とある白姫の誕生秘話──給料の3カ月分と言わずとも5

──…ミアさん…ごめんなさい…帰りたい…

…と、アリアと呼ばれていた少女は言った。

そう、ミアさんと言ったのだ。


諸々がお姫さんに似たアリアと言う名前の少女と一緒にいるのが、ミアという少女。
ネット上でも仲良しのミアとアリア。

こんな偶然があるわけはない。
これは自分のお姫さんだ…。
ギルベルトは確信した。


本当にありえないことだが、お姫さんはリアルでも本当にお姫さんだったのだ。
そう思えば、最初の瞬間からひどく心を惹かれた事も納得できる。


ギルベルトは非常に現実主義者(リアリスト)ように見えて、実はこと恋愛に関してだけは縁遠かった分、ロマンティストだ。

好きな相手は人一倍守りたい。
強い日差しにも冷たい雨風にも当てたくないレベルで、この世の全ての危険な物、不快な物から遠ざけて、大切に大切にお守りしたい人間なのだ。

だからゲーム内で一見しっかりしているのにどこか危なっかしいお姫さんに惹かれてしまったわけなのだが、それが今、ゲームではなくリアル目の前にいると思えば、良くも悪くも動揺する。


できれば素性を明かしたい。
でも、お姫さんがネットとリアルは別と考える人間なら、ここで明かされたらネットでの関係も壊れる可能性も出てくる。
それは嫌だ。

少なくともいま、リアルでの自分はお姫さんに怯えられているらしい。
ここで強引な態度に出れば、おそらく自分もさきほどの男達と同類認定をされかねない。


珍しく決断できずに脳内グルグルしている間に時間切れ。

帰りたいと言ったお姫さんの言葉を受けたミアが

「あ、あのね、この子、アリアちゃんはあんまりこういうの慣れてない深窓のお嬢様なの。
今回のすごくびっくりしちゃったみたいで…だから、今日はもう車で送って行くね。
ルートにもルートのお兄ちゃんにも、お礼言いたいんだけど、また後日で良い?」
と、弟に断って、お姫さんを連れて帰ってしまった。


そうか…深窓の令嬢だったのか…。
それだと、もしかして…婚約者とかがいたりとかあるんだろうか……

自宅に帰ったらミアやお姫さんとの関係を弟に聞こう…そんな事を思いながら、いったんは予定通りトレーニングウェアを見に行って、食材を買って帰ったものの、その日に限って叔父が早く帰っていて、男3人キッチンに立つことにしたため、叔父の前で女性に関して…特に自分が惹かれているであろう女性に関しての話題を出すのは、なんとなく憚られて聞けなかった。


お姫さんのことを知りたい…確認したい…
でも知るのが怖い…

普段即断即決のギルベルトにしては非常に珍しいことだが、どうして良いかわからないまま悶々と悩んで夜が明け、翌日出勤して盛大にため息をついていて、周囲を動揺の渦に巻き込んだ…ということなのである。


こんなにどうして良いかわからない事は初めてだ。
だから聞かれるまま、全てを本田に打ち明けた。



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