と聞かれたのは会社の忘年会の席の事だった。
なにしろ顔が良い。
キラキラした銀色の髪に、涼やかな切れ長の紅い綺麗な目。
高い鼻に薄めだが形の良い唇。
それが微塵の狂いもないほど完璧な配置におかれている。
一般人と言うにはあまりに目立つレベルの美形なので、しばしば道行く人が振り返って行くくらいだ。
さらに鍛錬が趣味の一つのため、スタイルが良い。
全身引き締まって筋肉質なのだが、やや細身のため筋肉で服のラインが崩れることなく、どんな服でも程良く綺麗に着る事ができる。
そんな彼のスーツ姿に見惚れる女性陣は日々あとをたたない。
もちろん容姿だけではない。
大学を2年間スキップしつつも首席で卒業した秀才で頭も良ければ仕事もできるため、現在大手企業の出世頭で課長補佐だ。
仕事が出来るから給与も高い。
モテないわけがない。
だから、『お付き合いしている方、いるんですか?(いないなら私が…)』という事はよく言われたわけだが、『どんな方』という聞かれ方は初めてだ。
「居る事前提かよ?」
と、ビールのジョッキを片手に苦笑すると、聞いてきた女子社員達の集団は
「だって、本田課長が『ギルベルト君には大切な方がいらっしゃるので』っておっしゃってましたし…
実際、クリスマスの日とかもすごい急いで退社されてたから、デートだったのかなと…」
と、上目遣いで言う。
「あ~…クリスマスか…」
ギルベルトは言って頭をかいた。
確かにデートだった。
少なくともギルベルト的には…。
まあ…相手はディスプレイの向こうではあるのだが。
12月20日~26日までの1週間、ゲーム内のあちこちにクリスマススポットが出来ていた。
街はもちろんなのだが、中にはダンジョンの奥などもあって、場所によってそれぞれ独自のイルミネーションを楽しめる。
そして25日にはその場所にサンタクロースが立っていて、その場所ごとに置物や装備などのプレゼントがもらえるので、みな、公式ではどこにあると発表はされないそのポイントを探してプレゼントを貰いに巡るのだ。
街中のポイントは普通に1人でも行けるが、ダンジョンの奥地などは普通に敵がいるのでソロでは無理だし、ギルベルトはお姫さんと2人でポイントを探してまわる約束をしていたのだ。
お姫さんは律義な人間なので多少時間が遅くなっても約束を違えたりはしないが、お姫さんとクリスマスを過ごしたい輩はたくさんいるので、あまりに待たせたら連れて行かれかねない。
だからギルベルトはその日は特に大急ぎで帰ったわけなのだが……
確かにデート。されどゲーム。
その大切な相手はオンラインゲームの中にいますとは、今まで自分がその手の事に否定的だったからこそ言いにくい。
そんなわけで思う。
ジジイ、一体どこまでしゃべりやがった?!!
そんな気持ちのまま、ギルベルトは本田に向かって叫ぶ。
「ジジイ!!何勝手に広めてやがるんだ!!」
すると、部長の隣で緊張した面持ちでぎこちなく杯を口に運んでいた本田が、
「あ、ちょっと呼ばれてるので行ってきますっ!」
と、途端に生き生きした目で立ち上がって、いそいそとギルベルトの方に駆け寄ってくる。
そして
「てめえ、お姫さんの事、どこまでばらしやがった?!!」
と酒が入っていて若干判断力が落ちているせいか、やや焦った様子で言うギルベルトと周りの女子社員達を見比べた。
「バイルシュミットさん、彼女さんの事、“お姫さん”なんて呼んでるんですか?!!」
「うあ~!こんなイケメンに“お姫さん”なんて呼ばれちゃうんだっ!!」
「いいなぁ~~!!彼女さん」
とたんに口々に叫ぶ女子社員達に、──しまったっ!!…という顔をするギルベルト。
そんな滅多にないギルベルトの失言に、本田は
「単に、ギルベルト君には大切な方がいらっしゃるんですよ、と、お伝えしただけですよ。
だって事実でしょう?
本当に…私が傍から見ていても、大切なんだなぁとわかるくらいに大切になさってますし?」
と、にこにこと答える。
「あ…もしかして本田課長はお会いになったことあるんですかっ?!
どんな方なんですか?!!」
と、その言葉に食いつく女子社員達。
それにもにこにこと
「大変可愛らしい方ですよ。
これ以上は…ギルベルト君に怒られちゃうので内緒です」
と、上手にかわす本田に、自分が失言をしてしまうくらいには飲んでいるという自覚のあるギルベルトは、それ以上その事に触れて墓穴を掘るのはやめようと、黙って目の前の芋をつぶすことに没頭する事にした。
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