軽くランチを取ったあとは、とりあえず当初の予定通りトレーニングウェアを見に行こうと人で賑わう大通りを歩く。
そんな時ですら2人してトレーニングは忘れないとばかりに胡桃をにぎにぎと握り締めて、
「やべえ、俺様、最近デスクワーク多すぎて握力落ちたわ。
80切りそうな勢いだ」
「…80あれば十分だと思うが?」
「いや、兄ちゃんとしてはだな、弟には負けたくねえっつ~か?」
「じゃあ84以上を目指してくれ」
「げっ!!ルッツそんなにあるのかっ!!!
ゴリラかよっ!!!」
などと、他から見たら充分2人とも常人離れしているだろ!と突っ込みが入りそうな会話を繰り広げている。
それでも2人の間ではそんな会話がスタンダードだ。
2人の一番盛り上がる話題はなんと言っても筋トレなのである。
そして…筋トレが趣味というだけあって、片やムキムキ、片や細マッチョと違いはあるもののスタイルの良い兄弟が並んで歩いているとなかなか壮観で、顔立ちが整っていることもあって通りすぎる女性陣の何人かは振り返って行く。
そんな視線をものともせず、目指すは大手スポーツ用品のビル…のはずだった。
が、もうすぐ目的地が見えてくるという時である。
──だれか、たすけてえぇぇーーー!!!
という声。
若干機械的な感じがしなくもない。
録音したデータのようだ…と、ギルベルトはいたずらの可能性も考えて駆け付けるべきか一瞬悩むが、ルートの方はほんの少しの迷うそぶりも見せずに走りだしていく。
そうなればギルベルトも当然そのあとを追うことになった。
大通りからほんの数メートルの先の出来事だった。
男が4人。
少女が2人。
少女の1人は男の2人に両腕を取られている。
その男の方にはルートが走っているから、そちらはすぐ救出できるだろう。
そんな状況を目の端に入れながら、ギルベルトが向かうのはもう一人の少女の方だ。
いや、どちらかと言うと、少女の方に向かいながら、ルート側の状況確認をしていたというのが正しい。
何故だかはわからない。
でも認識した途端、身体が動いた。
守らなければ……と、瞬時に思ったのは何故だったのか…
キラキラと揺れる光色の髪に大きなまるいグリーンアイ。
肌は真っ白で頬は薔薇色。
確かに目の覚めるような美少女だ。
だけど、たぶん理由はそれじゃない。
どうやら連れの少女に手をあげようとしていた男の腕を必死に止めている。
1人でなら逃げられるかもしれない。
なのに、自分だって怖いだろうに、どうやっても力では敵わなさそうな男の腕にぶら下がるようにして、必死に止めているのだ。
男は少女を引きはがそうとして腕を振り回し、少女は暴風に吹かれる柳の枝のように揺れる。
それに向かってギルベルトは走った。
そうして間一髪、振りほどかれて倒れかかる少女を支えて受け止める。
ふわりと香る甘い花の香り。
腕の中でぐったりしている少女の様子に怒りが沸き起こった。
──てめえら、何してやがる…
強い感情の昂りに目の前が真っ赤に燃える。
何故そこまで怒りに駆られるのかはわからないが、容赦する気なんて欠片も起きなかった。
感情に流されるなんて愚かな事だと常々自制して、磨きに磨いている理性が音をたてて崩れていき、中から御しきれない獣のような凶暴性が顔を覗かせる。
もう一人の少女の方は無事ルートが救出したらしい。
というか、どうやら知り合いのようだ。
かろうじてそんな状況を感じとる。
だが、脳内は怒りに支配されすぎていて、ただ目の前の敵を倒す以外のことを考えられない。
まずい…まずい…まずい…
下手に感情のまま動けば相手に怪我をさせて過剰防衛だ。
と、脳内で警報がなる。
なのにおさまらない怒りの感情…。
だが、その強い本能じみた思いは、ルートに言われて自分の方に逃げて来た少女がもう一人の少女にかけた言葉で霧散するのである。
そう、──アリアちゃん、大丈夫だった?…のたった一言で……
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