とある白姫の誕生秘話──NOUKIN兄弟と姫君達2

「君達、2人?俺達と遊びに行かない?」

ネット内ではよく声をかけられる事はあるが、リアルでそれを体験するとは思ってもみなかった。
まあ、いつもは男なので男にそういう目で見られると言う事がそもそもなかったのだが…。


フェリが行きたいという店までショートカットをしようと、人通りの多い表通りから少し脇道に入ったところで、おそらく付いてきていたのだろう。男4人組に声をかけられる。

「いえ、私達これから行く場所があるので…」
とフェリが断るも、
「少しくらい良いじゃん。一緒に遊ぼうよ」
と、腕を取られた。

どうしよう…と、そこでどうして良いかわからず脳内で色々がグルグル回る。

「車で来てるからさ、行こうよ」
と、背を押されて動揺した。

…どうしよう…どうしよう…どうしよう……

女性だからと思われているなら、実は男だとカミングアウトすればいいのかもしれないが、恥ずかしいし、それよりなにより、男だとわかったら今度は面白がられてからかわれたり、怒って乱暴されたり、あるいは写真を取られてネットなどにばらまかれて嫌がらせをされたりするかもしれない。

どちらにしてもアウトだ。
逃げなければ…と思うものの、男4人に囲まれていると、逃げるに逃げられそうにない。

「どっちも可愛いけど、俺、こっちの子が好みだな」
と、肩を抱いてくる腕の感触にぞっとする。

気持ち悪い…吐きそうだ……

すぐ後ろ、3,4m先には大通りがあって、そこには人が大勢行きかっているのに、まるで別の世界のようにそこに辿りつく事ができない気がする。

恐怖と緊張のあまり頭が真っ白になっていると、耳に飛び込んできた声…

──だれか、たすけてえぇぇーーー!!!

え??とそちらを見ると、なんとミアが片手に何か小さな機械を持って、もう片方の手で紐をひっぱっている。
なんだかわからないが音声系の防犯ベルのようだ。


「…っ…おっ…まえっ!!ふざけんなーー!!!」

状況を把握して、ミアの手から機械を取りあげる男達。
そして逆上した1人の手がミアに振りあげられる。

(…守らなきゃっ
ミアはお姫様で仕事の関係上、怪我でもしたら大変な子だ。

そう思って肩を抱く男の手を振り払って、振りあげられた男の手にしがみつく。
が、ぶん!!と振り回されてバランスを崩して後方に…

壁にぶつかるか道に倒れるか…と、思わず強張った身体は、しかし強い力で支えられた。

ふわりと鼻をかすめるコロンの香り。
一瞬感じるキリっとした香りが、やや時間を置くとどこかホットするような明るい雰囲気に変わる。


──てめえら、何してやがる…

頭上で感情を抑えた…しかし鋭い声が響いた。
どこかで聞いたような声……

そんな風にほんの一瞬アーサーがぼ~っとしていると、横を何かが鉄戦車のような勢いで通りすぎて、フェリシアーノを拘束する腕をひねりあげて彼を救出する。

「ルートっ!!」
と、目の前でキラキラした目で驚くほど体格の良い厳つい雰囲気の青年を見あげるフェリ。

「貴様はなんで性懲りもなくそんな格好でこんなところを歩いてるんだっ!!
良いから、兄貴の方に避難しておけっ!!」
「うんっ!!」

どうやら知り合いらしい。
外見に合った野太い声で怒鳴りつけられても、嬉しそうに頷くフェリ。
その指示に従って
「アリアちゃん、大丈夫だった?」
と、駆け寄って来た。

──え…アリア…?

それはすぐ下にいるアーサーにだけ聞こえるような小さな声。
そして、その声でようやく記憶がつながった。

そうだ、この声は……

アーサーが後ろの人物の腕の中から抜けだしてフェリシアーノに抱きつくと、

「…ま、あとでいっか。お姫さん達、巻き添え食らわねえ程度に離れててな」
と、後ろから人が離れて行く気配。

そしてアーサーとフェリの横を通り抜けて、前方の青年に合流。

「てめえらっ!まとめて伸されてえか~?」
と、手のひらに握っていたものを放り投げて受け止めると、それをバキっ!と握りつぶす。

ばらばらと手の中から零れ出るのは、胡桃の殻…。

その間に1人が彼に向っていくも、体勢を落としての見事な回し蹴りで脛を蹴りあげられて地面に転がった。

「逃げるなら10秒やる。ルッツも反撃以外はストップな。
その間に逃げねえなら、まあ次狙うのは壊れるレベルの人体の急所だな。
じゃ、数えるぞ~。い~ち、に~ぃ……」

その言葉にガタイの良い青年の方は複雑な表情を見せたが、不承不承といった感じでピタッと手を止め、男達は慌てて逃げて行く。

「兄さん…捕まえて警察に突き出さないで良かったのか?」

男達を見送って咎めるように言う青年に、彼は

「あ~、証拠ねえしな。
返ってこっちがやりすぎて過剰防衛と言われかねねえ。
それに…被害者保護が優先だろ」

「む…確かに……」
と、言う青年と共にこちらを振り向く男性。

そう、もうこの時点ではアーサーも気づいた。

(この人…バイルシュミット課長補佐だーーー!!!!)




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