とある白姫の誕生秘話──嫉妬1

ギルベルトは面倒見は良いが、それは周り皆に対してで、特定の誰かに執着などはしない、俗に言う、来る者拒まず去る者は追わない人間だと自他共に思っていた。

が、それは間違いだったらしい。

最近は、それは単に自分が執着したいと思うような人物に出会わなかったからだと実感していて、さらに、その思いをもてあまし気味である。

お姫さん…ことアリアと、可愛い部下のアーサー。
その2人のこととなると、理性や自重なんて言葉は宇宙の彼方まで飛んで行ってしまう。
我ながらバカバカしいほど感情が抑えられない。


その日は特にタイミングが悪かった。

前日に新人社員の研修で丸一日いなかったアーサーが、朝、いそいそと紙袋をデスクに置いていたので聞いてみると、

「あ、これ、もらったんです。
課長補佐、覚えてますか?面接の時に転んだ奴。
昨日の研修で彼と一緒になって、お互い入社出来て良かったなって話をしてたんですけど、彼が、入社出来たのは俺のおかげだって、今朝、昨日俺が好きだって言ってた焼き菓子をわざわざ買って来て渡してくれたんですっ」
と、嬉しそうな顔で言った。

その時点で気分は急降下だ。


普通に考えれば、実はわりあいと人見知りが強いアーサーに同期の知り合いが出来たということは、喜ばしい事だろう。

部署が違っても、きのおけない同期同士の付き合いは楽しい。

……が……もう、心が狭いと言う事は重々自覚しているわけなのだが、ギルベルト的には面白くないのである。

可愛いアルトが美味しそうに食べるのは自分が作った菓子だけで良いし、嬉しそうな顔を見せるのも自分にだけで良い。

……なんて事を言った日には引かれるのは目に見えているので、口にする事はできないのだが……

なので色々を飲み込むと、何か喉につかえたような不快感が消えずに眉間に皺。

しかし、そこで不機嫌なギルベルトに気づいた可愛い部下が、きゅるん…と愛らしくも動揺して

「課長補佐…今日何かありましたか?
それとも俺、何かしましたか?」
と、言って来る様子が可愛らしすぎて、不機嫌が続かない。

もう、思い切り振り回されているな…と思いつつも、

「いや、ちょっと仕事とか諸々で色々あってな…。
心配かけて悪いな」
と言うと、ほっとした様子でふるふると首を横に振るのが、幼げで可愛い。ほんっとに可愛い。

おまけに、
「お疲れ様です。
今日はティータイムにはとびきりの紅茶淹れるので、課長補佐も一緒にもらった焼き菓子食べましょう」
と、ほわっと微笑むから、ついつい笑みが零れてしまった。

いや…他の奴からもらった菓子というのは気に入らないが、アーサーが全部食べるよりは少しでも食べる量を減らせるだけ良い…などと狭量な事を考える。


そんなギルベルトの心の内を察したように、本田が

「あぁ、お二人とも良いですねぇ」
などと加わって

「あ、課長もご一緒にいかがですか?」
と、結局3人で3等分。

なんなら部署中に配ってほしいところだが、アーサーが淹れた紅茶が美味しいと言う事を知っているのも自分だけで良いと思っているので、それをセットならこれが最善だ。


(俺様…どんだけ心狭いんだよ…)

はぁ…と頭をくしゃりと掻きながらため息をつくと、まるでギルベルトの心の中を読んだかのように、隣で本田がクスリと笑みを零した。



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