわよっ!」
と、エリザが応えて終わったようだ。

結局その後は基礎化粧品の説明と使い方の話をされて、撮影に関してはまた具体的な諸々が決まったらと言う事で広報部をあとにした。

まあそこまでは平和だった、そう、そこまでは……



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