とある白姫の誕生秘話──大親友1

終わった…俺の人生終わった……

さきほどまでの天国から一転、地獄に突き落とされた気分である。
女装した姿を今度入社する先の会社の上司になるであろう人間に見られるなんて最悪だ。
さすがに引かれただろう…というか、内定取り消しとかになったらどうしよう……

顔面から血の気が引いた。
俯いたまま顔をあげられず、身体の震えが止まらない。

──大丈夫か?少し休むか?

と、そんな状態でいると、いきなりギルベルトに顔を覗きこまれて、アーサーは驚きのあまりすくみあがった。

「…っ…と、悪い。大丈夫。俺様は何もする気はねえからな?
そっちにいる俺様の弟のルッツはもう一人の子の友達だから安心してくれ」

と、彼は両手を軽くあげて、アーサーから一歩距離を置いてくれた。

その彼の行動に、…え??と思う。

もしかして…バレてない??

もしそうならバレる前に一刻も早く退散を…と、思って、フェリに

──…ミアさん…ごめんなさい…帰りたい…

と、なるべく聞こえないように小さな小さな声で言うと、フェリシアーノの方はとても親しい友人なのだろう。ルートと呼ばれていた青年と会ってすっかり元気を取り戻していたが、

「あ、あのね、この子、アリアちゃんはあんまりこういうの慣れてない深窓のお嬢様なの。
今回のすごくびっくりしちゃったみたいで…だから、今日はもう車で送って行くね。
ルートにもルートのお兄ちゃんにも、お礼言いたいんだけど、また後日で良い?」

と、言ってくれて、2人の護衛の元、大通りでタクシーを拾って、2人と別れた。





こうして走るタクシーの中、フェリシアーノはただ、

「怖い思いさせてごめんね?」
と言ったのみだが、元々お泊まり会をするつもりで用意していたらしい、自宅の部屋に戻ると、もう大丈夫とばかりに開口一番

「もしかして…お兄ちゃんのほう、知り合い?」
と聞いてきた。


まあアーサーの反応を見ていたら人の感情の機微に聡いフェリにはバレバレだろう。

それ以上は言外にうながしてくる視線に、アーサーは今後の事もあるし、密室で他に対する気遣いも要らないし、何より色々打ち明けたい気持ちになっていて、彼が内定をもらった会社の面接官で、未来の上司になるであろう人物な事だけではなく、実は女性が怖い事、でもゲーム内での辛口発言をするミアといるのはすごく楽しかった事など、むしろ積極的に全てを話した。

「そっか…色々話してくれてありがとう。すっごく嬉しいよ。
ね、俺達、本当に友達になろう?」

アーサーが話した事は、ずいぶんと個人的な事ばかりで楽しくもない話だと思ったのだが、フェリシアーノはずっと興味深げに耳を傾け続け、全てを語り終わった時、そう言って両手でアーサーの両手を握って言った。

「お前がこれだけ話してくれたなら、俺も俺の秘密全部教えるよ。
俺ね、友達っぽい相手はいっぱいいるんだけど、“本当の友達”はいないんだ。
あ、ルートは別だけど…本物なんだけど…友達というのには俺の方からみるとちょっと違うから。
あのね、ゲーム内で“みんなのお姫様”であるミアは好きでも愚痴も言いたいし本音も言ったりするただのプレイヤーのミアが要らないのと一緒で、リアルでもね、皆が大切なのはロズプリの大家のヴァルガス家の次男の俺で、いつもそれにふさわしくしていないとすぐ要らなくなっちゃうから。
ただの俺を信用して好意を向けてくれたのは、ルートとお前だけだよ」

そう言うフェリシアーノのその言葉はアーサーにとって驚くべきことだった。
でもそれは不快なものではなくて、自分もずっと友人を作れずにいたから嬉しい、と言うと、フェリは

「じゃあ、今日から俺達大親友だね」
と、ふわりと花のように微笑んだ。



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