とある白姫の誕生秘話──とある広報企画部のモブの話3

──モブ太郎、モブ太郎~!!

デスクに座る暇もなく、女神様の雑用係を務める。
これが茂部太郎の一日である。


エリザベータ・ヘーデルヴァーリ主任。
27歳独身。

美人で仕事が出来て、実は武道の達人でもあるらしい。
そんな彼女が最終面接で茂部太郎を見いだした、現在の茂部太郎の上司である。


不思議だ。
実に不思議だと思った。
そんな颯爽としたデキる女性が何故、茂部太郎を部下にと望んだのだろうか…

今なら本当にわかってしまうそれが入社時はわからなくて、入社後すぐくらいに理由を聞いてみた事がある。

そこで返って来た言葉は、

「ん~居ても気にならないモブ気質っぽい子だから?
あとはほら、面接の日に派手に素っ転んだから?」
と、なんとも微妙な言葉だった。

その時はぽか~んとしたものだったが、それから数日後…茂部太郎はその言葉の意味を知るところとなるのである。



広報企画部のエリザ主任の仕事の高評価を支えるのは、彼女の持つすさまじい広さの人脈だと言われていた。

特に女性。
そう、女性をターゲットとした広告の素晴らしさは他の追随を許さない。

そして、自社だけではなく、様々な有力な企業とのコラボの仕事を取ってきては、それを有名無名問わず、自分の人脈でデザイナーやイラストレータ、コピーライターに発注をかけては、素晴らしいものを仕上げてくる。

そんなエリザの人脈のための女子会。
通称薔薇を愛でる会というらしい。

週に1度程度、学生からわりあいと有名な企業の女性管理職まで、その時々でメンバーは入れ代わるが、様々な話題について忌憚なき意見を言い合う会だそうだ。

場所はその会に毎回出席しているエリザの知人の経営するレストランの個室。
茂部太郎の最初の仕事らしい仕事は、その会に出席するエリザのお供をする事だった。


「女性限定と言ってませんでした?
俺は男ですけど良いんですか?」
と、聞いた時のエリザの答えは

「そう。だから部屋の附属品になっててね。
君を取った理由の一つは、その存在感のなさだから。
君の仕事は私の荷物持ちと、あとは有用な情報をメモすること。
一応いろいろな事に配慮して録音は禁止なのよ。
でないと本音で話しにくい事もあるから。
飲食物はみんなと同じものは出してあげるし、普通に食事はして良いけど、絶対に話の中には入って来ないこと。
聞かれた事以外は一切言葉を発さない。いいわね?」
ということで、なるほど、エリザが言っていた最初の言葉はそれでよくわかった。

でもそれなら…?

「あの…質問して良いですか?」
「いいわよ。なに?」
「それならお供を女性にすれば良いのでは?」

茂部太郎にしてみればとても当たり前のことのように思えたのだが、エリザからは──何言ってんの?…というような視線が返って来た。

「女性だと一緒に話の中に入りたくなっちゃうじゃない。
それで何人かお役御免にしたし。
もしくは…同性だと自分だけっていうと、なんか疎外感とか居心地の悪さを感じて自分で辞退を申し出た子もいたかな。
その場に溶け込む事は大事だけど、メインは記録係ですからね。
自分は会合に参加している面々とは全く異質の存在だって認識した上で、淡々と感情的にならずに必要な事だけを記録する、それが出来る子が欲しかったのよ」

成るほど。
確かにそれなら異性の方がいいのかもしれない。

…と、茂部太郎が納得して、直帰になるので自身の帰り支度を始めた時に、後ろからぼそりと

──まあ…男でも逃げたのいるけど……

と、不吉な言葉が呟かれたのは、あいにくというべきなのか幸いにというべきなのか、彼の耳には届かなかった。



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