アーサーは帰宅して買ってきた夕食をレンジに放り込んでチンしながら、今日の面接のイケメン試験官を思いだした。
まあまだ3年生だし、ここで決まらなくてもまだ1年あるから良いと言えば良いのだが、出来れば早めに決めてゆっくりしたい。
そんな気持ちで始めた就職活動だったが、無理めだと思っていた第一志望の有名外資系企業の最終面接まで残れてしまった。
受かるかな…受かるといいんだけど…
一応会場では自分のことを欲しいのだと言ってくれた部署があって、その部署の若い課長補佐は合格と言ってくれたが、それはあくまで彼がしてきた質問に対してのアーサーの答えに対してなのだろうから、会社の合否とはまた別物だろう。
そもそもが、会社の採用試験というものはそういうものなのはわかっているが、試験に面接があるという時点で受かる気がしない。
だって自分は今まで友達の1人も作れずに来たのだ。
初対面の相手に好印象なんて与えられる気は全くしてこない。
若い課長補佐が話題にあげた例の件だって、転んで周りに遠まわしに笑われている図が昔よく見た光景を思い起こさせて、自分が嫌だっただけだ。
その時笑われていたのは、アーサー自身の母親だったのだが……
何故そういうことになっていたのかは当時幼かったアーサーにはわからないが、記憶にあるのは父の親族の集まりにでることに怯える母と、それでも母を集まりに連れて行きたがる父。
そして、周りの親族やその配偶者の女性達は母よりも随分と年上で、いつも皆で母に何か言って母が泣かされ、しかしそれをかばう事もなく笑ってみている父の姿だった。
今にして思えば当時の母は父の兄弟の配偶者と比べてもずいぶんと若かったようで、その年齢差がきつい言葉を投げつけられる要因の一つだったのかもしれない。
とにかく、あの時、床にへたりこんで泣きそうになっていたあの学生が、いつもいつも悲しい思いで見ていた母のそんな姿に重なったのだと思う。
当時はアーサーも小さくて、自分も一緒に泣きながら母に寄りそう事しかできなかったが、今目の前の相手には適切な救いの手を与える事ができるのだ。
そう思ったら、手を差し伸べずには居られなかった。
しかし面接の会場でまさかそんな事まで話すわけにもいかず、当たり障りのない言葉でごまかしてみたら、面接官をするくらいの相手にはそんな詭弁は当たり前に見抜かれていて、その時に本当にそう思ったのか?と聞き返されてしまった。
ごまかせない…そう思って出て来た言葉は
『…いえ。単にとても困って見えたので…』
と、ありきたりのもので、一応それで合格と言ってはもらえたけど、実際はどう映ったのだろうか…。
緊張しすぎて、その面接官がサラサラの銀髪に実に珍しい赤い眼をした、モデルか俳優かと思ってしまうほどに整った容姿の男性で、黙っているとどこかキツイ印象を与えるのに、笑うととても人懐っこい感じのする人だったと言う事以外、本当に記憶にない。
それでも、日々あんな上司にあんな笑みを向けられて働けたら幸せだろうな…と、何故かそんな事を思って、部署の希望はその面接官のいる開発部にしておいた。
名前は確かギルベルト・バイルシュミット。
バイルシュミット課長補佐だ。
「…受かるといいなぁ……」
チン!と小さな音で弁当を温め終えた事を知らせてくる電子レンジからやけどをしないように注意深く弁当を取りだすと、アーサーはそれを持って、机に向かい、食べながらテキストに目を通す。
大学が始まってからも21時から24時まではほぼ毎日ネットゲームに時間を費やしているので、その他の時間を少しでも有効利用しなければならない。
そう、勉強が本分ではあるのだが、この時間だけは削れない。
このゲームの中にはアーサーがもう一人接していたい相手、竜騎士のギルがいるのだから…
とある白姫の誕生秘話始めから
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