とある白姫の誕生秘話──給料の3カ月分と言わずとも4

──え…?……アリア…ちゃん?

それはおそらく一瞬にして…しかしギルベルトの体感的には長い時間だった。

思わず腕の中の少女を覗き込んで…そして確認をする。



──ツインテールではないが、綺麗な小麦色の髪に夢見るような淡いグリーンの瞳。

キャラがイコール、リアルなわけはない。
それはネットゲームにおける不文律である。


──真っ白な肌に桜色の唇。

ネット上では可愛い女の子だとしても、中の人はオッサンなんて事はままあることだ。


──細く華奢な手足。

だから、ネット上のキャラに恋をするなんて馬鹿げている…でも……


(…お姫さ…ん??)

あまりに似ていた。

容姿だけじゃない。
自分の身の方も危険なのに敵わない相手から友人を助けようとする、悪気なく危なっかしいところも……

──俺様が来なかったら、どうしてたんだよ!危ねえことしてんじゃねえよっ!!

…と、ネット内だったら言っていたところだ。

だって他の奴なんてどうでも良いのだ。お姫さんさえ無事ならば……
それでも律義に助けようとしてしまうところが、ギルベルトの大切なお姫さんなのだが……


似すぎていて混乱する。

…が、こんなところで、あのお姫さんに出会うなんて偶然あるわけがない…。
と、無理矢理そう納得して、ギルベルトはとりあえず、事態を打開すべく動くことにした。

すみやかに邪魔者を排除して、“お姫さん”に確認を取るために……



──巻き添え食らわねえ程度に離れててな

と、前後左右の安全を確認して念のためお姫さんを後方へ避難させ、自分は弟がすでに2人は拘束している男達の方へ。

こうなったら男達に天誅をくだすよりも、速やかに退散してもらってお姫さんに話を聞きたいので、出来れば自主的に引いてもらいたい。

ルートに1対2なのに軽々拘束されているので、いい加減力の差はわかってもらえているのでは…と、思いつつも、一応

「てめえらっ!まとめて伸されてえか~?」

と、手のひらに握っていた胡桃を放り投げて受け止めると、それをバキっ!と握りつぶす。

手の中からパラパラと胡桃の殻が零れ落ちていくのを見て、1人はよほどの怪力だと思ったのだろう。
仲間を見捨てて逃げだして行った。

が、もう一人は威嚇されたことで追い詰められたらしく、うああーーー!!!と叫びながらこちらに向かってくるので、容赦なく蹴り倒した。

ルートの横方面に吹っ飛ばされる男。

これで今度こそいい加減、力の差はわかってもらえただろう。
そこで暗にではなく、はっきりとした言葉で退散の道を提示してやることにした。

「逃げるなら10秒やる。ルッツも反撃以外はストップな。
その間に逃げねえなら、まあ次狙うのは壊れるレベルの人体の急所だな。
じゃ、数えるぞ~。い~ち、に~ぃ……」

と、数え始めると、ギルベルトの意志を察して、天誅を下す気満々だったらしいルートは不満げに、しかしギルベルトの指示をしたがって、男達を解放する。
すでに1人逃げている男達は、それで我先にと走り去って行った。


それを見送って、ようやく一息。

これで話が聞ける…と、思って注意を向けると、アリア…と呼ばれた少女はひどく震えている。
こんなに怯えているのに、友人のために頑張ったんだな…と、少女の健気さに胸が熱くなった。

本当に…そんなところも“お姫さん”ぽくて、一刻も早く確認を取りたいのだが、それでもまず、青い顔で震えているお姫さんのフォローが優先だ…と、──大丈夫か?少し休むか?…と、声をかけて少し身をかがめてその顔を覗き込んだのだが、少女はそれにさらに怯えたように身をすくめる。

──お姫さんに怯えられたっ!

と、ギルベルトはその反応にショックを受けるが、今の彼女の状況を思えば無理もない。

決して同じような行動に出るつもりはないが、彼女にしてみれば、さきほどの男達も自分も同じ、知らない男だ。

だから違うのだ…と言う事を表明しようと、ギルベルトは即

「…っ…と、悪い。大丈夫。俺様は何もする気はねえからな?
そっちにいる俺様の弟のルッツはもう一人の子の友達だから安心してくれ」
と両手を軽くあげて、少女から一歩距離を置く。

しかしそれもあまり功を奏していなかったようで、少女はホッとしたようにもう一人の少女に駆け寄って行った。


だが、そこで…だ、もう一人の少女と手をとりあった瞬間に少女の口から漏れた言葉に、ギルベルトは衝撃を受ける。

そして、確信した。
彼女は確かにギルベルトの“お姫さん”だ。

なぜなら、その口から出たのは

──…ミアさん…ごめんなさい…帰りたい…
と言う言葉だったのだから…。



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