その日はノアノアとギルベルトは揃って帰宅が遅くオーバーポイント稼ぎは22時からに…。
なのでそれまではたまたま暇らしいセイジとおしゃべりをしながらの素材狩りだ。
セイジの話だと彼はミアがまだレベル10台の頃に出会って、しばらく一緒にクエストなど色々していたのだが、やがてミアの周りの悪い友人が自分のことを避けるようにそそのかして、今、こうやって距離ができてしまったのだそうだ。
「ミアはね、悪くないんだ。あの子はすごく優しい良い子でね」
と、セイジは繰り返す。
あんなに避けられるようになってもセイジは決してミアのことを悪くは言わない。
相手の態度で自分の方も手のひらを返したりしない。
そんな姿勢はアーサーにはとても好感が持てた。
アーサーは泣かされる母を見続けて、自分も疎まれて育って来たため、実は争い事や悪意を向けられる事がとても苦手だ。
そういう機会が多いだけにいちいち傷ついた様子も見せないし怒りも泣きもしないが、1人になった時に人一倍滅入る。
だからこうやって一度心を許した相手に対しては絶対に中傷をしない人間はホッとする。
自分の事じゃなくてもホッとするのである。
言うなれば、それがある意味、あれだけギルや周りに止められてもセイジと距離を置かない理由だったりする。
しかしミアはどうしてここまで優しくてこちらの都合でなんでも手伝ってくれるセイジをそこまで嫌うのだろうか。
お互いリアルの話までするほどに気をゆるしていた仲で、さらにそのリアルでも気が合うようならなおさらである。
それはそれとして、リアルで好きな事やりたい事について、セイジに聞く前にギルが来て呼びもどされたので、聞けずじまいなのもあって、ミアほどの姫が好きなものが何なのか、非常に気になった。
なので後日、ミアに聞いてみた。
『え?リアルで好きなもの??
あ~、セイジさんの話ですかぁ~』
今日はお友達トークの日…と言う事で、ミアと2人、花咲き乱れる城の中庭の一つにあるベンチで歓談中だ。
もちろん…ミアに厳しく言われているので中庭には入ってこないが、中庭を望める城の廊下にナイト3大勢力を始めとするお付きがたくさん待機している。
そんな衆目の中でのおしゃべり。
内容はパーティ会話なので2人にしか聞こえないのに、彼らは何が楽しくてそうしているのだろうとは思うが、まあ別にアーサーが気にする事ではないので、放置する事にしていた。
そしてふと思い出して、良い機会だからと、気になっていたセイジの言葉について聞いてみると、ミアはコロコロと面白そうに笑った。
『それね…やりたい事…については謎だけど、好きな事に関して言うなら、好きなラーメンの種類の順番ですよ?』
『ラーメンの??』
『そそ。確か寒い日で、ラーメンでも食べたいねって彼が言いだして…。
その時、ミアね、醤油、塩、味噌、とんこつの順で好きでって言ったら、一緒だって。
で、彼がいつか一緒に食べに行けたらいいなって言っただけで…』
『…それだけ?』
『そう、それだけ。男の人って脳内補完がすごい人多いから…』
『あ~…そうかも……』
言われてアーサーも納得した。
確かに自分の周りのいわゆる“粘着”する人々もそう言う人が多かった。
それを思いだして、ちょっと以前、ギルがサブクラス上げをしている間に作ったサブキャラで遊んでいた時のことを話したら、ミアの興味をひいたようだ。
ネカマの星のところでひとしきり笑った後に、
『ミアも言われた事ありますよ?今更そんな事言ってもありえないって言われた事』
と、こくん、と小首を傾けた。
『え?!ミアさんもレイグラムさんとお知り合いだったんですかっ?!』
驚いて思わず乗り出すと、ミアは、ん~んっ…と、首を横に振って言う。
『えっと…ね、セイジさんに。
あまりに色々しつこいので、「ミア、実はリアル男の子なんですよぉ~」って言ったら、「ミアちゃんが男なんて今更そんな事言ってもさすがにありえないってわかるから」って言われたんです』
『なるほど…』
正直そんな事を言うのはレイグラムだけかと思っていたが、意外に言う奴がいると言うことに驚いた。
そして驚きで目を丸くしているアリアの前で、ミアがキャラキャラ笑う。
『まあ無意味ですよねぇ、リアルの性別なんて』
『ああ…まあ、そうですね。ネット上で知り合っても相手が本当はどんな方かわからない以上、リアルで会うとかないですし…』
『あ~、女性はそういう面もありますけど…』
『…けど?』
と、今度はアリアが首をかしげると、ミアはにこやかに宣言した。
『ストーカーされる人間て相手が同性でもされますし、されない人間は異性でもされませんからっ♪』
………真理だ…と、アーサーは感心しつつ、アリアでコクコクと頷いた。
ミアはアリアと2人きりの会話の時はしばしば一般ピープルの心をえぐるような直球の言葉をずけずけと言う。
彼女いわく、『ミアはぁ夢を売ってるんです♪』と言う事だから、他がいる時には絶対に言わないわけなのだが、アーサーはミアのそういう本音部分は嫌いではない。
…というか、結構好きだ。
弱くて言いたい事も言えず、ただ泣く事しか出来ない母親と、人づきあいが下手で友人もいなくて、平気なフリはしているけれど内心は色々自信がない自分…そんな世界で生きて来たので、彼女のいかにも愛されて幸せに育って来たんだなと思われるようなあっけらかんとしたところが大好きだ。
『そもそもね、こちらから言わないのに性別聞いてくる相手って下ごころアリアリな感じで、ミアはリアルで会おうとか言う気起きませんっ。
でも…アリアちゃんならリアル男性でも女性でも会ってみたいなって思いますよ?
リアルで恋愛もどきとか変な意味じゃなくてね。
ミアはリアルでは片思いだけど好きな人いるので…』
…アリアちゃんなら会ってみたい…
…アリアちゃんなら会ってみたい…
…アリアちゃんなら会ってみたいぃぃ?!!!
不覚にもテンションが上がってしまった…。
なにしろリアルで友人がいないので、そんな事を言われると社交辞令でも嬉しい。
しかも言ってくれた相手はそんじょそこらの相手ではない。
大勢のプレイヤーにとっても大切な大切なお姫様だ。
しかしそれが社交辞令ではなかったらしい。
なんとそれに続いた言葉は
『アリアちゃんにならミアのとっておきの秘密のリアル教えてあげますっ!
もし良ければ一度お会いしませんか?』
…だったのだ。
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