とある白姫の誕生秘話──とある広報企画部のモブの話4

茂部太郎の上司エリザ主催の“薔薇を愛でる会”。
最初に同行した時はその場違いさに緊張した。

繁華街の表通りから少し離れた閑静な住宅街。

そこに1件、薔薇のアーチをくぐって見事な薔薇が咲き誇る小さな庭園を歩いて辿りつく豪奢な洋館。

暖かい日には外で食事を取れるのだろう。
その薔薇がよく見えるテラスにも繊細な細工のテーブルと椅子が並ぶ。

おそらくこんな機会がなければ入るどころか存在も知る事がなかったであろう高級店。
量販店の安いものではあるが、スーツを新しくしておいて良かった…と、秘かに思う。

そんな高級感満載の店に全く臆することなく、ピンと姿勢よく背を伸ばして颯爽とヒールの音を響かせて進むエリザの跡を、茂部太郎はまさに下男といった様子ではぐれないようについていった。


店のドアをくぐると、豪奢感はさらに増す。

おそらく大理石であろうタイルの上に敷かれたワイン色の絨毯。
照明は廊下の左右の壁についている、アンティークな感じのガラスのランプのみ。

入ってすぐに黒のタキシードを着た初老の店員が立っていて、

「お待ちしておりました。ヘーデルヴァーリ様」
と、エリザに恭しく頭を下げた。

それに軽く頷いて
「今日もよろしくね。皆様はもういらしてるかしら?」
と、聞くエリザは堂にいった感じで、そのあたり、自分とはずいぶん違うものだと茂部太郎は感心した。

こんな状態だから、最低限の事以外はせず、黙ってメモだけ取っていろというエリザの指示は、自分にしたらありがたい。
むしろ一緒に話の輪の中に入れと言われた方が無理すぎて動揺するな…と、茂部太郎は思った。


こうして店員に案内されて進むエリザのあとをひたすらについていく茂部太郎。

床はピカピカでツルツルだが、ちゃんと絨毯が敷いてあるので滑らずに歩けていることで、ワールド商事の最終面接のあの日を思い出す。

あの時もこうして絨毯が敷いてあれば…と、ふとそんな事を思っていたら、前方でクスリと笑われた。

「あのね…会社の廊下にいちいちこんな絨毯敷いてたら掃除大変よ?」
と、振り返らず小声で言うエリザ。

「な、なんで、俺が考えてる事がわかったんですっ?!」
と、驚きの視線を向けると、エリザはやっぱり笑みを含んだ声で

「そうねぇ…乙女の勘…かしらね?」
と、いたずらっぽく言った。


そして部屋に着き、ドアが開く。

禁断のドアが……


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