と、そこでお姫さんの口から特定の名前が出て来たところで、(ああ、これいつものか…)と、ギルベルトは苦笑した。
お姫さんは可愛いオブ可愛いなので、特定の異性の名前が出てくる時は、たいてい粘着に悩まされている時だ。
まあ、ケイトの時の事もあるので、下手をすれば女性キャラでも中の人間が実は男で…と言う事もままあるのだが…
ギルベルトがそんな事を考えている間にもお姫さんの話は進んでいく。
『私、このゲームは1人で始めたので、ケイトさんにお誘い頂くまでって、ずっと1人でやってたんです』
『ほお?』
『初めてパーティに入ったのってレベル9でね、それまではソロで敵殴ってました』
『あ~、まあ知り合いいねえとそうだわな。
俺様は知人いたけどレベルが全然違うから、やっぱりそんな感じだったけど…』
『ですよね。だからね、サブキャラでもそんな感じのつもりで、アリアの方から少し装備だけは渡したんですけど、そのワンドで当分は街の外の弱い蜂でも殴ってレベル上げるつもりだったんですよ』
『なるほど?』
『でも…レベル4くらいになって、そろそろ蜂じゃなくてクマでも殴ろうかと思ってた時に、パーティのお誘い受けたんです。
なんでも、メインはブラックナイトなんだけどタンクもあげておくと便利だからナイトをあげ始めた方らしく、1人で殴っているのも退屈だから一緒にやりませんかって…』
(うん…まあ、今思いついた。
本当に今更だけどな。
本当に今更だけどな。
俺様もナイトあげてねえし?
どうせお姫さんがサブキャラでもホワイトメイジあげるなら、レベル20まではナイトで一緒にレベル上げして、レベル20になったらナイトの代わりに忍者でお姫さんのサブキャラとレベル上げすれば良かったんじゃね?
本当に今更だけどなっ!!)
と、それを聞いて内心ほぞをかむギルベルト。
しかしそんな風にギルが後悔に苛まれていても、お姫さんの話はどんどん続く。
『確かにヒーラーだと攻撃力ないし、前衛がいてくれると殲滅速度も速くて楽なんですよね』
(おおぅ!!本当に俺様のしたことがっ!!!)
『まあギルさんが忍者をあげている間の暇つぶしなので、別にレベル上げも急ぎませんし、レイグラムさんも別に急いでないということで、わりあいとのんびりおしゃべりしながらやってたんです』
(お姫さんとまったりおしゃべりしながら狩りだとっ?!そいつ潰すっ!!)
『ところが…ですね。レベル10くらいになって、普通にパーティ入れるようになっても、パーティ入らず、2人で狩りをするわけなんですよ』
(………)
『2人きりが良いとおっしゃって…』
(………)
『レベル上げならそろそろ6人パーティを組んだ方が?と提案すると、他のプレイヤーにアリスを取られてしまうから嫌だと言うので……』
(取られるも何も、元々お前のもんじゃねえっ!!)
『これ、まずい奴だなと思って、当初の予定通り言ったわけなんです』
『何を?』
『最初に話したじゃないですか。あれですよ。
──あたし実は男でネカマの星を目指してるんでぇ~す!☆
ってやつです』
(おぅ…そうだったな……)と思いつつも
『でも…今困ってるってことは、通じなかったってことだよな?』
と、突っ込んでみると、お姫さんははぁ~と大きく息を吐きだして肩を落とした。
『──今更それはあり得ない…って言われました。
今更ってなんですか、今更って』
『あ~…うん、まああれだ。
それまで女の子っぽすぎたというか……』
『えぇ?!でも頑張ったんですよっ!!
流行りのアニメとか見て研究したりして…
なのに
──レベル40になったら、ウェディングドレスと同じグラフィックのドレス装備できるようになるから、買ってあげるよ?
とか言われて、なんだか水商売のお姉さんになった気分でした』
(な、なんだ、それぇぇええーーー!!!)
ギリィ!!とリアルでコントローラを握る手に力を入れ過ぎたら、また、ミシリとコントローラがきしんだ音をたてた。
(お姫さんにキャバクラのホステス相手にするみたいな真似しやがって、そいつ絶対に潰す!!)
…と、頭に血が上りすぎて、アドバイスをしたのは自分なのを忘れてギルベルトは思う。
『それでね、これもう説得は無理だと思って、レイグラムさんがまだログインしないうちにこっそり野良パーティに入ってレベル上げしちゃったんですけどね』
『…ああ』
『なんと待ってるんですよ。
メインのブラックナイトになって、狩りをしているパーティの横で』
メインのブラックナイトになって、狩りをしているパーティの横で』
『はあぁぁ~~???』
『結局…パーティのリーダーさんが気を使ってしまわれて「もう、ここで解散しましょう」ってなって、解散しました…』
ギルベルト自身の感情はおいておいても、狩りをしている低レベルパーティの横で70レベルのメインジョブで待っているとか、もう普通じゃない!!
どうしてお姫さんはそういう輩を呼んでしまうのだろうか……
ともあれ、それは充分な理由づけになる。
『お姫さん、とりあえずアドバイスだ』
『はい…』
『そいつはマジやべえ奴だ』
『…ですね……』
『メインキャラ知られる前に、そいつをフレンドリストから削除。
それからブラックリスト入りして、即サブキャラ消して証拠隠滅しとけ』
『らじゃっ!!』
いつもは邪険な態度を取ることに躊躇するお姫さんもさすがにここまで来ると異常事態を感じたらしい。
プチっと素直にフレンドリストから削除して、相手に気づかれる前にと、せっかく育てたサブキャラではあるものの、サクっと削除をして、メインのアリアに戻った。
「ただいまです~♪」
と、ギルドハウスの部屋にメインキャラで戻って来たアリア。
久々に見るお姫さんはやっぱり可愛い。
「今回はゴメンな?
俺様の判断ミスで怖い思いさせた。
それでな、俺様考えたんだけどな、今度何かあげないといけないジョブが出来た時には、サブキャラまで作るくらいの気があるなら、他のあげてないジョブで2人一緒にあげればいいんだよな」
「あ~!そうですねっ!!」
お姫さんの頭を撫でこ撫でこしながらそう言うと、一瞬目を丸くしたあと、ふわりと笑った。
「んじゃ、今日は久々にレアモン狩りに行こうぜ!」
「はいっ!!」
シュンっ!と2人でメインジョブに戻って、ギルは育てたての忍者をサブクラスにつける。
そうして2人は本当にひさしぶりに、2人連れだって、レア装備を落とすモンスターを狩るために、ギルドハウスの外に出たのだった。
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