とある白姫の誕生秘話──とある広報企画部のモブの話5

重厚な木の扉を開けると、中はクラシカルな雰囲気の部屋。

一般ピープル、モブの王道を行く茂部太郎にはよくはわからないが、まるで漫画かドラマのヨーロッパの城の一室のようだと思った。

中央にはなんだか高そうな絨毯の上になんだか足の部分の細工がすごいクリーム色のテーブル。
そのテーブルを囲むように並んでいる、こちらもなんだかすごい細工の布張りの椅子。

そこにはいかにも若そうな…おそらく学生から、上は初老と言っていいような上品な老婦人まで、どういう関係の集まりなんだろう?と不思議になるような女性達が談笑をしていた。

その中でもひときわ目立つのは、ふわさらな蜂蜜色の髪に海のように深い青色の瞳の絶世の美女。

「エリザ、そちらが新しい?」
と、彼女は席を立ってこちらへと歩み寄ってきて、茂部太郎に視線を向けて意味ありげに微笑んだ。

側に来ると、なんとも言えない良い匂いがする。

ぼ~っと見惚れていると、エリザが彼女の問いに応えて頷いた。

「ええ、今年の新人。茂部太郎よ」
とエリザが言うと、それまで談笑していた声がピタッと止まり、部屋中の…と言っていいくらいの視線が茂部太郎に集まる。

え?ええ??

一斉に自分に注がれる視線に茂部太郎は固まった。

「エリザ…確かに役割としてはモブに徹してもらわないと困るけど、それはないんじゃない?」
と、何故か美女にどこか同情のような視線を送られて、茂部太郎はさらに動揺する。

「せやで~。あんまイジメはると、また前の子ぉみたいにやめてまうんちゃいますか?」
と、別の若い女性も苦笑。

「もぶたろうって…某ネズミのアニメの主人公じゃないんですから…」
と、まで言われて、ようやく気付いた。

そして茂部太郎が自分で訂正をするまでもなく、エリザがヒラヒラと顔の前で手を振りながら、笑って訂正をいれる。

「あ~違うのっ!あだ名じゃなくてね、彼の本名が、もぶたろう。
名字が茂部で名前が太郎ね」

「ええええーーー?!!!!」

起こるどよめき。
あがる驚きの声。


「本当にっ?!!」
「まさに、名は体を表すと言うか…」
「役割にぴったりの名前ですなぁ…」

口々に呟かれる言葉は、茂部太郎の人生の中であまりに言われ慣れていて、これと言って思うところもなかったのだが、もともと細やかな性質なのだろうか。
最初に歩み寄って来た美女が、

「色々失礼でごめんなさいね。
お姉さんはフランソワーズよ。フランソワーズ・ボヌフォワ。
エリザから聞いてると思うけど、この集まりって色々な分野の女性の情報交換の場なんだけど、たまに男手が欲しい事があるのね。
でもメンバーと問題を起こして欲しくないから、極力目立たないようにそこに控えててほしいってことなの。
気を悪くしないでね」
と、優しく中央のテーブルではなく、壁沿いの小さなテーブルと椅子に案内してくれる。

「食事は普通に摂ってね。
で、飲み物は最初はワイン頼んでおいたけど、何かほかに欲しい物があれば、遠慮なくそこの呼び鈴を鳴らして注文してもらって構わないから、よろしくね」

などと美しい微笑み付きで言われた日には、モブ扱いなど全然無問題だし、テーブルに並んだ食事も文句なしに豪華で、会話に入れないだけで隣のテーブルについているのは美女ぞろい。

まるで天国のようだ…と、その時確かに茂部太郎は思った。
そう…その時は確かに思ったのである。



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